艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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特別編 貴方に恋した一週間(4)

その後、3日4日と探したが、全く足取りが掴めなかった

 

本当に母さんはこの街にいるのだろうか…

 

今考えれば、ゲルダが住んでいる様な屋敷は数件ある

 

その内の一つにいるのかも知れないが、それらしき人物はいない

 

屋敷の中で何かしているから出られないのだろうか…

 

そして、迎えた5日目…

 

朝、広場のベンチでゲルダを待つ

 

「ん⁇」

 

海の向こうで、何かの音が聞こえた気がした

 

「Good Morning‼︎」

 

「おはよう」

 

ゲルダがバスケットを持ってやって来る、いつもの朝

 

サンドイッチやフルーツを食べ、海を眺める

 

「ゲルダ…」

 

「はい⁇」

 

「もしかすると、俺の探してる人はここには居ないかもしれない…」

 

「リヒターさん⁇」

 

「ゲルダに散々案内して貰ったんだ。街の隅から隅まで調べたはずだ」

 

「う〜ん…あと調べてないとすれば…」

 

一生懸命、ゲルダは悩んでくれる

 

そんな彼女だからこそ、この数日で情が湧いて来ていた

 

「確かに無いかも知れません…でもでも‼︎私、リヒターさんを信じてます‼︎」

 

ゲルダが俺の目を見つめる

 

誰かと同じ感覚だ…

 

真っ直ぐて、透き通った、美しい瞳に俺が映る

 

「分かった。もう少し探そう‼︎頼めるか⁇」

 

「勿論ですっ‼︎」

 

いざベンチから立ち上がった時、先程と同じ感覚に再び襲われた

 

また海の向こうからだ…

 

「エンジン音…」

 

「何か聞こえますか⁇」

 

確かに聞こえた

 

航空機が空を行く時に出す、独特の音…

 

それも沢山…

 

単眼鏡を取り出し、音の方向を見た

 

「ゲルダ…ここはイギリスだよな⁇」

 

「はいっ。イギリスです‼︎」

 

「…今日は人探しはやめだ」

 

「どうしたのですか⁉︎」

 

「逃げるぞ‼︎走れ‼︎」

 

「あっ‼︎」

 

ゲルダ手を引き、市場の中へと走る

 

「避難しろ‼︎航空機が山ほど来る‼︎早く‼︎」

 

ゲルダの手を引きながら、市場に避難を促す

 

「え、えと‼︎ひ、避難して下さい〜‼︎」

 

異変に気付いた数十人は建物に入ったり、物陰へと隠れ始めたが、市場にはまだまだ人がいる

 

「ゲルダ、何処か安全な場所は無いか⁇」

 

「え、えと、えと…」

 

音で分かる。航空機が近い…

 

胃酸が口に上がって来そうな恐怖が体を震わせる

 

いつもならグリフォンに乗って、空に上がれば良い

 

だが、今は殆ど打つ手が無い

 

「あっ‼︎私のお屋敷の地下があります‼︎でも、ここにいる人全員は無理です‼︎」

 

「来た…」

 

「えっ⁇ちょっ、ちょっと‼︎」

 

ゲルダを抱き上げ、レンガ造りの建物の陰に隠れた途端、街の上空に航空機が来た

 

「ひっ‼︎」

 

航空機のエンジン音が通過すると同時に、爆破音が響く

 

それを聞いて小さな悲鳴を上げ、小刻みに震えるゲルダを抱き締め、目を閉じる

 

航空機は街の上空を通過する際、何発もの投下爆弾を落として行った

 

「メッサーシュミット…」

 

「り、リヒターさんっ…」

 

「大丈夫。大丈夫だ」

 

ゲルダはかなり驚いて失禁こそしていたが、まだ意識は保っている

 

「今が恐らく第一波だ。これからまだ来るはずだ」

 

「は、はい」

 

「恐らくここもダメになる。隙間を縫って逃げるからな⁇」

 

「…」

 

俺の胸にくっ付き、服を掴んだまま、ゲルダは何も言わずに離れない

 

「…一緒ですか⁇」

 

「一緒だ。絶対見捨てない」

 

「ん…分かりましたっ‼︎」

 

涙を拭き、気丈なゲルダに戻る

 

表の様子、そして空の様子を伺い、第一波が通り過ぎたのを確認し、ゲルダの手を握った

 

「…行くぞ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

陰から出て、一気に走る


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