艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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224話 眠り姫(3)

「あ…」

 

「ちっ…」

 

教会前広場で攻防を繰り広げていた二人が手を止め、中へと入って来た

 

唯一命令として教えてあった、緊急時自分の元へ産み出した子を寄せる方法

 

それを今使った

 

多分基地でもひとみやいよ、ゴーヤとしおいも動いているだろう

 

「…」

 

はっちゃんがヒュプノスの顔を見たりして動ける中、ヒュプノスは動けないでいた

 

目覚めて初めて聞く、美しい声に魅入っていた

 

「おはよう、ヒュプノス⁇」

 

「…おはようございます」

 

嫌そうに横須賀の言葉に答えるヒュプノス

 

ヒュプノスはすぐに俺に目を向け、拳を握り締める

 

「ねぇ、ヒュプノス⁇私、一つだけ教えて欲しいの」

 

「それを答えたらマーカスさんを殺すわ…なぁに⁇」

 

「どうしてあの日、私達を救ってくれたの」

 

「…」

 

横須賀がそれを聞いた途端、ヒュプノスは下を向いた

 

「自分が標的になってレーザーなんて落とされたら死ぬかも知れないのよ⁉︎」

 

「そんなの…そんなの気分よ。私には”絶対防御”があるもの」

 

ヒュプノスに勝てないのはこの絶対防御の為だ

 

攻撃を予測し、一番的確な回避方法を瞬時に計算、回避する

 

ヒュプノスはそれを最大限に使い熟せる

 

普通の攻撃なら、まず当たらない

 

「ありがと、ヒュプノス。私達を護ってくれて」

 

「やめて‼︎」

 

横須賀の言葉に、ヒュプノスは首を横に振った

 

「はっちゃんからもお礼を言います。ありがとうございます」

 

「やめてやめてやめて‼︎私、感謝される筋合い無い‼︎」

 

何度も首を横に振り、少し怯えた表情を見せるヒュプノス

 

それでも俺の方を向いた

 

少しだけ、元に戻っているのかも知れない

 

今此方を向いたのは”私、どうしたらいいの⁇”の答えを聞く為なのかも知れない

 

「ありがとな、ヒュプノス」

 

「いやいやいやっ‼︎貴方から感謝されるなんて…」

 

いきなり感謝の言葉を三人から向けられ、ヒュプノスはフラフラになりながら長椅子に座った

 

「まだ、マーカス様を殺したいですか⁇」

 

「…話ぐらいは聞いたげるわ」

 

「マーカス様っ」

 

はっちゃんに言われ、ヒュプノスの前に座った

 

「ごめんな、ヒュプノス」

 

「…私は失敗作よ」

 

やはり気にしていた、自分は失敗作だという事

 

「そんな事はない」

 

「だったら‼︎どうして私を眠らせたの⁉︎」

 

ヒュプノスの頭に手を伸ばす…

 

ヒュプノスはビクッと反応をし、一瞬下がった後、頭を前に戻した

 

一時的に絶対防御を切ったヒュプノスの頭に手を置き、それを撫でた

 

「ヒュプノスは暴れん坊さんだったからな…でも、今日のを見て分かったよ」

 

「…何を」

 

「人を殺してないだろ」

 

ヒュプノスより前に、横須賀がハッ‼︎とした

 

確かに物は破壊したが、人は殺してはいない

 

「…おと…貴方がそう言ったからよ」

 

ヒュプノスは何かを言いかけたが、すぐに飲み込んだ

 

「ヒュプノスは偉いな」

 

「…偉くなんかないわ」

 

「お前は初めて、俺が造ったカプセルから産まれて来た子なんだ。無碍にはしたくないんだ」

 

頭を撫でつつ、ヒュプノスの目を見る

 

ヒュプノスもそれを見返している

 

その目は既に暴れん坊のヒュプノスではなく、一人の”艦娘”に戻ろうとしていた


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