艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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237話 龍が愛した騎士(4)

「持って来ましたぁ〜」

 

「蒼龍さん…アイタタ…」

 

ベイルアウトした時に体を海面に打ち付けた衝撃が来ていた

 

「座れますかぁ〜⁇」

 

「えぇ…よいしょ…」

 

森嶋は何とか体を起き上がらせた

 

「蒼龍を知ってるんですかぁ〜⁇」

 

「えぇ。上空からっ、何度か演習を拝見しましたっ」

 

「そう…」

 

痛そうな体を起き上がらせながら、蒼龍が持って来たお粥とスープを見た

 

「いい匂いです」

 

「誰もあげるなんて言ってませんよぉ〜⁇蒼龍が食べるんですぅ〜。森嶋さんの横でぇ〜」

 

蒼龍は本当に森嶋の真横でそれらを食べ始めた

 

確かに一言も、食べさせてやるとは言っていない‼︎

 

「ハフハフ…」

 

「アムアム…」

 

「ズズッ…ゴクッ。あ〜」

 

しかも、いやらしく美味そうに食べる

 

「ふふ…」

 

だが、森嶋はそんな蒼龍を見て微笑んでいる

 

「美味しそうに食べますね⁇」

 

「美味しかったですからねぇ〜」

 

森嶋が見つめる中、蒼龍はお粥もスープも一口もあげる事なく、本当に横で食べるだけ食べて部屋を出て行った

 

 

 

 

「レイさん‼︎」

 

蒼龍が食堂に戻って来た

 

「ありがとうな、蒼龍‼︎」

 

相変わらず蒼龍が俺を見る目は獲物を狩る目だ

 

「いえいえ〜。指二本位頂ければぁ〜」

 

相変わらず指を狙って来る

 

「うっ…とっ、とりあえず‼︎森嶋の顔を見ていいか⁇検査しておきたいんだ」

 

「どうぞぉ〜。蒼龍のお部屋にいますぅ〜」

 

「ありがとう」

 

診察器具を入れた箱を持ち、蒼龍の部屋へと向かう

 

「い、行ったぜ…」

 

「マーカスさんは蒼龍の部屋から唯一生還した人だ。蒼龍も悪さしないと知ってるから気前良く入れられるんだ」

 

江風とトラックさんの目線の先には、再び厨房に立つ蒼龍の姿

 

また何かを作っている…

 

 

 

「入るぞ〜」

 

「隊長…申し訳ありません。大切な試作機を…」

 

「んなもん気にするな。お前が生きてりゃそれで良い。南山はまた改良でもするさ。診察だけしようと思ってな」

 

「ありがとうございます」

 

聴診器を耳に当て、内臓の音を確かめる…

 

特に異常は無い

 

次に血圧と脈拍

 

若干脈拍が高いが、問題は無い

 

体温は…

 

「少し体が冷えてるな。ちゃんと布団被れよ⁇」

 

「はい」

 

「きそ‼︎」

 

「…入っても大丈夫⁇」

 

きそは入り口から半分だけ顔を見せ、様子を伺っている

 

「大丈夫だ‼︎」

 

「うんしょ…よいしょ…」

 

巨大な機材を引っ張って来たきそ

 

「森嶋さん。じっとしててね⁇」

 

「はい。きそちゃん」

 

きそは手に小さな機械を嵌め、森嶋の頭から下半身に掛けてそれをかざす

 

「左腕に筋肉痛…あ、右足捻挫だね」

 

「しばらく安静だな⁇」

 

「情けないです…」

 

「まっ、気にするな‼︎休暇を取れたと思っとけ‼︎」

 

「どれ位休めば…」

 

「経過にもよるが…まぁ、三日って所だな。心配するな、サンダースの連中にも休みを取らせた」

 

「みんなお休みだから、森嶋さんもお休み‼︎オッケー⁉︎」

 

「分かりました」

 

森嶋の顔は、少し浮かない顔をしていた

 

機体を潰した事に対して罪悪感があるのだろう

 

「まっ…あれだ。誰か様子を見に来るかも知れん。”相手をしてやってくれ”」

 

「あ、はい。分かりました」

 

きそと機材を連れ、蒼龍の部屋を出た

 

 

 

 

「謝礼はする。しばらく森嶋を頼みたい」

 

「勿論ですよ、マーカスさん。謝礼なんて要りませんよ」

 

「ありがとう。それと、時々派遣を送る。暇しない子をな⁇」

 

「畏まりました」

 

「気を付けて帰ンだぜ‼︎」

 

「バイバイ江風ちゃん‼︎」

 

「じゃーなー‼︎」

 

トラックさんと江風に見送られ、俺達はトラック基地を後にした…

 

 

 

 

その頃、蒼龍の部屋では…

 

「…」

 

先程あんなに美味しそうに食べるのを見せられた森嶋の腹の虫が鳴る

 

流石に空腹には勝てない

 

今はジッと堪えるしかない

 

コト…

 

ベッドの脇の机に何かが置かれた

 

「お腹空きましたよねぇ〜」

 

「あはは…聞こえましたか⁇」

 

「今度は貴方の分ですよぉ〜」

 

ベッドの脇の机には、一人用鍋とお茶碗一杯分の白ご飯

 

「食べられそうなのでぇ〜こっちにしたんですよぉ〜」

 

「おぉ」

 

一人用鍋の蓋を開けると、中にはうどんが入っていた

 

それも、お肉がゴロゴロ入っていて非常に美味しそうな出来たてのうどん

 

「頂きます‼︎」

 

ようやくありつけた食事を前に、森嶋はすぐに箸を握った

 

「ズズズッ…」

 

「美味しいですかぁ〜⁇」

 

「はい‼︎とっても‼︎」

 

「全部食べていいですからねぇ〜」

 

このうどんも、先程のお粥やスープも、全て蒼龍の手料理

 

トラックさんの料理技術を、蒼龍は家庭料理としてキチンと継いでいる

 

味も美味しく、量も多い

 

普通に満足に至る料理を、蒼龍は簡単に作る事が出来る

 

それを知っているのは、トラック基地以外では森嶋が初となる

 

「全部食べましたねぇ〜」

 

「とても美味しく頂きました‼︎」

 

「ふふ…」

 

蒼龍は不敵に笑う

 

いつこいつを食ってやろうか

 

三日後の帰る寸前に食ってやろう

 

体調が戻って、いざ基地に復帰の兆しが見えた瞬間が美味しそうだ

 

そんな考えをしている

 

そんな蒼龍の考えをつゆ知らず、森嶋は蒼龍に笑顔を返した…

 

 

 

 

その日の夜…

 

モソモソ…

 

「ん…」

 

ギュウ…

 

森嶋は寝苦しさで目を覚ました

 

「そ、蒼龍さんっ…」

 

「私のベッドですからねぇ〜。私が寝るのは普通ですよぉ〜」

 

森嶋は完璧に蒼龍に抱き抱えられ、身動きが取れずにいる

 

…が、顔が真っ赤になっている

 

「あ‼︎あのあのそそ蒼龍さん‼︎」

 

「体を温めないといけませんからねぇ〜」

 

森嶋はそれ所ではない

 

蒼龍の柔らかい部分が全身に当たって、理性が死にかけていた

 

「さ〜、鼻から深呼吸してぇ〜」

 

「すぅ〜…」

 

蒼龍独特の甘い匂いが鼻に入り、無意識の内に森嶋の体から力が抜ける

 

「口から吐いてぇ〜」

 

「ふぅ…」

 

その瞬間、蒼龍は森嶋を抱き締めていた手を後頭部に起き、そこを撫で始めた

 

「大丈夫ですよぉ〜…ネンネですよぉ〜…」

 

「…」

 

森嶋の体に血が巡る…

 

安心したのか、数分もしない内に蒼龍の胸に顔を”置かされ”ながら、森嶋は眠りに就いた…

 

「ふふ…良い子ですねぇ〜…」

 

今、森嶋にしている事を、時々蒼龍にしてくれる人がいる

 

蒼龍はつい最近、ようやく母親の愛情を知った

 

今まで好きな人は殺すのが最上級の愛情表現だった蒼龍が、その人が蒼龍に人の愛し方を教えてくれた事で次第に薄れて行った

 

子供達から好かれ始めたのも、その為である

 

ただ、食いたいと思う事に変わりは無い

 

蒼龍は未だに悪人を本当の意味で食う

 

しかし、それ以外は本当に収まって来た

 

蒼龍に足りなかった、母親の愛情を与えた人物…

 

それは…


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