艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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239話 ジョンストンの抱き方(4)

「来た来た」

 

食堂にはイントレピッドが一人いた

 

「ジョンストンが描いた絵だ」

 

「見せて‼︎」

 

食事をしながら二人の会話が聞こえていたので、イントレピッドにジョンストンの絵を見せた

 

「ふふっ‼︎上手に描けてるわ‼︎これはジョンストンでしょ〜、お昼のサンドイッチと…あっ‼︎オヤツのクッキーね‼︎」

 

ヴィンセントは冷蔵庫からミルクを取り出し、コップに注ぎながらイントレピッドと話を続ける

 

「ありがとうな、ジョンストンの面倒見てくれて」

 

「ううん‼︎全然良いの‼︎…ねぇ、ヴィンセント⁇」

 

「なんだ⁇」

 

「子供の抱っこの仕方…もしかして知らない⁇」

 

ヴィンセントの手が止まる

 

「…何故そう思う」

 

「いやぁ…ヴィンセントがジョンストンを抱っこする時、ちょ〜っとエグいかなぁ〜‼︎なんて‼︎」

 

「エグいのか、私の抱き方は」

 

「まぁ…」

 

「どうすればいい」

 

普段から真面目なヴィンセントは、今まさに更に真面目になっている

 

その目は真剣そのもの

 

その目を見たイントレピッドは、少しずつ追い詰められている気がした

 

「ジョンストンは抱っこして欲しい時、手を広げてるでしょ⁇」

 

「言われてみれば」

 

「脇から手を入れて抱っこすればいいの‼︎」

 

「…落ちないか⁇」

 

「落ちないわ‼︎」

 

「どれ」

 

ヴィンセントはコップを置き、イントレピッドの前に立った

 

「私で試したい⁇」

 

「練習しておきたい」

 

「んっ、いいわ‼︎」

 

こう言った事にはオープンなイントレピッド

 

すぐにヴィンセントに向けて手を広げて、こう言った

 

「パパ、抱っこして⁇」

 

ヴィンセントは言われた通りにイントレピッドの脇に手を入れ、抱え上げようとした

 

イントレピッドはその際、ヴィンセントの首に手を回した

 

「よっ‼︎」

 

勿論上がらないが、筋は合っている

 

「そっ‼︎上手よヴィンセント‼︎」

 

「なるほど…これで良かったんだな」

 

「立派なパパよ、ヴィンセント⁇」

 

「…ありがとう」

 

抱き合ったまま、見つめ合う二人

 

互いに同僚で気の知れた存在だからこそ、こんな事が出来る

 

「…たまにはキスでもする⁇んっ⁇」

 

イントレピッドはヴィンセントの額に自身の額をコツンと当てた

 

ヴィンセントは黙ったままだが、目を閉じて満更でもなさそうな雰囲気を醸し出している

 

「…ガンビアがいるから、止めておくよ」

 

「へっ…」

 

硬い瓶が床に落ちる音がした

 

「「リチャード‼︎」」

 

たまたまジュースの瓶を捨てに来たリチャードに事を見られた

 

「あ、あいやいやいや‼︎おおお盛んだ事‼︎」

 

「いつからいたの⁉︎」

 

「さ、最後の方⁉︎かな⁉︎」

 

「言うんだ、リチャード」

 

「食堂で夜の運動し始めた位から」

 

この時のリチャードの顔は、ビックリする位の真顔

 

「ぜ、全部ではない‼︎断じて違う‼︎」

 

「…まぁいいさ。見たのがお前で良かったよ。ははは」

 

「正面からハッスルするなんて珍しいと思ってな‼︎はっはっは‼︎」

 

「リチャード⁇」

 

「はっはっは…は…はい…」

 

ゆっくりとイントレピッドの方を向くリチャード

 

「あ…あはは…」

 

イントレピッドの顔は満面の笑み

 

「ど〜してさらっとベッドの上の話バラすの⁉︎」

 

その顔を見て、リチャードはヴィンセントの方を向いた

 

「ゔぃ、ヴィンセント‼︎今日は奢ってやるよ‼︎なっ‼︎那智BARに行こうな‼︎うんうん‼︎」

 

肩をポンポン叩きながら、ヴィンセントを玄関に押して行く

 

「…分かったっ‼︎」

 

鼻でため息を吐くも、ヴィンセントの顔は笑っている

 

「怒らないなら、巨乳のネーチャンとも飲みたいんだけどなぁ〜」

 

イントレピッドもため息を吐いた

 

だが、その後に見せたのは、イタズラに微笑むいつものイントレピッドだった

 

「分かったわよ‼︎三人だけの秘密よ⁉︎」

 

「へへ、そうこなくっちゃ‼︎」

 

こうして、同期三人の夜は更けて行った…

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「びんせんと、かぴかぴ」

 

「少し昨日の疲れがな…ははは」

 

「りちゃど、かぴかぴ」

 

「今日は訓練おやすみしたい…なぁ、ヴィンセント…」

 

「あぁ…無理、だな…」

 

二人共何故か干からびており、机に突っ伏していた

 

「さぁっ‼︎今日も一日ハッピー‼︎元気モリモリで行きましょう‼︎」

 

「いんとれ」

 

対するイントレピッドは元気ハツラツのお肌ツヤツヤ

 

「つやつや」

 

「ふふ…ジョンストンも大きくなったら分かるわ⁇」

 

「「要らん事を吹き込むな‼︎」」

 

性格が真逆な二人の言った事が合致し、互いに拳を合わせた

 

「今日のオヤツはチョコマフィンよ‼︎」

 

「やった」

 

イントレピッドがジョンストンのリュックにオヤツを入れたのを見て、ヴィンセントが立ち上がった

 

ヴィンセントが立ち上がったのを見て、ジョンストンが手を広げた

 

イントレピッド、リチャード、そこに居た早番のパイロット達の全員が生唾を飲む

 

またエグい持ち方なのか…

 

それとも、イントレピッドから学んだ抱き方なのか…

 

「よいしょっ‼︎」

 

「わ」

 

今度はちゃんとジョンストンの脇に手を入れて抱き上げた

 

「ありがと」

 

「怪我しないようにな⁇」

 

「いてきます」

 

ジョンストンは誰よりも早く寮舎を出て遊びに行った

 

「上手よヴィンセント‼︎」

 

「上手いじゃないか‼︎」

 

「凄いです中将‼︎」

 

「バカッ‼︎からかうな‼︎」

 

それでも皆に褒められ、ちょっと満更でもないヴィンセント

 

その日以降、ヴィンセントが子供達を抱っこする時、エグい持ち方をする事がなくなった…


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