艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、212話が終わりました

今回のお話は、学校のお話です

小さな子を見る度に、母親の顔になる横須賀

その隣で、レイは複雑な思いを抱きます


213話 歌いたい、叫びたい(1)

「行てきま〜ス‼︎」

 

《行って来ます‼︎》

 

「行ってらっしゃい‼︎後で行くわね‼︎」

 

横須賀に見送られ、学校に向かうジャーヴィスと松輪

 

「おはようございますだリュー‼︎」

 

今度は吹雪を抱っこしたリシュリューが来た

 

「おはよう‼︎吹雪はどう⁇」

 

「吹雪っ、横須賀さんだリュー‼︎」

 

リシュリューがそう言うと、吹雪は横須賀の方を向いた

 

おしゃぶりを咥えた吹雪は、横須賀の目をジーッと見ている

 

「おはよう吹雪っ‼︎」

 

顔を近付けた横須賀を見ながら、リシュリューの胸に頭を置く吹雪

 

「吹雪は甘えんぼさんだリュー」

 

見ている限り、吹雪はリシュリューに懐いている

 

「ふふっ‼︎行ってらっしゃい‼︎」

 

「行ってくリュー‼︎」

 

吹雪とリシュリューを見送り、後ろを振り返ると、パンを咥えた磯風が走って来た

 

「コラ磯風‼︎物咥えて走らない‼︎」

 

「すまんオカン‼︎遅刻する‼︎」

 

猛スピードで走り去って行った磯風は、ソニックブームを巻き起こした

 

「キャッ‼︎」

 

「ワォ‼︎」

 

横須賀のスカートやら、たまたま歩いていたサラのスカートが舞い上がる

 

「「やだ、もぅ…」」

 

同じタイミングで、同じ言葉を放つ、横須賀とサラ

 

「おぉ〜…」

 

疎らに歩いていた男性から、嬉しい方のため息と、何故か拍手が送られた

 

「横須賀は黒のレースっ…」

 

「サラは白のシルクっ…」

 

クソ真面目な顔して、馬鹿丸出しの事をメモに書く、俺とマーク

 

横須賀とサラ、それぞれの旦那が校門前にいた

 

「レイっ‼︎」

 

「マー君っ‼︎」

 

「「何書いてるのかしら〜⁇」」

 

母娘丸出しの言葉を同時に言われる

 

顔を近付ける所までソックリだ

 

「ほっ、本官は職務中であり…」

 

そう言いながらマークの方を見ると、サラがマークの頬を引っ張っていたが、マークは微動だにしていない

 

「だ・し・な・さ・いっ‼︎」

 

「わ、分かった分かった‼︎」

 

歯を剥き出して怒る横須賀に根負けして、内ポケットからメモを出した

 

それよりマークの方が面白そうだ

 

「い〜っ‼︎よ⁇マー君っ‼︎」

 

サラは何度もマークの頬を引っ張っているが、マークはそれでも微動だにしない

 

グギギ…と、音が出そうになる位引っ張りながら、サラは眉をピクピクしながら少しだけ怒りを露わにする

 

「もぅ…サラ泣いちゃうわよ…ぐすん…」

 

頬のグギギ引っ張り

 

「分かった分かった‼︎ほらっ‼︎」

 

流石に根負けしたマークも、サラにメモを渡した

 

「私とレイはこのまま学校の視察。お父さんとお母さんは⁇」

 

「朝ごはん食べて、今日はお休みしてお散歩して来るわ⁉︎」

 

「そっ⁇間宮行くの⁇」

 

「ズイズイズッコロバシだ。じゃあなジェミニ‼︎」

 

「じゃあねぇ〜‼︎」

 

サラがフリフリ振る手に、横須賀が反応して振り返す

 

俺とマークは顔を見て頷き合った

 

「さ。行くわよ」

 

いつも通り、まずは中等部の授業参観

 

「…ねぇ」

 

「…あぁ」

 

先生は鹿島

 

他のみんなも疎らにいるが、教室に入る前から分かる

 

磯風が机に突っ伏して寝ている‼︎

 

横須賀がゆっくりと教室の後ろのドアを開け、磯風に近付く…

 

横須賀は磯風の教科書をそ〜っと取り、軽く丸めた…

 

「い〜そ〜か〜ぜ〜…」

 

一文字言う毎に、横須賀は磯風の頭を教科書で軽く叩く

 

「ん…眠っていたか…」

 

「ダメでしょ⁇授業中に寝たら」

 

「すまない…くぁ〜…」

 

磯風は大あくびをした後、ちゃんと鉛筆を持って授業を受け始めた

 

「朝霜は工廠にいるの⁇」

 

「あぁ。今日はい〜ちゃんだけだ」

 

「ちゃんと勉強しなさいよ⁇」

 

「うぬ」

 

磯風がちゃんと前を向いたのを確認した後、横須賀は教室から出て来た

 

「お前に似たんだな」

 

「…それは否定しないわ」

 

次は高等部の参観

 

先生は香取先生

 

今度は一緒に教室に入る

 

「居住区には、こういったマナーがあります」

 

どうやらマナー講習のようだ

 

「アンタも学ん…」

 

横須賀が言う前に席に座っていた

 

横須賀も何も言わずに横の席に座り、香取先生の授業を傍観する…

 

「ふふ…大きな生徒がいるみたいです…ねっ‼︎」

 

意味も無く襲い掛かる香取先生のチョーク投擲‼︎

 

「よっと‼︎」

 

ハイスピードで一直線に此方に飛んで来たチョークを、右手の中指と人差し指で受け止める

 

「「「おぉ〜‼︎」」」

 

「はいっ‼︎マーカス君‼︎ここでセリフ‼︎」

 

「礼には礼で返さんと…なっ‼︎」

 

香取先生に高速でチョークを投げ返す

 

香取先生は眼鏡を光らせてニヤリとした後、顔の横で右手でチョークを取った

 

「はいっ、よく出来ましたっ‼︎居住区では、何かをされたら必ず恩で返します‼︎」

 

「「「おぉ〜‼︎」」」

 

生徒からまた歓声が上がる

 

歓声が上がると同時に腰を上げ教室を出ようとした

 

「マーカス君⁇先生の眉間から12.3cmズレてましたよ⁇」

 

「ワザとだよ‼︎早く旦那見つけろよ‼︎」

 

「あっ…」

 

香取先生が悶絶するのを見ながら、横須賀と一緒に教室を出た

 

「アンタいっつもあんな授業受けてたの⁉︎」

 

「まぁな。香取先生は特にだ」

 

「ヒェ〜…」

 

「因みに言うと、チョーク返しは必須科目だ」

 

「ヒェ〜…」

 

ヒェ〜…しか言わなくなった横須賀を横に置きながら、園児部に向かう

 

本当は初等部があるのだが、今日はお休み

 

「さてっ…」

 

園児部に入ると、みんなでお歌を歌っていた

 

ジャーヴィスが一番デカイ声で歌っていると言うか、今日は他に園児がほとんど居ない

 

知っているのは松輪と、吹雪くらいだ

 

後は二、三人、何処かの基地の子が一緒に歌っている

 

松輪は吹雪の横で紙に何か書いており、吹雪はおしゃぶりを咥えながら、松輪の手元を見ている

 

時々松輪は吹雪と顔を合わせ、松輪は微笑み、吹雪は体を縦に振っている

 

ボーちゃんはそんな二人を見守るかの様に二人の目の前でユラユラ揺れている

 

「可愛い…」

 

「…」

 

最近駆逐艦の子達に避けられなくなったのは、母性が強くなったからなのかも知れない…

 

ひとみといよと散歩している時もそうだが、横須賀は本当に小さな子を見ると母親の顔になる

 

今も横でその顔をしている

 

その顔を見る度、俺の心の何処かがチクリと痛む

 

「あ。元帥、大尉。お疲れ様です」

 

「あ‼︎ダーリン‼︎」

 

「よいしょっ‼︎」

 

ピアノの音が止まり、由良とジャーヴィスがこっちを向き、ジャーヴィスが飛び掛かって来たのを抱き留める

 

「さっ。給食にしましょうか。お二人も御一緒に」

 

「頂こうかな」

 

「そうしましょう。検食代わりよ」

 

由良が給食を準備する最中、俺と横須賀は子供達に前掛けを掛ける

 

「給食は何かナ〜‼︎」

 

「お腹減ったー‼︎」

 

「オラもお腹空いただよ‼︎」

 

「…へ⁇」

 

「え…」

 

俺はジャーヴィス、横須賀は吹雪の前掛けを掛けていた手が止まり、由良に至っては注いでいたお茶がドポドポ垂れている

 

「ぼーさん。ぼーさんは何食べたいだよ」

 

《ぼ、ボクはエビフライ…》


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