艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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題名と話数は変わりますが、前回の続きです

一時的にりさの待つ居住区に帰った健吾

互いの思いを確かめる為、レイはラバウルに向かう…


208話 交差する思いと想い(1)

健吾を居住区に置き、俺はその足で横須賀に戻り、今度はラバウルに飛んでいた

 

《今日は忙しいね》

 

「ヘタすりゃまだ動くぞこりゃ…」

 

普段から横須賀以外の周りから「動き過ぎ」と言われているが、動いていた方が気が楽な時もある

 

「着いたね」

 

「さ〜て、どう出るか…」

 

ラバウルに来た目的は二つ

 

一つは健吾を居住区へ送った報告

 

もう一つは大和の様子を見る為

 

最初の目的はすぐに終わった

 

食堂にラバウルさんが居たからだ

 

「ラバウルさん」

 

「マーカス‼︎申し訳ありませんね…健吾を送って頂いて…」

 

「いいドライブだったよ。これ、報告書です」

 

「何から何まで申し訳ありません…今の健吾を一人にすると、変な気を起こしかね無いのでね…」

 

「まぁなっ…」

 

ラバウルさんの言う通りだ

 

今の健吾を一人でジープに乗せて居住区に行かせたら、恐らくヤケを起こしていただろう

 

だったら俺が着いて行って、バカな話でもしていた方がウンとマシだ

 

「それで、大和は…」

 

「健吾の部屋に居ますよ」

 

「僕はアイちゃんの所にいるね⁇」

 

「終わったら呼びに行くからな」

 

きそとラバウルさんと別れ、健吾の部屋に向かう

 

健吾の部屋の前に着き、扉を叩く

 

「マーカスだ」

 

いつもならすぐに反応があるのに、今日は無い

 

「大和。俺だマーカスだ。開けるぞ」

 

鍵は掛かっていなかったので、扉を開けて中に入る

 

「大和〜…」

 

相変わらず綺麗に整理整頓されている健吾の部屋に、大和の姿は無い

 

「ん⁇」

 

健吾の机に紙切れが一枚

 

「…」

 

その紙切れを見て、頭を抑えて机に拳を振り下ろした

 

 

 

”トラックに行きます

 

しばらくお暇を頂きます

 

大和”

 

 

 

 

「マーカス⁇」

 

「レイ‼︎」

 

俺が机を殴る音が聞こえたのか、ラバウルさんとアレンが来た

 

無言で置き手紙と化した紙切れをを二人に突き出す

 

「これは参りましたね…」

 

「傷を抉りに来たな…」

 

「まぁ、健吾の休暇が終わるまで待ってやろう。大和にも考えがあるかも知れない」

 

健吾を居住区に”保護させた”のは正解だったみたいだ

 

健吾は何も知らないままでいられる

 

こんな逆三行半みたいなモン面と向かって突きつけられた日にゃ、健吾は…

 

あぁ、考えたくもない…

 

 

 

 

休暇中の健吾は、これ以上にない充実した日常を過ごしていた

 

自分を待っていてくれた人と過ごす日々…

 

食事でさえ、散歩でさえ、ただの少しの会話でさえ、健吾は幸せだった

 

ただ、健吾は彼女は抱こうとはしなかった

 

その一線だけは越えなかった

 

そして最終日…

 

「綺麗ですわね…」

 

「うんっ…」

 

二人は思い出の観覧車の中にいた

 

りさは健吾に嬉しそうに腕を絡め、健吾は照れ臭さそうに外を見ながら、りさと手を絡める

 

「必ず帰って来て下さいね…このりさ、ずっと健吾さんを待っておりますから…」

 

「ありがとう、りさ…それだけで今日まで生きてこれた…」

 

りさは健吾の肩に頭を置き、健吾はそれを優しく撫でた

 

「もし、今のお嫁さんが元の鞘に収まってしまったら…」

 

「笑って見送るよ」

 

「りさがその指環…代わりに付けますわ⁇」

 

健吾が首から下げている、ネックレスに付いた二つの指環の内片方をりさが見つめる

 

「大丈夫。俺、大和もりさも信じてる。だから、大丈夫‼︎」

 

「や〜っと笑って下さいましたわ‼︎それでこそ健吾さんですわっ‼︎さっ‼︎降りますわよ‼︎」

 

最後の日が終わる…

 

この観覧車を降りれば、健吾は横須賀に帰らなければならない

 

「あっ…」

 

りさが立とうとした時、健吾は産まれて初めてのワガママを彼女にした

 

彼女を抱き寄せた後、か細く震える体をキツく抱き締めた

 

「もう一周だけ…お願い…」

 

「構いませんわ…貴方となら、何処までも…」

 

健吾は感じていた

 

自分の為に、鼓動を早めてくれる女性の存在を…

 

彼女をグッと抱き締めた後、頭に鼻を付け、深く息を吸い込む…

 

焼き立てのクッキーのような甘い香り、そしてシャンプーの匂いを肺に記憶させる為に、健吾は深く息を吸った…

 

 

 

 

「りさ」

 

「ん…」

 

別れの間際まで、りさは腕に付いていてくれた

 

「貴方の帰る場所は、ここと…空の上ですわっ⁇」

 

「…行って来る‼︎」

 

「えぇ‼︎このりさ、ここでお待ちしておりますわっ‼︎」

 

健吾は何度も何度もりさの方を振り返りながら、ジープの待つ場所に来た


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