艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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230話 カントリーガール、襲来(2)

夕方頃…

 

「よーし、モーモーさんの搬入開始‼︎」

 

数により突貫工事した牛舎が出来上がった

 

中々の出来上がりだ。申し分ない

 

「牛さん入るニム‼︎」

 

「新しいお家リュー‼︎」

 

「こういう単細胞脳の奴にはコレが一番効くんダズル」

 

榛名は道に干草の束を間隔を開けて置き、牛舎に牛を誘導する

 

四頭中二頭はニムとリシュリューがそれぞれ誘導

 

残り二頭は、ようやく榛名に懐いた乳牛一頭とあの暴れ牛

 

乳牛は榛名に綱で誘導され、牛舎の中へ

 

残るは暴れ牛

 

「ほれ食う大丈夫」

 

暴れ牛は干草の束を一つ食べ、榛名を見る

 

「メンチきってんじゃねーダズル‼︎」

 

「ウモ‼︎」

 

榛名の怒号に怒ったのか、暴れ牛は前足を動かし、突進の体勢に入った

 

「ヤマシロビンタダズルな」

 

榛名はビンタの体勢に入る

 

「モッ…」

 

榛名の気迫に気付いたのか、暴れ牛は榛名に擦り寄った

 

「よ〜し、良い子ちゃんダズル‼︎」

 

暴れ牛を最後に、牛の搬入が終わる

 

 

 

 

次はアヒルの搬入に入る

 

「こぁ〜〜〜っ‼︎」

 

「が〜が〜しゃんこっち‼︎」

 

「ガァガァ」

 

きそと隊長が農家で買って来たアヒル達が、ひとみといよに追い掛け回されている

 

「運動会のアヒル追い、思い出すわね⁇」

 

出来上がった頃にやって来た横須賀を横に、ひとみといよを眺める

 

「つかあえた‼︎」

 

「うるしゃくちてうと、たかこしゃんにふらいろちきんにちてもあうお‼︎」

 

ひとみは一羽のアヒルを両手で抱え

 

いよは首根っこを掴み、二羽のアヒルを持ってアヒル小屋に入って行った

 

「ちょっと見て来るわ⁇」

 

「俺も行くよ」

 

ひとみといよが入って行ったアヒル小屋に、俺達も入る

 

「まめたべなしゃいまめ」

 

「たねにすうか⁇」

 

ひとみといよは、ちゃんとアヒルに餌を与えていた

 

「ちゃんとガーガーさんにご飯あげてくれてるのね⁉︎」

 

「うん‼︎」

 

「が〜が〜しゃんしゅき‼︎」

 

「私にもやらせてくれる⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「まめあげうの‼︎」

 

横須賀がひとみといよと共にアヒルの世話しだしたので、俺はアヒル小屋から出て来た

 

「アヒルサン待テー‼︎」

 

今度は学校帰りのジャーヴィスがアヒル広場で走り回っていた

 

「おっ」

 

ジャーヴィスが柵の内側走り回る中、柵の向こうにたいほうがいた

 

たいほうは遊びたそうな顔をしているが、柵を越えようとしない

 

様子を見るために、柵越しにたいほうの前まで来た

 

「どうしたたいほう。遊ばないのか⁇」

 

「うん…」

 

そう言うたいほうの目は、悲しい目をしている

 

たいほうはアヒルにトラウマがある

 

遊び相手であったアイガモ達を、国のルールと言う名目で取られたからだ

 

「たいほう‼︎ばんざい‼︎」

 

「ばんざい」

 

「よいしょ‼︎」

 

「わぁ‼︎」

 

たいほうが両手を挙げた瞬間に脇に手を入れ、柵の内側に入れた

 

「大丈夫さ。今回は横須賀のアヒルさんだから、国に取られたりしない」

 

「ほんと⁇」

 

「そうよたいほうちゃん‼︎」

 

横須賀がたいほうの前に屈み、手を握った

 

「くににとられたりしない⁇」

 

「しないわ⁇でもね、たいほうちゃん。これは私なりの命の授業なの」

 

また、横須賀の目が母親の目に変わる

 

「じゅぎょう⁇」

 

「そうよ。国に取られたりはしないけど、いつかは給食になるの」

 

「どうしてがーがーさんたべられるの⁇」

 

「それをたいほうちゃんにも知って欲しいの。あ、そうだたいほうちゃん‼︎ガーガーさんはどんな赤ちゃん産むかな⁉︎」

 

「ひよこちゃん」

 

「ジャン‼︎」

 

横須賀のポケットから、アヒルの卵が出て来た

 

「たまご」

 

横須賀はたいほうの手を取り、手の平に卵を乗せた

 

「卵からひよこちゃんが産まれるのよ⁇」

 

「たいほう、たまごたべてる」

 

「頂きますって言うのはね⁇命を頂きますって意味でもあるのよ⁇」

 

「こわいね…」

 

たいほうは卵を握りながら、横須賀の目を見た

 

「大丈夫よたいほうちゃん。誰でも一度悩む時があるの。たいほうちゃんは偉いわ⁇ちゃんと命の大切さに気付いてるもの‼︎」

 

「うんっ」

 

たいほうの目に少しだけ活気が戻る

 

「あのね、よこすかさん」

 

「ん⁇なぁに⁇」

 

「このたまご、ひよこちゃんうまれる⁇」

 

「温めてみましょうか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうと手を繋ぎ、横須賀は再びアヒル小屋に向かおうとした

 

「レイ。アンタも来て」

 

「おぉ‼︎ちょい待ってな‼︎柵が緩いんだ‼︎よっと‼︎よしよし」

 

横須賀に言われ、三人でアヒル小屋に入る

 

アヒル小屋に入り、たいほうは孵化場に卵を置き、干草を周りに置いた

 

「ひよこちゃんうまれるかな⁇」

 

「楽しみに待ってましょうか‼︎」

 

入口の縁にもたれ、屈み込んだ二人を背後から見る

 

何度も言うが、横須賀が子供といると絵になる

 

ひとみといよに始まり、たいほうやジャーヴィス、吹雪のような赤ちゃんでさえ、傍に居るだけで絵になる

 

俺はそんな絵を見るのが好きになっていた

 

「今日はもうお家に帰る時間だから、アヒルさんにバイバイしましょうか⁇」

 

「うん」

 

「さっ、行っといで‼︎」

 

たいほうはアヒルに近付き、頭を撫でた

 

「またたいほうとあそんでね‼︎」

 

「ガーガー‼︎」

 

アヒルにもそれは伝わったのか、一羽のアヒルがたいほうに擦り寄った

 

たいほうはそのアヒルを軽く抱き寄せ、愛おしそうに羽を撫でた

 

「ちゃんと教えてあげないとね…」

 

「あんなのを見せられたらな…」

 

国に友達を奪われたたいほう

 

胸を貫く様な経験をした自分達より遥かに小さい女の子の痛みは、その姿だけで伝わった

 

アヒルを離し、たいほうは俺達の所に戻って来た

 

「ばいばいしてきた‼︎」

 

「じゃあ、レイと一緒にみんなの所に行きましょうか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうを真ん中に、俺と横須賀が手を繋ぐ

 

珍しくたいほうが頭に乗らないと思ったら、横須賀が居る時は手を繋ぐのだと、今更気が付いた

 

「あ‼︎パパだ‼︎」

 

「お家帰るぞ‼︎」

 

「よこすかさん、すてぃんぐれい、ありがと‼︎」

 

俺達の手から離れ、隊長と手を繋いだたいほうの前に屈み、目線を合わせる

 

「明日帰ったら一緒に遊ぼうなっ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

たいほうの頭を撫でると、いつものたいほうに戻ってくれていた

 

「サマになってたぞ。ジェミニとお前とたいほう」

 

「こう見えても一応父親だからな⁉︎」

 

「ありがとうございます、隊長‼︎」

 

隊長は俺達に微笑んだ後、子供達と共に基地に戻って行った

 

「あ、そうだレイ。アンタに紹介する子がいるのよ」


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