艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、214話が終わりました

横須賀がリチャードをずいずいずっころばしに行くのを止めた理由とは⁉︎

今回のお話では、恐らく、リチャードがどれだけ彼女を愛しているのかが分かります


215話 機械仕掛けの愛(1)

「…もう三日よ⁇」

 

「よっぽど好きだったんだな…」

 

俺と横須賀の二人が、ずいずいずっころばしの店内を盗み見する…

 

店内には、いつものカウンター席に座る親父が一人

 

他には誰もいない

 

こうなったのには、訳があった…

 

 

 

 

三日前

 

レイを迎えに行ったその日、リチャードはいつものようにずいずいずっころばしに入った

 

「瑞鶴〜‼︎来たぞ〜‼︎」

 

「イラッシャイマセ」

 

「お⁉︎あ⁉︎え⁉︎」

 

店内に入った瞬間、親父の思考が止まる

 

いつも瑞鶴が笑顔を送りながらお寿司を握っているカウンターの向こうに、瑞鶴そっくりなロボットがいたからだ

 

「オスキナセキニ、ドウゾ」

 

「えっと…ずいずいずっころばし、だよな⁇」

 

「ハイ。トウテンハ、ズイズイズッコロバシデス。ワタシハズイカク。オスシヲニギリマス」

 

ウィンウィン

 

モーター音を出しながら、ズイカクロボは自己紹介をした

 

「ず、瑞鶴だと…君がか⁉︎」

 

「ハイ。ワタシハズイカク。オスシヲニギリマス」

 

「…」

 

リチャードは何とも言えない気分になりつつも、いつものカウンター席に腰を下ろした

 

「ナニヲニギリマショウ」

 

「えと…かんぴょう巻きを…」

 

「アリガトウゴザイマス。カンピョウマキ、ハイリマシタ」

 

リチャードが注文した通りに、ズイカクロボは器用にかんぴょう巻きを作り上げて行く…

 

「カンピョウマキデス」

 

「ありがとう…」

 

コト…

 

リチャードの前にかんぴょう巻きを乗せた皿が置かれる

 

リチャードは早速かんぴょう巻きを口に運ぶが、いつもの明るくうるさい会話は無い

 

「オイシイデスカ」

 

「あぁ、美味いよ…」

 

「ウレシイデス」

 

無機質に喜びを見せるズイカクロボから目を話す事無く、四つあるかんぴょう巻きの二つ目を口に運ぶリチャード

 

「あちゃあ…」

 

「何だよあれ」

 

ようやく追い付いたレイと横須賀が、ずいずいずっころばしの暖簾を分ける

 

「ジェミニ。瑞鶴は何処だ⁇」

 

箸を置き、背中で語るリチャード

 

「そこに居ます…」

 

その背中を見ながら話す横須賀

 

二人の視線の先が一致する

 

「イラッシャイマセ。ニメイサマデスカ」

 

「今…中将の目の前にいるのが、正真正銘…瑞鶴です」

 

「どうしてこうなった…」

 

「瑞鶴はあの後、カプセルで治せない程の内部大破をしまして…基地に帰投するなり手術を受けました。その結果です」

 

「そんなバカな…」

 

リチャードの肩から気が抜け、ストンと落ちた

 

「お寿司握りロボにはなりましたが、今目の前にいるのは瑞鶴です」

 

「瑞鶴‼︎俺だリチャードだ‼︎」

 

リチャードは立ち上がり、お寿司握りロボに話し掛けた

 

「リチャードサン…ズイカク、オボエマシタ」

 

「瑞鶴…」

 

首をうなだれ、リチャードは深いため息を吐く

 

「…私のせいだ」

 

「違います中将。瑞鶴は最後の使命を果たしたまでです」

 

「すまん…二人にしてくれないか…」

 

「えぇ…レイ。行きましょ…」

 

「あ…あぁ…」

 

流石のレイでさえ掛ける言葉が無く、横須賀と共にずいずいずっころばしから出た…

 

「ナニヲニギリマショウ」

 

「ごめんな…瑞鶴…」

 

「ナゼ、アヤマルノデスカ」

 

「私が頼んだから…瑞鶴がこうなるとも知らずに…」

 

ウィーン、パフォ

 

「アツイオシボリデス。ナミダヲフイテクダサイ」

 

「…」

 

渡された熱いおしぼりで、リチャードは顔を拭き、涙を拭う

 

「ナゼ、ナイテイルノデスカ」

 

「そんな事も分からなくなってしまったのか…」

 

「ズイカクニハ、リチャードサンガ、ナイテイルリユウガ、ワカリマセン」

 

「…」

 

リチャードは半泣きの顔になり、目を閉じた

 

明るい店内を思い出していた

 

明るい瑞鶴を思い出していた

 

今となっては、良き思い出…

 

「分かった…瑞鶴。一人じゃ寂しいだろ…」

 

「オキャクサマガコナイノハ、サミシイデス」

 

「熱燗をくれるか⁇」

 

「アツカンデスネ。ショウショウオマチヲ」

 

リチャードはずっと瑞鶴を見ていた

 

無機質にモーター音を出しながら熱燗を作り、店内にはリチャードしかいないのに、せっせこせっせこお寿司を握っては、レーンに流しているその姿を、ずっと眺めていた…

 

 

 

 

 

「…」

 

いつの間にかリチャードはカウンターに頭を置いて眠ってしまっていた

 

ウィーン、ウィ、ウィーン、パサ…

 

リチャードが眠った事に気付いたお寿司握りロボは、椅子に掛かっていたリチャードのジャケットを背中に被せた

 

「テンナイハ、サムイデスカラネ」

 

「中将…」

 

「イラッシャイマセ」

 

心配になったウィリアムが来た

 

「中将、帰りましょう」

 

「ん…んぁ…ウィリアムか…放って置いてくれ…」

 

「ベッドで寝ないと…さぁ」

 

ベロンベロンに酔い潰れたリチャードを何度も揺すり、何とか起こす

 

「瑞鶴をなぁ…一人にしたくないんだ…」

 

「気持ちは分かりますが、閉店時間です」

 

「んぁ…あぁ…そうだな…そりゃいかんな…」

 

「代金は後で払いに来ますから、このまま」

 

「ん〜…すまんなウィリアム…」

 

ウィリアムに肩を貸して貰い、リチャードはようやく重たい腰を上げた

 

ずいずいずっころばしを出ても、リチャードは相変わらず酔っ払ったまま、ウィリアムに肩を貸して貰いながらフラフラ歩いていた

 

「フラフラしてるとレイにドックに放り込まれますよ」

 

「ドックかぁ…」

 

「ジャーヴィスにも笑われますよ」

 

「ドック…ジャーヴィス…はは、毒ジャーヴィス‼︎毒ジャーヴィスだ‼︎」

 

「ダメだなこりゃ…」

 

ウィリアムは鼻で笑いながら、もたれかかった腕を持ち直した

 

「リチャードサン」

 

何故かお寿司握りロボが着いて来ていた

 

「おぉ、瑞鶴。どうした。また明日行くぞ〜」

 

「オトシモノデス」

 

ウィーン、ポト

 

「小銭入れか…ありが…」

 

感謝の言葉を述べようとしたリチャードの口が止まった

 

「マタノオコシヲ、オマチシテイマス」

 

キュラキュラキュラキュラキュラキュラ…

 

「瑞鶴…」

 

カウンターに居たから気付かなかった

 

お寿司握りロボの足はキャタピラになっていた

 

「お前、そんな姿になってまで…」

 

ガラガラガラ…ピシャ

 

「うぅっ…‼︎」

 

届けられた小銭入れを、リチャードは強く握り締めた

 

「見たかウィリアム…」

 

「はい、中将。確とこの目で…」

 

「私に関わる女性は、皆足に何か抱えるんだ…はは…浮気したバチだな…」

 

「そんな事はありません。さぁ…」

 

この後リチャードはウィリアムに連れられ、ようやく自室に辿り着き、ベッドで眠った…


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