艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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224話 眠り姫(4)

「…どうすればいいの⁇どうしたら貴方は…私を見てくれるの⁇」

 

眠っていても、ヒュプノスはずっと自分を見て欲しかった

 

その答えをようやく返す日が来た

 

「大丈夫。ずっと見てるよ」

 

「そう…良かった…」

 

「ヒュプノスは何が好きですか⁇」

 

はっちゃんの質問を、ヒュプノスはすぐに返した

 

「お歌を歌いたいの…あのね、みんなでお歌、歌いたい…」

 

落ち着いて来たヒュプノスは、段々まぶたが落ちて来ていた

 

「よしよしっ‼︎お歌歌おうな‼︎」

 

もう一度眠ってしまう前に、良い思い出を作って眠って欲しい

 

ヒュプノスの両手を持ち、両脇にはっちゃんと横須賀が座る

 

「くまさんのお歌歌いましょうね⁇」

 

「うん…」

 

そして、童謡を口ずさむ

 

はっちゃんも

 

横須賀も

 

俺も

 

ヒュプノスが眠るまで歌い続ける

 

ヒュプノスは知能が低い

 

知っている歌も、童謡位しか知らない

 

理由は簡単だ。眠らせて、何も経験させなかったからだ

 

くまさんの歌を歌い、ひよこの歌を歌い、シャチの歌を歌っていた時、ヒュプノスの首がゆっくりと落ちた

 

握り返す力も無くなったヒュプノスの手を握り締め、横須賀はヒュプノスの頭を撫でた

 

「まだ起きています。何か言葉を当てるなら今です」

 

はっちゃんの言葉で、ヒュプノスの頬に手を当てた

 

「ヒュプノス、分かるか⁇お父さんだぞ⁇」

 

「おとう…さん…」

 

「もう一個だけ…もう一個だけお歌歌いましょう⁇ねっ⁇」

 

「おかあさん…」

 

「ん⁇なぁに⁇」

 

「ヒュプノスね…」

 

次に発した、か細いヒュプノスの言葉で、俺の時間が止まる

 

目を見開いた途端、涙が頬を伝った

 

最後の最後にギュッと握り返してくれたヒュプノスの手が落ちた時、一気に涙が溢れた

 

「よく頑張ったなっ…」

 

「偉いわヒュプノス…みんなでお歌歌えたね」

 

「頑張りましたね…」

 

ヒュプノスは再び眠りに着いた

 

教会からヒュプノスを運ぶ為、俺は産まれて初めてヒュプノスをおんぶした

 

「ヒュプノスは軽いな〜」

 

「いっぱいご飯食べなきゃね〜」

 

「はっちゃんとお菓子食べましょう」

 

道中、三人共、眠ったヒュプノスに話し掛けていた

 

ヒュプノスは愛情も知らぬまま、今日まで生きて来た

 

そして今日、産まれて初めて愛情を知った

 

「おやすみ、ヒュプノス…」

 

「ゆっくり休んでいいのよ…」

 

ヒュプノスに布団を被せ、悲しい夜が終わりを迎えた…

 

 

 

 

 

「マーカス様…」

 

「すまん。今夜は一人にしてくれ」

 

「畏まりました」

 

すぐに察してくれたはっちゃんは一礼した後、横須賀の所に行った

 

「はっちゃん。カップラーメン食べましょ⁇」

 

「はい」

 

後片付けは朝になってから妖精とすればいい

 

今は、一人になりたい

 

風の冷たさが身に染みる外を歩き、室内プールに着いた

 

ここなら一人になれる

 

プールの縁に座り、ズボンのまま足を浸けた


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