艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、229話が終わりました

今回のお話は特別編です

私自身がどうしても書きたかったお話であり、伏線回収もございます

このお話は、誰かが艦娘になるまでのお話です

彼女がどうして艦娘になったのか

その謎が解かれるお話です


特別編 貴方に恋した一週間(1)

「〜♪」

 

テレビの前に座った母さんがひとみといよの頭を膝に乗せ、鼻歌を歌う

 

俺はその横で、母さんの義足のメンテナンスをしていた

 

「あんておうた⁇」

 

「あんあん〜」

 

鼻歌の良さに気付いたひとみといよが反応を示した

 

「これ⁇ん〜…題名は知らないの」

 

歌が好きな母さんにしては珍しい答えだ

 

「へぇ。母さんにも知らない曲あるんだな⁇」

 

「私が若い時にね、その時好きだった人が歌ってたの‼︎私の初恋っ‼︎」

 

「母さんの好きな人…」

 

唐突に現れた、第2の男の存在

 

俺がビックリする横で、母さんの目は輝いていた

 

この目、よっぽど好きだったに違いない

 

「ろんなひと⁇」

 

「とっても立派な人よ…それで、とっても不思議な人…」

 

「おなまえは⁇」

 

「それがね…私に”本名”を教えてくれなかったの…」

 

名前さえ知らない男の正体…

 

名前も知らないのに、母さんにここまで思わせる男の存在…

 

俺の知らない母さんの”乙女”が一瞬見えた

 

「よしっ、出来た‼︎」

 

「あち‼︎」

 

「あちれきた‼︎」

 

母さんの所に義足を持って来た

 

「嵌めるぞ」

 

「えぇ。お願いするわ」

 

義足を嵌めながら、母さんに話し掛けた

 

「親父の事じゃないのか⁇」

 

「リチャードより前よ。それに、リチャードより立派な人よ」

 

その人と親父を比べると、母さんの声に覇気がこもった

 

察するに、一緒にするなとの事だ

 

「そういや母さん、いつからこれしてるんだ⁇」

 

気付いた時から、母さんは義足を付けていた

 

気付いたら気になる、いつから付けているのか…

 

「これもその人から貰ったのよ⁇14歳位だったかしらね…」

 

「随分と長持ちだな…」

 

「長持ちするって言ってたもの‼︎」

 

母さんはまた、一瞬乙女に戻る

 

「さっ、出来た」

 

「うごかちて‼︎」

 

「はいっ、ふふふ」

 

母さんは何らかの事情で、両足の膝から下を欠いている

 

義足を付けて何とか立ち上がる事が出来るが、長時間の歩行は腰に負担が掛かって困難になる

 

それに、中途半端に柔らかい素材で出来ている

 

「新しいのを造ろうか⁇」

 

「いいの。あの人から貰った物だから…」

 

愛おしそうに義足を撫でる母さん

 

俺でもなく、親父でもなく、全く知らない第3の男をチラつかせる母さんは、少しイタズラな女の子に見えた

 

ここまで言われると、少し気になった

 

「ひとみといよを頼む」

 

「えぇ、分かったわ」

 

「ろっかいく⁇」

 

「おちごろ⁇」

 

「そっ。良い子ちゃんにしてるんだぞ〜」

 

「いってあっちゃ〜い‼︎」

 

「はよかえってこいお〜‼︎」

 

ひとみといよを母さんに預け、俺は横須賀に飛んだ

 

 

 

 

工廠に来てすぐ、厳重に管理された倉庫の片隅にある朝霜ボックスを開く

 

「あったあった」

 

取り出したのはあのバット

 

母さんが14って事は…

 

バットのダイヤルの年代をどんどん巻き戻す

 

年代はここでは伏せておくが、行く前から不安が過ぎった

 

…もし、そいつと会ったとして、俺はどうする

 

…そうだ、義足の造り方を聞こう

 

この時代であの持ち様だと、当時でも高性能だ

 

是非造り方を聞きたい

 

そうすれば、母さんの義足もそうだし、隊長の左足の義足にも生かせる技術があるかも知れない

 

そう思うと、俄然会いたくなった

 

…行こう‼︎母さんの初恋がある時代に‼︎

 

俺は床をバットで小突いた…


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