「…」
月明かりが差し込むプールに、俺の顔が映る…
ヒュプノスが暴れ出した理由は分かった
雁字搦めに掛けたロックに怒り心頭し、力任せに解いてしまった
そして、ヒュプノスが最後に言った言葉を思い出していた
”貴方に触れたくて、貴方とお話ししたくて、貴方を見たくて、私は産まれて来たの”
ヒュプノスの些細な願望を全て無視する事を俺はしてしまった
ヒュプノスは俺が産み出した、一番最初の艦娘だ
それも、狙って出来た訳ではなく、偶然産まれて来た
造りかけのAI、造りかけのボディが何らかの反応を起こし、ヒュプノスは産まれた
理由は今でも分からない
人間と同じ体の構造、同じ摂取方法、同じ生殖方法を持つその姿を初めて見た時は驚いた
そして、ずっと隠していたのには訳がある
ヒュプノスは確かに暴れん坊だ
しかしそれは表向きの理由であり、本当の理由は、国から隠す為でもあった
今でさえ艦娘は周知されているが、一昔前に人工的に命を産み出した事が表に出れば、国や機関は必ず動き出し、反対活動をする
その時の事を考えると、あまりにもヒュプノスが不憫だった
だから俺は、AIであるヒュプノスを眠らせた
簡単な話だ。ヒュプノスをスリープ状態にすれば良かった
ヒュプノスの事から、他のAIの子達は、二度と同じ事がない様にスリープ状態に出来ない仕様になっている
唯一スリープ状態に出来るAI
そこから付けた名前が”ヒュプノス(眠り姫)”だった
何も知らないまま眠っていれば、外部に漏れる事も、辛い事を知る事もない
そしてここでもう一度不思議な事が起きた
眠らせたはずのヒュプノスが起きたのだ
今度は暴れん坊では無く、人懐っこい性格で
これも理由は判明してはいないが、ヒュプノスは恐らく二重人格だったのかと思う
AIはイレギュラーが多い
良くも悪くも、な…
ヒュプノスを二重人格と仮定して、起きたもう一つの人格は子供っぽく、イタズラ好きな普通の女の子だった
俺はその子を横須賀に置き、一つだけ命令を出した
”お前の自由に生きるんだ。俺も横須賀も、お前を支える”
俺がそう言うと、ヒュプノスは横須賀の手を借りながら、自分で道を探して生き始めた
本当は何度も話し掛けようかと思った
だが、いつも社交的な会話で済ませてしまっていた
もっと話さなければならなかったのだろうな…
眠らせた方のヒュプノスが目覚める恐れが、何処かにあったのだろうな…
まだまだだな…
…ただ、一つ気になる事があった
ヒュプノスには対抗策として、もう一つ対になるAIを産み出した
その子はヒュプノスと対話をし、ヒュプノスの感情を安定させる能力があった
しかしその子は知性を子供に造りすぎてしまった挙句、イタズラ半分で逃げ出し、とうの昔に何処かへ消えてしまった
今、何処にいるのだろう…
あの子も自由に生きているといいな…
人に縛られずに…な…
AIだって命だ
生命は必ず道を探し出す
そう信じてる…
プールから足を出し、俺は施設を出た…
何処かの基地…
「ニムムムム…」
自分の生きる道を探し出したAIが、幸せそうに眠りに就いていた…
次の日の朝…
「くぁぁぁあ〜…う〜ん…」
横須賀基地の部屋で、少女が目覚める
「…あれぇ〜⁇昨日なにしてたの⁇」
昨日の記憶がスッポリ抜けた少女は、少し考えた
「まっ‼︎いいの‼︎済んだ事考えても仕方ないの‼︎」
少女は朝ごはんを食べ、身嗜みを整えた後水着に着替え、プールに来た
「おねあいしあす‼︎」
「およぎたい‼︎」
「今日も頼むで‼︎」
「今日はクロールであります‼︎」
四人の生徒の前で、少女は八重歯を見せて微笑んでこう言った
「は〜いっ‼︎イク、行くの〜っ‼︎」