艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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216話 シャークマウス(5)

次の日の朝…

 

「よく眠れたか⁇」

 

「…まぁ」

 

シャークマウスが大きなあくびをしながら目を覚ました

 

俺、横須賀、親潮が目の前にいてもシャークマウスの目は変わらず本気だが、もう敵意は向けてはいない様子だ

 

「貴方、帰る場所は⁇」

 

「そんなの無い」

 

「なら、ここに居なさい」

 

「…」

 

目を逸らすシャークマウスだが、内心、決心は固まっている様にも見える

 

「あっ。そう言えば、お名前を聞いていませんでした‼︎」

 

「無い。番号で呼ばれていた」

 

「私が決めたげるわ‼︎」

 

「俺が決めてやるよ‼︎」

 

二人同時に言い放ち、互いの目を見る

 

「…なによ」

 

「なんだよ…」

 

そしていつもと同じくヤイヤイ言い合いを始める

 

「ふふっ」

 

「君の親はいつもこうなのか⁇」

 

微笑む親潮の横で呆れるシャークマウス

 

何とも情けない姿の二人を見て、相反する感情を抱く

 

「えぇ。騒がしいのも悪く無いと、いつも創造主様もジェミニ様も仰っています…が…」

 

今日は珍しく取っ組み合って床を転がり回るまでに発展した俺と横須賀の痴話喧嘩を見て、親潮もシャークマウスも呆れ顔になる

 

「…これはどうすれば収まる」

 

「貴方が一言…ここに居たい。そう言えば収まるかと」

 

「…はぁ。分かった‼︎分かった分かった‼︎ここに居たい‼︎」

 

「言ったな⁉︎」

 

「言ったわね⁉︎」

 

「ねっ⁇」

 

「はぁ…」

 

随分情けない場所に就いてしまった…

 

と、シャークマウスは人差し指で頭を抱える

 

「じゃあ、お名前を付けるわね⁇何が良いかしら…」

 

「シャークマウスは鮫です」

 

「鮫…鮫はフカって呼ばれてるな」

 

「なんならシャークマウスでも…」

 

「「「ダメッ‼︎」」」

 

この親子は…と、少し思ったが、シャークマウスはふと口角を上げた

 

こんなにバカで、こんなに真面目に自分の事を考えてくれる人は初めてだったからだ

 

そして、これがシャークマウス最後の微笑みであり、最後の思考となった

 

「フカ…フカ…ん〜…」

 

「フカ…福…」

 

「”福江”なんてどうよ⁇」

 

三人全員が同じ方を向く

 

青い髪の少女の方だ

 

「福江」

 

「そっ。福のある江」

 

「ふかえ」

 

「そうだ。福があるようにな」

 

「私福江」

 

「そうです。ほっぺたおたふくみたいですからね」

 

「あ、あんたのせいだろ‼︎」

 

やはり親潮の一言は効くみたいだ

 

「ほっぺたおたふく福江ちゃんね。登録しておくわ」

 

「ほっぺたおたふくは要らないからな‼︎えと…」

 

「私はジェミニ。横須賀でも良いわ⁇」

 

「俺はマーカス。レイでも良いぞ⁇」

 

「私は親潮。おっちゃんと言ったら怒ります」

 

福江にニコニコ笑い掛ける親潮を見ながら、俺と横須賀は顔を見合わせて微笑んだ

 

あんなに堅物だった親潮が、冗談を言うまでに感情が構築されている

 

「では、親潮はジェミニ様と視察に参ります」

 

「レイも来なさいよ⁇」

 

横須賀と親潮が部屋を出て、俺と福江の二人になった

 

「…過去の事を忘れろとは言わない。その気があれば、いつだって殺しに来ても構わん」

 

「…」

 

「ただ、ここにいる限りは最低限、普通の生活は保証する」

 

「…本当だろうな」

 

「本当さっ。なんなら、横須賀に聞いてみるといいさっ」

 

「今は信じる…」

 

「死神にも、いつか会わせてやるよ」

 

「もういい。マーカスがそう言うなら、死神も同じだろう」

 

「…ありがとう」

 

福江は物分かりの良い子だ

 

確かに我は強いが、ちゃんと言って、それなりの行動を取れば言う事を聞いてくれる

 

「それとな、福江。一つだけ聞きたい事がある」

 

「答えられる事なら」

 

福江の前に障壁発生装置の髪留めと、小型の主砲を置く

 

「これは何処で手に入れた⁇」

 

「あぁ、壊滅した基地の残骸を掻き集めた物と聞いた。深海の技術らしい」

 

「場所は分かるか⁇」

 

「パラオだ。話に聞くと、何度も壊滅させられた内の一回で深海の技術を研究していたから、もう無いと思う」

 

「あの時か…」

 

思い出すのは、ボーちゃんと初めて出逢ったあの日のパラオ

 

パラオには振り回されるな…

 

「そっか…これは研究に回して良いか⁇新しいの造ってやるよ」

 

「あぁ。それなら必要無い」

 

「じゃっ、話は終わりだ‼︎初月‼︎」

 

「ここに」

 

「‼︎」

 

久方振りに初月が天井から降りて来た

 

「福江と一緒に間宮に行って、執務室に戻って来てくれ」

 

初月の分と福江の分の2枚の間宮の無料券を初月に渡した

 

「了解した。福江、行こうか」

 

「んに…」

 

「お⁇」

 

急に可愛い声を出し、福江は俺のズボンの端を掴んだ

 

どうも怖いみたいだ

 

「あ…あっははは‼︎心配するな‼︎」

 

「取って食わないか…⁇」

 

「食わないな⁇初月⁇」

 

「心配するな‼︎僕はただの忍者だ‼︎大尉の御所望なんだ。君に危害を加えたりしない。約束する」

 

「…分かった」

 

福江は嫌そうに手を離し、二度俺の方を振り返り、初月と共に部屋を出て行った

 

「さてっ…」

 

とりあえずは福江の艤装を金庫に仕舞おう

 

貴重なサンプルだ

 

工廠に行き、巨大な金庫の中の一角にそれらを置いた

 

「ロックよし…」

 

ちゃんと戸締りを確認し、いざ視察に向かおうとした時だった

 

「ん⁇」

 

海水浴場の方が騒がしい

 

何かを造っているみたいだ

 

「お〜いレイ〜っ‼︎手伝ってくれ〜っ‼︎」

 

アレンが呼んでいる

 

アレンの呼び声に答え、海水浴場へと向かう…

 

 

 

数日後、何を造っていたか分かる事になる

 

 

 

 

海防艦”福江”が仲間に加わりました‼︎




福江…シャークマウス

アークロイヤルbis戦の生き残りであり、撃沈された後も海の底でカプセルの中で生命を維持していた

自身を撃沈し、ほったらかしにしたレイとゴーヤを強く恨んでいたが、二人が本当は助けたかった事を知り、今はそれが本当かどうか確かめる為に横須賀にいる

深海の技術が生かされた艤装を使い、小柄な体から高火力を繰り出せる

口は大人っぽいが、行動は子供っぽい

親潮にボッコボコにされてほっぺたがおたふくみたいになってしまい、清霜や横須賀にムニムニされる日々を送っているが、案外嫌いではないらしい

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