艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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231話 疑惑と謎(5)

「覚悟は…出来てますねっ…⁉︎」

 

「うぬぐぐぐ…」

 

涼月は真顔のままダイダロスさんに歩み寄り、壁に寄せる

 

「最後に、言い残す事はありますかっ…⁇」

 

「てやんでぃラーメン、食べたかった…」

 

その言葉に涼月は顔色を変えた

 

「二杯でどうですっ…‼︎」

 

「た、助かりますか⁇」

 

「助かるも何もっ…涼月は少し強請ってみただけですっ…‼︎」

 

涼月の口角が優しく上がる

 

「最初から爆破するつもりはありませんっ…ただ、少し…」

 

「少し⁇」

 

「貴方の身を心配しただけですっ…‼︎」

 

今度はイタズラにダイダロスさんに顔を近付ける涼月

 

「ありがとう、涼月…」

 

「…」

 

「…」

 

互いに目を見合うが、互いに何も言わない

 

「…気不味いので軽く爆破をっ…‼︎」

 

涼月はすぐに何処からか爆弾を取り出す

 

「わわわ分かった分かった‼︎帰りましょう‼︎」

 

「はいっ…‼︎」

 

涼月に尻に敷かれつも、結局は仲の良い二人

 

ダイダロスさんは、涼月に爆弾を放り投げられる日常も、何となく悪くないと思い始めていた…

 

 

 

 

 

二人を迎えに来たガンビア・ベイⅡ

 

「大尉‼︎元帥‼︎」

 

ガンビアから降りて来たのは、今回の一件の張本人である棚町

 

棚町は俺達に気づくや否や、すぐに駆け寄り、深々と頭を下げた

 

「疑われるような行動をしてしまい、大変申し訳ありませんでした‼︎」

 

「私の権限で、今から話を聞かせて貰うわ。それで今回の件はおしまいにしましょう⁇」

 

「畏まりました‼︎」

 

「申し訳ありませんでした‼︎」

 

「アタシ達のリーダーを疑うなんて…本当に申し訳が立たないよ…」

 

岩井もボスも棚町に頭を下げた

 

「頭を上げて下さい‼︎言わなかった私が悪いんだ…ダイダロスさんにも、涼月ちゃんにも悪い事をしてしまって…」

 

「涼月も謝りますっ…‼︎」

 

「自分の所為でこんな事になってしまい…申し訳が立ちません…」

 

「良いんです。遅かれ早かれ、大尉にも元帥にも言う日が来ていましたからね‼︎」

 

「ダイダロスさんはっ…涼月がこれから爆破しますのでっ…ねっ⁇」

 

頭を下げつつ、涼月はダイダロスの横顔を見た

 

「ば、爆破されましゅ…」

 

「そういう事よ‼︎」

 

横須賀の言葉で、謝罪の嵐は締めくくられた

 

「お父さん、お母さん、涼月は後でダイダロスさんと共に帰りますっ…‼︎」

 

「ダイダロスさんに迷惑かけちゃダメだぞ‼︎」

 

「頼んだよダイダロス‼︎」

 

「了解しました‼︎」

 

岩井さんとボスが帰路につき、涼月とダイダロスさんが繁華街に向かう

 

「今日はありがとうございましたっ…‼︎」

 

「我々はこれから繁華街で少し食べてから帰ります‼︎」

 

「良いカップルよっ‼︎」

 

「年の差だなっ‼︎」

 

涼月とダイダロスさんが見つめ合う

 

「…恥ずかしいので爆破してもっ…⁇」

 

「ああああ分かりました分かりました‼︎」

 

二人の後ろ姿を、棚町を含めた三人で見届ける

 

「基地でもあの様な感じなんですよ」

 

「常日頃爆弾から逃げ回ってんのか⁉︎」

 

「えぇ」

 

「まっ⁉︎いいんじゃない⁇二人共嬉しそうだし‼︎」

 

そう言う横須賀の足取りも、繁華街に向いている

 

吸い込まれる様に入ったのは、蟹瑞雲

 

「日向〜、個室開けて頂戴」

 

「一番奥だ、いつもので良いか⁇」

 

「えぇ。三人前ね」

 

小慣れた注文をし、三人で個室に入る

 

「日向が来るまで少し時間があるわ」

 

「では、その前に話しておきましょう」

 

棚町が口を開く

 

 

 

棚町はずっと深海の研究をしている

 

マークやサラとは違った方向性で、深海から如何に人や艦娘へと戻るのか…其方側の研究をずっと続けている

 

長波は棚町が計画的に産み出した、少し特殊な艦娘

 

生身の艦娘でありながら、深海の艤装を持てる

 

その習性を利用し、深海の艤装解析を進めていた

 

危険な艤装は破壊した上、廃棄

 

比較的安全性のある物は、艦娘の艤装へと転換する場合もある

 

 

 

「今まで黙っていて、申し訳ありませんでした…」

 

「も少し早く言ってくれたら、レイも深海の艤装を提供してくれるわ⁇」

 

「ホントだぞ。何なら、この基地にもある」

 

「いいんです。自分が言わなかった事で撒いた種ですので…あぁ‼︎裏切るとか、貴方がたの敵に回る等は絶対にありませんので‼︎」

 

「なぁに⁇何か根拠でもあんの⁇」

 

横須賀が頬杖をつきながら、棚町の顔を見る

 

「幸せなんです、かなり」

 

しかし、棚町は俺の顔を見る

 

何となく、横目でチラっと横須賀を見た

 

…何故俺をジト目で見る‼︎

 

「お、お〜お〜‼︎そうかそうか‼︎」

 

「大尉のおかげですよ、本当に」

 

棚町は更に地雷を撒き、俺を追い込む

 

「そんな大尉を敵に回すなんて…自分にはとても…」

 

「そ、そ〜かそ〜か‼︎」

 

ビクビクしながら横須賀を見る…

 

普通の顔だ…良かった…

 

「そうだ。これも棚町が考えたんだよな⁇」

 

俺は左腕を見せた

 

「倉田甲冑‼︎どうやってそれを⁉︎」

 

「ヤマシロを救出した際に頂戴したんだ」

 

「ヤマシロ…」

 

棚町の顔が暗くなる

 

「ヤマシロに合わす顔がないか⁇」

 

「死んだと思ってますよね…」

 

「そうだな…それに、今は彼氏もいる」

 

「なら、そっとしておきましょう‼︎そうだ、これを見て頂いた方が早いでしょう‼︎」

 

棚町の鞄から書類が出て来た

 

今日はやたらと書面を見てる気がする…

 

渡された書類を見ていると、個室の外から声がした

 

「すみません‼︎2名です‼︎」

 

「奥の個室だ」

 

「来たわね」

 

俺だけ誰が来るか分からずにいたが、横須賀と棚町は分かっているような素振りでいる

 

個室の扉が開き、2名様が入って来た

 

「「先生‼︎」」

 

「健吾、健一…」

 

来たのは息を切らした健吾とワンコ

 

「さ、レイ。帰るわよ」

 

「分かったっ‼︎」

 

これは帰った方が良さそうだ…

 

 

 

 

「君達五人には合わせる顔が無いよ」

 

健吾もワンコも棚町の対面の席に座り、話を始める

 

棚町は二人に目を合わせようとしない

 

「どうして言ってくれなかったんですか‼︎」

 

「今の今まで恨むしかなかったんですよ⁉︎」

 

「それでいいんだよ…それで。私は君達五人を売った…それは事実だ」

 

棚町は何かを隠すかのように、タバコに火を点けた

 

「じゃあ、一つだけ聞かせて下さい」

 

「いいよ、何でも」

 

「どうして俺達だけ生き残ったんですか」

 

「…」

 

その問いに、棚町は黙ってしまう

 

「俺達五人だけですよ、生き残ったのは…」

 

健吾とワンコの同級生は、あの五人だけ

 

調べれば数人は生きているかもしれないが、ほとんどは先の戦争で行方が分からなくなっていた

 

「本当は俺達を売ったんじゃなくて、匿ってくれたんじゃないんですか⁉︎」

 

「いや、金は貰ったよ。だからこそ、あの時山城と逃げられた」

 

「本当は貰ってないんですよね⁇」

 

「やめてくれ…本当に私は…」

 

「ありがとうございます、先生‼︎」

 

「助かりました‼︎」

 

タバコの灰を落とした後、棚町はクスリと微笑んだ

 

「ふ…相変わらずバカだなぁ…何にも知らないまま、私を恨み続ければ良かったものの…」

 

棚町は健吾達五人を売った訳ではなかった

 

健吾達五人の生徒には艦隊化計画の適合があり、棚町はそれを身体検査で知っていた

 

そして、五人だけでも救おうと奮闘した

 

結果、マークとサラが四人を引き受けた

 

棚町はその後、一度はレイによって仮死状態に

 

しばらく山城と共に静かに暮らした後、国外に逃亡しようとするが、道中で国家機関に取り押さえられ、山城だけが逃亡した

 

棚町の足取りはそこで一旦途絶えた

 

そして、倉田と言う名を変え、棚町として大湊を任された

 

それを先程の会議で伝えられた二人が今、先生であった彼に逢いに来たのだ

 

「俺達の基地に物資が滞り無く届いていた時点で気付くべきでした…」

 

「せめてもの謝罪さ…許して貰おう等とは考えてないさ」

 

「許すも何も…‼︎あ、そうだ‼︎今度、同窓会しましょうよ‼︎榛名もまりもりさも呼びますよ‼︎」

 

「私が行った所で…」

 

「ワンコ‼︎」

 

「んっ‼︎」

 

ワンコが咳払いをし、目が真剣になる

 

「棚町」

 

「はっ」

 

「これは横須賀元帥からの命令だ。従わなければ軍法会議だ。いいな」

 

「…」

 

「先生‼︎」

 

棚町は見た

 

自分より遥かに年下である彼が、今、自分の為に本気になっている姿を

 

「分かったっ。その時に、三人にも事実を話すよ」

 

「よしっ‼︎」

 

「待たせたな」

 

丁度蟹鍋も来た所で、一番最初の小さな同窓会が開催された…

 

 

 

 

「美味しいですねっ…‼︎」

 

その頃、涼月とダイダロスさんはてやんでぃラーメンを啜っていた

 

「二人きりで食べるのは久々ですね⁇」

 

「もっとっ…涼月を誘って下さいっ…‼︎」

 

スープを飲みながら、涼月は幸せそうに二杯目を平らげた

 

「ならっ‼︎今度はケーキですねっ‼︎」

 

丼を置いた涼月は、ダイダロスさんにニコリと微笑んだ…

 

 

 

心配とは裏腹に、長い一日が幕を下ろした…




ボス神威(追記)

ボスの本当の名前

神威にソックリではなく、れっきとした神威

ちょっと口調は違うけど、神威

通常神威よりちょっとだけ出る所が更に出てる

小神威達のボスだからボス神威


小神威…ボスの子分

こかもい

大湊にウジャウジャいる、ボスの子分

ダイダロスさんの部下と恋仲になる小神威もいるが、ダイダロスさんの部下の方が圧倒的に少ない

ボスと良く似た民族衣装っぽい服装を身に付けており、とにかく大湊の至る所にいる

しかし、ボスより一頭身二頭身小さいのですぐ分かる

圧倒的物量で各所の運搬作業を凄いスピードで終わらせるぞ‼︎

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