艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

728 / 1086
220話 青い女の笑顔の弁当(2)

「…」

 

「…」

 

黙々と食べる二人…

 

「美味いな⁇」

 

「イケるな⁇」

 

その言葉を皮切りに、互いにゴトー弁当にガッ付く

 

十数分後には綺麗に完食した

 

「中々良いんじゃないか⁉︎」

 

「このサイズなら戦闘糧食としてもイケるな‼︎」

 

値段、量、サイズ

 

申し分無い

 

「あの‼︎」

 

「おっ‼︎弁当屋のネーチャンだ」

 

三角巾を外しながら此方に来た、青い髪の女性

 

「視察の方とは知らずに‼︎私”ゴトランド”と申します‼︎」

 

ゴトランドは深々と頭を下げた

 

「頭上げてくれ‼︎その方が良い。変な肩肘張らずに作れたろ⁇」

 

「そ、それはそうですけど‼︎」

 

「視察って誰から聞いたんだ⁇」

 

「横須賀のジェミニさんから連絡が来ました。今その辺にいる男性二人が視察だと」

 

辺りを見回すが、男は俺達しかいない

 

そうか、居住区だから男は限られた奴しか居ないのか‼︎

 

「今電話来たのか⁇」

 

「はい。貴方達がゴトーのお弁当を買って頂いた直後です」

 

本日二度目のため息を吐く

 

「まぁ…抜き打ちには丁度良かったんじゃないか⁇」

 

アレンの言う事も一理ある

 

まぁ、今回は良かった事にしておこう

 

「あの‼︎またいらして下さい‼︎」

 

「来るのは君の方かもしれないな⁇」

 

「え⁇」

 

「この量と味、料金なら横須賀の方から呼ぶだろうな」

 

「わぁ…嬉しい‼︎」

 

「これ持って帰らんといかんから、今日は帰るよ」

 

「ありがとうございました」

 

ゴトランドは深々と頭を下げ、帰路に着く俺達を見送ってくれていた…

 

 

 

 

横須賀に着き、執務室にゴトー弁当を持って来た

 

「これがそのお弁当ね⁇」

 

「そうだ」

 

「頂くわ」

 

割り箸を割り、横須賀もゴトー弁当実食開始

 

数分間、黙々と弁当を食べる横須賀は本気の目をしている…

 

いつもこうなら助かるんだがなぁ…

 

「アレンさん‼︎ビーダーメンやろ‼︎」

 

「よしっ‼︎」

 

「早霜もする…」

 

清霜と早霜はアレンと遊んでいる

 

親潮とガングートはテレビを見ている

 

「三人は学校か⁇」

 

「えぇ。そこの引き出しにテストやらおえかきが入ってるわ⁇」

 

「どれっ…」

 

横須賀は弁当の検討に集中しているので、言われた引き出しからそれらを出して見た

 

 

 

”いそかぜ 15点”

”朝霜 95点”

”なな 78点”

 

三人の国語のテストだ

 

その中でも、磯風のテストを見てみる

 

問…”最も”という言葉を使って文章を作りましょう

 

答…い〜ちゃんは最も強い

 

なぜ三角が貰えるのか…

 

問…”かもしれない”という言葉を使って文章を作りましょう

 

答…この鳥はかもしれない

 

勿論不正解

 

磯風…それを言うなら”カモかも知れない”だ…

 

そんな磯風の回答を見て、自然と顔が綻ぶ

 

次は絵だ

 

朝霜は設計図を書けるので、横須賀の兵舎を描いている

 

とても上手い

 

ななは可愛らしいお花の絵だ

 

磯風は…

 

「…」

 

磯風の絵を見て、良い意味のため息が出た

 

そこには、金髪のオールバックの若い男がスケッチされていた

 

それも何枚もだ

 

タバコを吸っていたり…

 

ご飯を食べていたり…

 

笑っていたり…

 

まるで生き写しかの様に描かれている

 

「ぐあっ‼︎やられたぁ‼︎」

 

「き〜ちゃんの勝ち‼︎」

 

描かれていたのは、今正に清霜達と遊んでいるアレンだ

 

「ごちそうさま」

 

「あ…ど、どうだった⁉︎」

 

娘が自分の親友へ充てる思いを汲み取り、複雑な気分を絵と同時に引き出しに戻し、横須賀の方を向いた

 

「こっちに本店建てさせるわ。親潮‼︎」

 

「はいっ、ジェミニ様」

 

「繁華街にゴトー弁当を造らせるわ。移転と許可書の書類を作成してくれる⁇」

 

「畏まりました」

 

横須賀と親潮の作業が始まり、俺は手持ち無沙汰になる

 

「レイ」

 

「ん⁇」

 

PCに向かったまま、横須賀は話し掛けて来た

 

「磯風の事、気付かなかったでしょ」

 

「あぁ…まさかだ。アイツの気持ちがよ〜く分かった」

 

「ふふっ。私もっ‼︎」

 

「なんの話だ⁉︎」

 

ようやくアレンが気が付いた

 

「お前がアイちゃんの事が好きな気持ちがよ〜く分かったって事さっ」

 

「今更かよ…」

 

いつも通りに苦笑いを浮かべ合う、俺とアレン

 

引き出しから磯風の絵を取り出し、アレンに見せた

 

「あぁ‼︎」

 

アレンは磯風の絵を持ち、ゆっくりと眺め始めた

 

「モデルを頼まれてな。い〜ちゃんはアレンさんを描きたいんだ。お礼はオトンに頼む‼︎ってな‼︎」

 

「礼は何がいい」

 

「要らん。勉強の糧になったんだ。それで充分さ」

 

絵を返して貰い、一枚手に取って壁に当てた

 

「そうか。なら安物の額縁に入れて、壁に飾って鼻の穴に画鋲を刺しておこう」

 

「やめろ‼︎」

 

そんな事しないと分かっているので、互いに笑い合う

 

「さっ‼︎出来たわ‼︎レイ、アレン、ありがとね」

 

「どう致しまして」

 

「これ位ならいつでも」

 

「ゴトランドは二週間後にこっちに来るわ。向こうのお弁当屋さんは、居住区の誰かに任せるわ」

 

「退役した艦娘を就かせるのか⁇」

 

「どうかしらね…向こうには退役した軍属コックもいるし、一概に艦娘とは言えないわ⁇」

 

「その辺は大丈夫だろう。最悪摩耶がいる」

 

アレンの言葉で俺と横須賀が”あぁ”と息を吐き、納得した

 

「じゃあ名前は”摩耶ってん弁当”にしましょう」

 

「決まった訳じゃないぞ…」

 

「ジェミニ様。摩耶様から許可を頂きました」

 

横須賀の隣では、既に親潮が摩耶に電話を繋げていた

 

「ようやく定職持つ気分はどうだって言って頂戴」

 

その後、横須賀はゴトランドにも電話を繋げ、電話越しの会話ではあるが、ゴトランドは二つ返事で快諾した…

 

 

 

 

 

二週間後…

 

「いらっしゃいませー‼︎四つですね‼︎ありがとうございます‼︎」

 

ゴトー弁当は繁華街で飛ぶ様に売れた

 

実は横須賀の繁華街、店に入れば食べられるのだが、持ち帰りでその場で食べられる”ある物”が今まで無かった

 

ゴトランドがそれを売り始めた結果、繁華街の別の店舗でも売り上げが伸び始めた

 

「いらっしゃいませ‼︎」

 

「ゴトー弁当のプレーンを一つ」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

客に渡すのは、白米だけのお弁当

 

ゴトランドは白米だけを入れたお弁当を売り始めていた

 

そう、繁華街には沢山のおかずはあるのだが、白米だけを売ると言うのが無かった

 

最上のスティックミート

 

浦風のおんどりゃあ

 

瑞鳳の卵焼き

 

丹陽の春巻き

 

その他色々ある

 

ゴトランドの白米だけのお弁当は”ゴトー弁当プレーン”と呼ばれ、中々の売り上げを見せていた

 

それでも他のお弁当も売れている

 

何せゴトー弁当には、安い、早い、美味いの三拍子が揃っている

 

戦闘糧食にも利用され、売り切れる事もあるくらいだ

 

「いらっしゃいませ‼︎あ‼︎マーカスさん、アレンさん‼︎」

 

「好調みたいだな⁇」

 

この日もアレンと共に、ゴトー弁当の視察に来ていた

 

「はいっ‼︎お陰様で‼︎」

 

「ゴトー弁当二つ」

 

「400円になります‼︎」

 

早速ベンチに座り、ゴトー弁当を頂く

 

「流石はゴトー…」

 

「良い腕してるな…」

 

「えへ」

 

ゴトランドが笑顔を送る

 

これも繁盛の秘訣なんだろうな…

 

 

 

 

軽(航空)巡洋艦”ゴトランド”が着任しました‼︎




ゴトランド…弁当屋ちゃん

遥か遠い北欧の国からやって来た、青髪美人のお姉さん

眠そうな外見と違い、結構快活なお姉さん

揚げ物と炭水化物と海苔が好き

仕事終わりに遊戯場で体を動かしている姿をよく目撃されている

縄跳びが上手いらしいよ。凄いね

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。