艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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207話 血に踊る番犬(6)

「レイさん‼︎」

 

「お楽しみのようで」

 

「ありがとな、二人共」

 

健吾は両手に花状態

 

いや、片方は膝の上、か…

 

「構いませんわ。あれは少し辛い場面でしたの…」

 

「誰だって落ち込みますわ⁇」

 

「知ってるのか⁇」

 

何故か二人は健吾に何があったか知っていた

 

「情報は早いのですよ⁇マーカス大尉⁇」

 

フォティにそう言われ、渋々頷く

 

「数秒だけ良いか⁇」

 

「えぇ」

 

「明日、俺と一緒に居住区に行こう。詳しい話は明日する。あぁ心配するな‼︎悪い話じゃない‼︎」

 

「了解です」

 

「じゃっ、後はお楽しみを…」

 

そのまま、きそ☆ウォークよろしく軽やかに後退し、また店を出た

 

あの様子じゃ、俺よりサティとフォティに任せた方がよさそうだ…

 

 

 

 

「女で出来た傷は、女でしか埋められない…か」

 

「父に教えて頂いたお言葉ですわ⁇」

 

「良いお父さんなんだね⁇」

 

「えぇ、とても…わたくし達が癒せるのなら、自分が嫌じゃない程度に癒してあげなさい、と教えて頂きましたわ⁇」

 

 

 

次の日の朝…

 

「よっ」

 

「おはようございます」

 

ジープの発着場に来た健吾は、昨日より元気そうに見えた

 

「乗ったか?」

 

「はい」

 

健吾がシートベルトを締めたのを確認した後、健吾の膝の上に書類を置いた

 

「一週間の有給消化命令だ」

 

「良いんでしょうか…こんなタイミングで…」

 

「こんなタイミングだから取るんだよ‼︎ほら行くぞ‼︎」

 

「うぉっと‼︎」

 

戸惑っている健吾をよそに、アクセルを踏んだ

 

 

 

 

基地を出て、高速に乗る寸前で赤信号で停まった時、タバコに火を点けながら口を開いた

 

「昨夜は楽しかったか⁇」

 

「シンプルに有意義でした。飲んで、話して、癒されて…」

 

「そっかそっか」

 

信号が青に変わり、高速に乗る

 

「レイさんはジェミニさん以外に女性を抱いた事ありますか⁇」

 

「いきなり爆弾放り込むな…」

 

とは言うが、健吾の楽しそうな顔を見ると言わざるを得ない

 

「鹿島とグラーフ、んで、最近アークを抱いた。あぁ‼︎言っとくがグラーフは不発だ‼︎ミハイルにチクんなよ⁉︎」

 

「良いなぁ…俺はあみさんだけです」

 

うわ…結構キッツイな…こりゃ…

 

あれだけ一緒に居たのに抱かなかったのか…

 

いや、抱けなかったかもしれない

 

急に横の景色を見だした健吾の、窓に反射したその顔は少し悲しく、少し怒った顔をしていた

 

「良い事教えてやろうか⁇」

 

「なんですか⁇」

 

「女で出来た傷は、女でしか癒せないんだ」

 

俺がそう言うと、健吾は笑いながら俺を見た

 

「…何がおかしいんだよ」

 

「いえ。昨日も同じ事を聞いたな、って」

 

「当たってたろ⁇」

 

「えぇ‼︎」

 

ようやく健吾の笑った顔を見れた

 

「しっかしまぁ…あのサティとフォティって誰なんだろうな⁇」

 

「知らないんですか⁉︎」

 

「あぁ…この前のイントレピッドDauの演習の時に、か〜な〜り‼︎世話になった‼︎」

 

タバコを消しながら健吾に話す

 

デカデカと灰皿の中に貼られた”NO SMOKING‼︎”と絵と文字で描かれたシールの上に吸い殻を押し付けて閉めようとしたら、健吾もタバコを吸い始め、手でストップした為、開けたままにした

 

「…意外です」

 

「さ。着いたっ‼︎」

 

話していたらあっと言うまに居住区に着いた

 

艦娘が住んでいるエリアの手前でジープを停め、健吾を降ろした

 

「あ、あの‼︎レイさん‼︎」

 

「グラーフは不発だからな‼︎」

 

「分かりました‼︎じゃなくて‼︎俺どこに行けば‼︎」

 

「…お前を待っててくれる場所があるだろ⁇」

 

「あ…はいっ‼︎」

 

何かに気付いた健吾の顔が一気に明るくなる

 

「分かってるなら早く行け‼︎それとな健吾‼︎」

 

「はい‼︎」

 

既に歩き始めていた健吾に言った

 

「グラーフは不発だか」

 

話の途中で健吾が言った

 

「分かってますよレイさん‼︎グラーフさんに抱かれたんですね‼︎」

 

「轢き殺すぞ‼︎ゼッテー言うな‼︎」

 

「はーいっ‼︎」

 

互いに満面の笑みで別れ、健吾は第二の帰る場所

 

俺はビスマルクの家に向かった

 

 

 

レイさんと別れた俺は、ある家の呼び鈴を鳴らした

 

《は〜い‼︎何方様ですの⁇》

 

「あの…か、かしわ…」

 

《‼︎》

 

インターホンが消え、家からドタドタと音が聞こえたかと思えば、勢い良く扉が開いた

 

「健吾さんっ‼︎」

 

出て来たのはりさ

 

りさは出て来た瞬間、俺に飛び付いて絡みつくように抱き着いてくれた

 

「お帰りなさいまし‼︎」

 

「ただいま、りさ‼︎」

 

ただ帰って来ただけの俺を見て、こんなに喜んでくれた

 

「お腹空きましたでしょう⁇何か食べましょう⁇」

 

りさの家に入る…

 

二階建ての綺麗な家だ

 

あ。りさ独特の匂いがする

 

焼き立てのクッキーのような甘い香りだ…

 

「さっ‼︎座ってくださいまし‼︎」

 

久方振りに”食卓”に座る

 

いつもはだだっ広い食堂のようなスペースで食べるので、こういった二人きりの空間で、二人きりの食卓に座るのは店を除いて本当に久方振りだ

 

「健吾さんの好きなスパゲティを作りますわ‼︎」

 

「おぉ〜‼︎」

 

「さっ‼︎お煙草でもお吸いになって⁇」

 

灰皿を置かれ、言葉に甘えて煙草に火を点ける

 

「何かありましたの⁇」

 

「実は…」

 

りさには全てを話した

 

りさだけは、何でも話しても構わない…

 

そんな気がした

 

「結構キツイですわね…」

 

「ごめんよ、こんな話…」

 

「構いませんわ⁇私、健吾さんの事、もっと知りたいですもの‼︎さっ‼︎出来ましたわ‼︎」

 

何気無しにりさに言われた一言がとても嬉しかった

 

こんな自分にでも、待っててくれる人が居たのか…

 

「休暇中はここに居てくださいまし。私とお出掛けしましょう⁇ねっ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

りさも俺もスパゲティを食べながら微笑み合う

 

俺が欲しかった”ケッコン生活”はこれに近いのかも知れない…


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