艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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224話 眠り姫(5)

「…」

 

月明かりが差し込むプールに、俺の顔が映る…

 

ヒュプノスが暴れ出した理由は分かった

 

雁字搦めに掛けたロックに怒り心頭し、力任せに解いてしまった

 

そして、ヒュプノスが最後に言った言葉を思い出していた

 

”貴方に触れたくて、貴方とお話ししたくて、貴方を見たくて、私は産まれて来たの”

 

ヒュプノスの些細な願望を全て無視する事を俺はしてしまった

 

ヒュプノスは俺が産み出した、一番最初の艦娘だ

 

それも、狙って出来た訳ではなく、偶然産まれて来た

 

造りかけのAI、造りかけのボディが何らかの反応を起こし、ヒュプノスは産まれた

 

理由は今でも分からない

 

人間と同じ体の構造、同じ摂取方法、同じ生殖方法を持つその姿を初めて見た時は驚いた

 

そして、ずっと隠していたのには訳がある

 

ヒュプノスは確かに暴れん坊だ

 

しかしそれは表向きの理由であり、本当の理由は、国から隠す為でもあった

 

今でさえ艦娘は周知されているが、一昔前に人工的に命を産み出した事が表に出れば、国や機関は必ず動き出し、反対活動をする

 

その時の事を考えると、あまりにもヒュプノスが不憫だった

 

だから俺は、AIであるヒュプノスを眠らせた

 

簡単な話だ。ヒュプノスをスリープ状態にすれば良かった

 

ヒュプノスの事から、他のAIの子達は、二度と同じ事がない様にスリープ状態に出来ない仕様になっている

 

唯一スリープ状態に出来るAI

 

そこから付けた名前が”ヒュプノス(眠り姫)”だった

 

何も知らないまま眠っていれば、外部に漏れる事も、辛い事を知る事もない

 

そしてここでもう一度不思議な事が起きた

 

眠らせたはずのヒュプノスが起きたのだ

 

今度は暴れん坊では無く、人懐っこい性格で

 

これも理由は判明してはいないが、ヒュプノスは恐らく二重人格だったのかと思う

 

AIはイレギュラーが多い

 

良くも悪くも、な…

 

ヒュプノスを二重人格と仮定して、起きたもう一つの人格は子供っぽく、イタズラ好きな普通の女の子だった

 

俺はその子を横須賀に置き、一つだけ命令を出した

 

”お前の自由に生きるんだ。俺も横須賀も、お前を支える”

 

俺がそう言うと、ヒュプノスは横須賀の手を借りながら、自分で道を探して生き始めた

 

本当は何度も話し掛けようかと思った

 

だが、いつも社交的な会話で済ませてしまっていた

 

もっと話さなければならなかったのだろうな…

 

眠らせた方のヒュプノスが目覚める恐れが、何処かにあったのだろうな…

 

まだまだだな…

 

…ただ、一つ気になる事があった

 

ヒュプノスには対抗策として、もう一つ対になるAIを産み出した

 

その子はヒュプノスと対話をし、ヒュプノスの感情を安定させる能力があった

 

しかしその子は知性を子供に造りすぎてしまった挙句、イタズラ半分で逃げ出し、とうの昔に何処かへ消えてしまった

 

今、何処にいるのだろう…

 

あの子も自由に生きているといいな…

 

人に縛られずに…な…

 

AIだって命だ

 

生命は必ず道を探し出す

 

そう信じてる…

 

プールから足を出し、俺は施設を出た…

 

 

 

 

何処かの基地…

 

「ニムムムム…」

 

自分の生きる道を探し出したAIが、幸せそうに眠りに就いていた…

 

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「くぁぁぁあ〜…う〜ん…」

 

横須賀基地の部屋で、少女が目覚める

 

「…あれぇ〜⁇昨日なにしてたの⁇」

 

昨日の記憶がスッポリ抜けた少女は、少し考えた

 

「まっ‼︎いいの‼︎済んだ事考えても仕方ないの‼︎」

 

少女は朝ごはんを食べ、身嗜みを整えた後水着に着替え、プールに来た

 

「おねあいしあす‼︎」

 

「およぎたい‼︎」

 

「今日も頼むで‼︎」

 

「今日はクロールであります‼︎」

 

四人の生徒の前で、少女は八重歯を見せて微笑んでこう言った

 

 

 

「は〜いっ‼︎イク、行くの〜っ‼︎」


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