艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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226話 ホワイトブレンド(3)

女神の鉄槌に巻き込まれ、貴子さんに遭遇した俺達は、ようやく喫茶”タッチバックス”に着いた

 

「いらっしゃいませ」

 

店内は良い感じに混んではいるが、皆コーヒーを楽しみに来ている…という雰囲気が伝わって来る

 

カウンターの向こうでグラスを磨くマスターは、絵に描いたようなマスター顔となりをしている

 

「ウィリアムさん。どうぞお掛けになって下さい。マーカスさんも」

 

マスターに案内されたカウンター席に座り、お冷とおしぼりが置かれる

 

「申し遅れました。私、タッチバックスのオーナー、マックと申します」

 

隊長も俺も渡されたおしぼりで顔を拭く

 

「此方から近々ご挨拶に…とは思っていましたが。とんだ御無礼を」

 

「開店直後で忙しいのは仕方ないさっ。それに、一日ここを貸し切らせて貰った」

 

「あぁ…貴方がたでしたか」

 

マックはクスリと笑いながら隊長にホットコーヒーを淹れ、俺の前にアイスコーヒーを置いた

 

「マーカスさんはアイスコーヒーでしたよね」

 

「おぉ…」

 

何も言っていないのにアイスコーヒーが置かれた事に少し困惑する

 

この人…俺を知ってるのか⁇

 

「して、リットリオの件ですが…」

 

「妹を任せた。それにあの…」

 

「マエストラーレにもお会いに⁇」

 

「その子だ‼︎あの子は礼儀正しい良い子だ」

 

「きっと叔父上様に似たのでしょう」

 

アイスコーヒーを飲みながら、隊長とマックの顔を交互に見る

 

隊長は自身を褒められて満更でもない様な顔をしている

 

「マーカスさん。シロップとミルクの追加はいかがなさいます⁇」

 

「ミルクをもうひ…」

 

言い終わる前にミルクと、隊長の分と俺の分のチョコケーキが置かれる

 

…何故だ

 

「何で分かるんだ⁇」

 

「勘ですよ。提督になる前は色々と経験を積みましたから」

 

裏が読めない…

 

「貴方がたには、お礼を申し上げなければなりません」

 

「にゃにをら⁇」

 

「おれいしゅるのはこっちらんじゃらいか⁇」

 

隊長も俺もケーキを頬張りながらマックの問いを返す

 

「私はイギリス生まれなのです」

 

「イギリス…」

 

「貴方がたが解放した街は、私の故郷でもあります」

 

「へぇ…」

 

「なるほどな…」

 

「あの街が解放され、私は”戦車”を降りました」

 

「戦車ねぇ…」

 

「マーカスさん。貴方が言った通り、映画になりましたよ」

 

マックの言葉で、アイスコーヒーを逆噴射した

 

「何か言ったのか⁇」

 

「メッチャ言った覚えあるわ…」

 

 

 

 

遂に街が解放されたその瞬間…

 

俺は確かに言った

 

作戦成功の一報を受け、気分が高揚していたのもある

 

眼下に戦車部隊が見えたんだ

 

その戦車部隊の先頭に無線を繋げ、こう言った

 

”この勝利はお前達のモンだ‼︎あんたのサクセスストーリーの映画化も近いぜ‼︎”

 

その問いに対し、戦車部隊の隊長が無線を返してくれた

 

”そりゃあ願ったり叶ったりだ‼︎”

 

と…

 

その隊長がどうやらマックである

 

 

 

 

話を聞いていると、マックは街が解放され、戦車を降りた

 

帰る場所が戻って来たマックは、今しばらくその街で暮らした

 

しかしその後まもなく深海との戦いになり、各国の海軍は高官を多数失った

 

その人員補填の為、マックは召集された

 

戦車部隊の隊長が海軍に呼び戻され、提督になる為のカリキュラムを受けさせなければならない程、被害は凄かった

 

隊長がそうしたのと同じく、最初は訳も分からない右往左往の状態

 

そんな中支えてくれたのがリットリオ

 

互いが恋に落ちるまで、そう時間はかからなかったらしい

 

 

 

「そうだったのか…」

 

「ですので、少しばかり平穏なここで暮らすのも良いかと」

 

「願ったり叶ったり、だな」

 

「えぇ」

 

「ただいま帰りました‼︎」

 

「ただいま〜。あら、兄さん。マーカスさん」

 

リットリオとマエストラーレ、そしてリベッチオが帰って来た

 

「まさかとは思うが、リベッチオの面倒まで…」

 

「気にする必要はございません。二人共、私の娘には変わりございませんので」

 

マックは事情を知った上で、リベッチオの面倒まで見ていてくれていた

 

「しかし、何かしないと…」

 

「ではこうしましょう」

 

マックは隊長の顔を見て、手をカウンターに置いた

 

「貴方がたは私に明日を与えてくれた。今、その礼を返している…こう致しませんか⁇」

 

隊長は一呼吸置いた後、答えを言った

 

「分かった。リベッチオを任せる。何かあったらすぐに言ってくれ」

 

「畏まりました。リベ、ラーレ。手を洗ったらオヤツにしましょう」

 

「はーい‼︎パーパ、マーカスさんっ‼︎チャオ‼︎」

 

「失礼します叔父様、マーカスさん‼︎」

 

俺も隊長も笑顔で二人を見送った

 

ここで一つ気になった

 

「マックはリベッチオから何と呼ばれて⁇」

 

「パパ、と呼ばれています」

 

「そっか…また来るよ」

 

「お待ちしております」

 

複雑な気持ちなのだろうな、隊長

 

父親も母親も傍にいられない状態だ…

 

タッチバックスを出て数歩歩いた所で、隊長が口を開いた

 

「お前の気持ちが分かったよ」

 

「俺はいつでも、もう少しと思ってるんた。明日かも知れないし、来年かも知れない。もう少ししたら、みんなで平和に暮らせる」

 

「なるほどな…私達の双肩、って訳だ」

 

「それに、今のままの方が幸せかも知れないと思っておくんだ」

 

「今のま…」

 

「行こう、隊長」

 

「…分かったっ‼︎」

 

話を句切らせた俺の目を見て、るいちゃんの事に感付いてくれた隊長は、一歩先にいた俺の横に来てくれた

 

そして、何も言わずにいつもの俺達に戻った

 

 

 

 

再び戻って来た、ねぃびぃちゃんが待ち構えるパチンコ屋の前

 

ねぃびぃちゃんは店の前に立ち、来店する客に手を振っている

 

「よし…レイ。帰りは正面突破だ‼︎」

 

「はいぱぁらっきぃ〜‼︎」

 

「3、2、1でスタートだな‼︎」

 

「きゅい〜きゅい〜‼︎」

 

「行くぞ…」

 

俺達は広い遊歩道の真ん中でクラウチングスタートの構えを取った

 

「3…2…1…ドンッ‼︎」

 

隊長の掛け声と共に、パチンコ屋の前を通り過ぎる

 

「わっ‼︎‼︎‼︎」

 

ねぃびぃちゃんが叫んだ直後、衝撃波が巻き起こり、俺、隊長、その辺の市民が目を回した

 

「おめめくるくる全回転〜‼︎きゅい〜きゅい〜‼︎」

 

その日、結局俺達二人はねぃびぃちゃんにパチンコ店に連れ去られ、そこそこ当たりを出して帰って来た…


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