艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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213話 歌いたい、叫びたい(2)

「松輪ちゃん⁇」

 

「んだ」

 

「おま…話せたのか…⁉︎」

 

「さっきジャーヴィスさんのお歌聞いてたら、オラも歌いたいと思っただよ」

 

可愛い顔して、ドが付く田舎っ子丸出しの訛り

 

その訛りが強い話し方で、声は歳相応の可愛い高い声

 

「なして皆プルプルしてるだよ」

 

「松輪っ‼︎」

 

「松輪ちゃん‼︎」

 

横須賀と同じタイミングで松輪を抱き締める

 

「お⁇お⁇まぁかすさんも、ジェミニのねーちゃんもどうしただ‼︎」

 

「よかった…よかったよ松輪っ…」

 

「ジャーヴィスもギューすル‼︎」

 

ジャーヴィスもくっ付き、松輪は三人に潰れる位抱き締められた

 

「あ、暑いだよ‼︎」

 

「はは、すまんすまん‼︎」

 

全員松輪から離れ、松輪の頭を撫でた後、それぞれが別の場所に向かう

 

「ぼーさん。オラの傍にいてくんろ」

 

《ボクはずっと松輪ちゃんの傍に居るよ》

 

「あんがとなぁ、ぼーさん。オラの代弁さ、してくれて」

 

《ボク、楽しいからいいよ‼︎》

 

松輪はボーちゃんを撫でた後、吹雪に目をやった

 

「吹雪さん、オラとお絵かきしよなぁ」

 

《あ、そうだ》

 

ボーちゃんは吹雪に触手を伸ばし、額に置いた

 

吹雪は目をパチクリしながら触手に目を向け、手を伸ばす

 

《これなぁに⁇》

 

「お〜。吹雪さんも話せるだよ…オラの事も分かるか⁇」

 

松輪は吹雪に顔を近付ける…

 

《まっちゃん》

 

「おー‼︎正解だぁ‼︎オラの事、分かってくれてるだよ‼︎」

 

吹雪はおしゃぶりを取り、ボーちゃんの触手の中腹部を掴んだ

 

《イデッ‼︎》

 

前歯が少し生えた口で、吹雪はボーちゃんの触手の中腹部を齧り始めた

 

《ボール》

 

《ま、マーカスさん‼︎》

 

「ボーちゃん痛いよ〜って言ってるぞ⁇」

 

吹雪は俺の声に反応して此方を見ながらも、口はモゴモゴさせている

 

吹雪の口からボーちゃんの触手を取ると、吹雪は机に置いてあったおしゃぶりに手を伸ばした

 

「吹雪もお腹空いてるのよ。さっ、吹雪⁇お姉さんとご飯にしましょうねぇ〜⁇」

 

吹雪は横須賀に任せよう

 

吹雪の目線はご飯の方に行ってるしな…

 

「大丈夫か⁇」

 

《大丈夫‼︎》

 

一応ボーちゃんの触手を見るが、特に傷は無いみたいだ

 

「今日はエビフライですよ〜」

 

《やった‼︎》

 

今日の給食は、ボーちゃん念願のエビフライ

 

「エビフライ美味しいだよ‼︎」

 

「サクサクだネ‼︎」

 

《美味しい美味しい‼︎》

 

三人共ご満悦

 

ボーちゃんに至っては、両手に一尾ずつ持ってムシャ付いている

 

「はい、吹雪。あ〜…」

 

横須賀の前では吹雪が離乳食を食べている

 

「うんっ‼︎上手よ吹雪〜‼︎」

 

憎い…

 

あの笑顔が憎イ…

 

そんな顔ヲするナ…

 

「ダーリン」

 

「はっ…」

 

知らぬ間に握り締めていた左手の上に、ジャーヴィスの小さな手が乗る

 

「大丈夫だよ、ダーリン」

 

「ジャーヴィス…」

 

ジャーヴィスの青い瞳に自分の姿が映る…

 

ジャーヴィスにそんなつもりは無いのだろうが、今の俺の感情を見透かされているような、透き通った目をしている…

 

「ジャーヴィスにア〜ンして‼︎」

 

「んっ‼︎ほらっ‼︎」

 

「ぱくッ‼︎」

 

口の周りに衣を付けて、実に美味そうに食べるジャーヴィスを見てホッとした…

 

 

 

 

給食が終わると、子供達はお昼寝の時間

 

「ダーリン…」

 

「どうした⁇」

 

肘を付きながら横になり、ジャーヴィスのお腹をポンポンしていると、布団の中から手が伸びた

 

そして、左手を握られる

 

「ダーリン、ホントはワァーって言いたイ⁇」

 

「そうだな…みんなには内緒にしておいてくれるか⁇」

 

「うん…ジャーヴィス、ダーリンの味方だヨ…」

 

ギュッと握られる左手…

 

ただただ握り返す事しか出来なかった…

 

「ありがとな…」

 

「ん…」

 

頭を撫でると、ジャーヴィスは昼寝を始めた…

 

 

 

 

「気を付けて帰るのよ〜‼︎」

 

皆が帰り始め、横須賀は校門で皆を見送っている

 

子供達は皆、秋津洲タクシーに入れて来た

 

俺は一人、高等部の部屋の窓際でタバコを吹かしていた

 

目線の先には、変わらず笑顔を送る横須賀がいる

 

「マーカス君」

 

「香取先生」

 

香取先生も窓際に立ち、横須賀を見る

 

「妬いてるのね⁇」

 

「俺がか⁉︎」

 

「マーカス君、自分で気付いてない⁇元帥が子供達に笑顔を送る度にマーカス君、とっても悲しそうな顔してるの…」

 

「ずっと悩んでるんだ…やっぱり、マトモな男の子供を産みたかったんだろうな…って」

 

「マーカス君…」

 

「赤ん坊やら、ひとみといよには母親の顔を見せるんだ…あぁ、これが横須賀のしたかった事なんだな、って」

 

「元帥はそんな事思っ…」

 

「思ってるよ」

 

香取先生の言葉を遮り、ジャーヴィスと同じ様に香取先生の瞳を見つめる…

 

「ひっ…」

 

香取先生の体が固まる

 

「マーカス君、貴方、今ウィリアムと…」

 

「大尉‼︎」

 

香取先生を睨んでいる最中、一人の兵が入って来た

 

「どうした⁇」

 

すぐにそっちに顔を向ける

 

「太平洋沖に未確認機の反応が三機あるとの報告が‼︎」

 

「分かった、俺が出る」

 

「ま、マーカス君‼︎」

 

「横須賀には言うなよ‼︎」

 

そのまま兵と一緒に学校を出た

 

 

 

 

「大尉、グリフォンは…」

 

今日は秋津洲タクシーで来たので、グリフォンはいない

 

「T-50を貸してくれ」

 

「了解。三番格納庫の機をお使い下さい。スクランブル出るぞ‼︎」

 

今はとにかく、ここから出たかった

 

横須賀に居たくなかった

 

子供達と帰れば良かったとは思ったが、今は一緒にいたくはなかった

 

「ワイバーン、出る」

 

バーナーを吹かし、横須賀から一気に離れる…

 

《目標到達まで、五分。依然、アンノウン反応です》

 

「了解」

 

…来いよ

 

今の俺を癒せるのは、コレしかない

 

深く深呼吸をし、久方振りの感覚を取り戻して行く…

 

 

 

 

「レイが行ったの⁇」

 

「そうだ。スクランブルらしい」

 

「そっ」

 

横須賀は執務室で爪を研いでいた

 

「母さん‼︎もうちょい心配してやれよ‼︎」

 

「してるわよ〜」

 

朝霜に言われても、横須賀は爪を研ぎ続ける

 

「父さん、ヤキモチ妬いてんだぜ…」

 

「…レイが⁇」

 

「そうだよ‼︎母さんが赤ん坊の面倒見る時、父さんには見せない顔になってんだよ‼︎それ見て父さん、スッゲー悲しい顔してんだぜ⁇」

 

「…」

 

横須賀は爪研ぎを止め、朝霜の顔を見た

 

「それ…ホントに言ってる⁇」

 

「ホントだ‼︎」

 

「げ、元帥‼︎」

 

朝霜と話を破るかの様に、執務室の扉が叩かれる

 

「開いてるわ」

 

「失礼します‼︎」

 

電文を持った兵が来た

 

「ワイバーン、レーダーからロスト‼︎現在、捜索隊が出動しました‼︎」

 

「嘘…」

 

「ば…場所は何処だ⁉︎アタイが出る‼︎」

 

「やめなさい朝霜‼︎もしレイが落ちてたらアンタも落ちるわよ‼︎」

 

「く…」

 

「捜索隊を出して頂戴。場所は⁇」

 

「はっ。この辺りでレーダーからロストしました」

 

地図を開け、レイが消息を絶った場所に赤いピンを付けて貰う

 

「分かったわ。ダイダロスを向かわせて頂戴」

 

「了解しました‼︎」

 

兵が部屋から出た後、横須賀は膝を落とした

 

「あぁ…」

 

「心配すんな母さん…父さんは無事だよ…なっ⁇」

 

「私の所為だ…私がレイにちゃんとしてあげなかったからだ…」

 

この日、朝霜は産まれて初めて母親が泣く姿を見た…

 

 

 

 

レイが消息不明になりました


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