艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、224話が終わりました

今回のお話は、ファイアクラッカーこと園崎のお話です

園崎がしているスポーツは何なのか…

そして、とある艦娘の過去が明らかになります


225話 炎の拳(1)

「はいっ。今日はこの辺りにしましょうか」

 

「「「ありがとうございました‼︎」」」

 

ヤマシロの授業が終わり、子供達がそれぞれの基地に戻る

 

ヤマシロはそれを見送りに外に出ていた

 

「あっ…」

 

「おかえりなさい」

 

哨戒飛行を終えた園崎が帰って来た

 

「た…ただいま戻りました」

 

ヤマシロはただただ笑みを送る

 

園崎はヤマシロを見て、頬を赤らめる

 

「じ、自分、今から間宮でコーヒーでも頂こうかと…」

 

「一緒していいかしら」

 

「ヤマシロさんがよければ」

 

二人は間宮へと向かう

 

その足取りは、互いにほんの少し横間隔開けてはいるが、横一列に歩いている

 

何も言わない

 

何も要らない

 

純粋な、プラトニックな愛がそこにはあった

 

二人はこうして週に一度は時間を作り合い、一緒に居られる時間を作っていた

 

間宮に入ってもそれは変わらず、時折微笑み合ってはコーヒーを飲む

 

園崎もヤマシロも、それだけで良かった

 

「では、自分はこれで」

 

「また一緒しましょう」

 

別れ際、ヤマシロは園崎の胸に抱かれ、愛おしそうな顔をした後、小さく手を振る

 

大人なヤマシロが一瞬見せる子供の様な顔を見る度、園崎はヤマシロに落ちて行った…

 

 

 

幾度目かの逢瀬…

 

この日、ヤマシロは園崎に話し掛けてみた

 

「そういえば、ここに入った理由を知らないわ」

 

「大した事じゃありませんよ」

 

「聞かせて」

 

園崎は、久々の話が出来るなら良いか…と思い、口を開いた

 

「あれは…」

 

 

 

園崎がサンダース隊に入隊する数ヶ月前…

 

園崎はあるスポーツをしていたが、素行が悪く、誰彼構わず当たり散らしてはカツアゲの様な行為を繰り返していた

 

そんな事を続けていたある日、ある人物に因縁を付けてしまった

 

園崎はいつもの様にカツアゲをしようと目論んだ

 

ただ、それが間違いだった

 

園崎は、やっているスポーツを駆使してその人物に挑んだ

 

結果、たった一発のパンチでノックダウン

 

園崎は地面に膝を落とした

 

今まで何度も挫折をさせられ、そのまま放ったらかしにされ続けた人生を送って来た園崎

 

今度もまた、そうなると思った

 

しかし、彼は違った

 

お前、中々見所があるな。俺の基地に来ないか⁇

 

そう言って手を差し伸べてくれた人が、横須賀に居た

 

園崎はその言葉を信じてみる事にした

 

「大尉も勿論尊敬してます。ですが、自分はやはりあの人が…」

 

「色々あったのね」

 

「自分は人生をやり直すと決めました。もし、もう一度やり直せるならば、次は”これ”を、護る為に使いたいんです」

 

そう言って、園崎はテーピングを施した右手を見せた

 

園崎は元ボクサー

 

素質はあったのだが、誰も認めてくれなかった

 

そんな中、自分をコテンパンに打ち負かした挙句、自分の腕を見込んでくれた人が居た

 

その人は…

 

「じゃっ、スパイト‼︎行ってくるよん‼︎」

 

「気を付けて帰るのよ⁇」

 

大尉の母親であるスパイトが、屈んだ一人の男性の襟を直している

 

「中将‼︎お疲れ様です‼︎」

 

男性の存在に気付いた園崎はすぐに立ち上がり、一礼した

 

「おっ‼︎園崎‼︎どうだ⁇ボクシングの調子は‼︎」

 

「中将に言われた通り、次は然るべき時まで鍛錬を重ねています」

 

園崎を見込んだ人とは、リチャードの事

 

いつもふざけた行動ばかりしているが、航空機の操縦と、腕力だけはかなり強い

 

「んっ‼︎よろしい‼︎またいつでも相手してやるからな〜バイバ〜イ‼︎スパイト‼︎バイバ〜イ‼︎」

 

スキップで間宮を出るリチャードを見て、スパイトは手を小さく振り、園崎とヤマシロは小さく一礼した

 

「あ⁇ちょっと待てぇ〜…」

 

きそウォークをしながら、リチャードが戻って来た

 

「…出来ちゃった⁇」

 

「はい」

 

「一人私にお譲り下さい。中将」

 

まさかのヤマシロの告白

 

間宮にいた全員が、自然とそっちを向いていた

 

「いいねぇ‼︎悪さしないと約束して、園崎が良いって言えばオッケー‼︎じゃね〜‼︎」

 

リチャードはそれだけ確認すると、任務に向かった

 

「貴方がソノザキね⁇」

 

「はいっ、スパイトさん。いつもお二人にお世話になっています」

 

「話はマーカスから聞いてるわ。リチャードはあまり、自分のした事を言わないから…」

 

「中将に拾われて、大尉に着いて行って、自分は変われました。隊の他の連中も同じ思いです」

 

「たまにはリチャードもいい事するのね‼︎またお逢いしましょう⁇See you‼︎」

 

スパイトも間宮を出た

 

スパイトを見送り、園崎は視線をヤマシロに戻した

 

「自分を嫌いになりましたか⁇」

 

「嫌いにならないわ」

 

「そう…ですか」

 

「私の話もするわ。聞きっぱなしはいけない」

 

「お願いします」

 

ヤマシロは園崎に全てを話した

 

自分が深海であった事

 

過去に罪を犯した事

 

教え子に銃口を向けた事

 

そして、教え子を本気で殺そうとした事

 

全て、園崎に話した

 

「嫌いになったでしょう。そんな女なのよ、私」

 

「構いません」

 

園崎はヤマシロの顔をジッと見つめた

 

「お互い背負うべき物があるからこそ、惹かれたのかも知れません。現に自分はそうです」

 

「そうね…」

 

この時、ヤマシロは何も言わなかった

 

だが、確実にヤマシロの考えが変わった瞬間であった

 

悪い彼、騙されていた自分

 

それが今、自分と同じ道を歩んでくれると言ってくれる彼に変わった

 

「出ましょうか。自分はこれからトレーニングなので」

 

「えぇ」

 

二人が間宮から出る

 

その時、間宮にいた人物は皆同じ思いを抱いていた

 

あの二人ならこれから先紆余曲折あろうが、必ず何方かが支え合うだろう…と


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