艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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207話 血に踊る番犬(4)

「目的地付近に接近しました。退艦の準備を始めて下さい」

 

ゴーヤの言葉を聞き、艦上に出た

 

スカイラグーンを見つめながら、タバコに火を点ける

 

「うおっ‼︎」

 

頭上を二機のT-50が通過して行き、髪の毛が風圧を受けて舞い上がる

 

二機の通過寸前、発光信号が見えた

 

”スイーツ タベニキタ”

 

”オマエハ カエレ ワラ”

 

あんな事を言う奴はアレンしかいない

 

「タナトス。対空機銃をアレンに向けろ。向けるだけだぞ‼︎」

 

《分かってるでち‼︎》

 

タナトスの船体の至る所から対空機銃が現れ、アレンに向ける

 

《レイ‼︎一緒に食べよう‼︎》

 

すぐにアレンから切羽詰まった無線が入った

 

「素直でよろしい。対空機銃を戻せ」

 

タナトスが対空機銃を戻すと同時に、不安がよぎった…

 

 

 

 

「ありがとうございました‼︎」

 

「助かりましたぁ〜‼︎」

 

「いつでもっ」

 

トラックさんと蒼龍を見送り、アレンと健吾の所に来た

 

「レイさん‼︎」

 

「健吾」

 

正直、今健吾に会いたくなかった

 

「他の子は⁇」

 

「アイちゃんと北上と大和、んでママが先に来て準備してる」

 

一人の名前を聞き、血の気が引いた

 

「そ、そっか」

 

「愛宕にお土産持って帰らなきゃな‼︎」

 

「はは…」

 

普段の至ってフツーのアレンとの会話が耳に入らない

 

「喉乾いたから先行ってるわ」

 

「あ、あぁ‼︎」

 

「俺もすぐ行く‼︎」

 

「健吾。タバコ吸うか」

 

「はいっ‼︎」

 

とにかく、少しでも健吾をこの場に留めたかった

 

 

 

 

その頃、スカイラグーン喫茶ルームでは…

 

「良かったですねぇ〜。お父さんのケーキが好評で」

 

「う〜む、パティシエ冥利につきる…」

 

これだけの人数から美味しいと言われたら、流石のトラックさんも中々御満悦の様子

 

「ん⁇」

 

スカイラグーンのキッチンは、いつも綺麗にされている

 

「良い包丁だな」

 

「マーカスさんとアレンさんが作ってくれたんです」

 

「この”まな”板も清潔を保たれてる」

 

トラックさんがまな板と言った瞬間、蒼龍はトラックさんを半目で見た

 

怒っているのか、照れ臭いのか分からない実に中途半端な顔だ

 

「私はケーキ食べましたからねぇ〜。バターコーンでも頂きましょうかねぇ〜」

 

「はいっ、畏まりました」

 

「レシピと材料をある程度置いておくから、是非作って見て下さい」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

トラックさんはようやくソファに座り、蒼龍と一緒にコーラとバターコーンを待つ

 

そんな二人を、一人の女性が見つめる…

 

「あの人、ずっとこっちを見てますねぇ〜…」

 

「ん〜⁇」

 

蒼龍の目線の先には、ジュースを配っている女性が一人

 

その女性がチラチラと二人を見る視線に、蒼龍はすぐに気付いた

 

「食べちゃいましょうかぁ〜」

 

「コラ蒼龍」

 

ソファから立ち上がり、ニコニコ笑顔で彼女を食べようとする蒼龍を止めるトラックさん

 

そんなトラックさんの名を、彼女は呼んだ

 

「茂樹さん…」

 

「えっと…」

 

「ほらお父さん。眼鏡掛けて」

 

「あ、あぁ…」

 

トラックさんは眼鏡を掛け、彼女を見た

 

「”恵子”なのか…」

 

「茂樹さん…」

 

「えと…えと…」

 

見つめ合う二人の横で、蒼龍は二人を何度も見てキョロキョロオロオロしている

 

遂には席を立ち上がり、二人は抱き合う

 

女性はジュースを乗せていた盆を置き

 

トラックさんはほんの少しだけ書いていた別のレシピを書く手を止め、二人はきつく抱き締め合う

 

「逢いたかった…」

 

「私もです…」

 

それは感動の再会だった

 

生き別れたと思っていた旦那

 

死んだと思っていた妻と再会を果たした

 

そして、何も言わず二人は口づけを交わす

 

其処にいた全員が再会を祝福する中、グラスが割れる音が喫茶ルームに響いた

 

「は…」

 

隣にいた俺は腰に手を当て、無言で頭を抑え、溜め息を吐いた

 

一番遭わせたくない二人に、一番遭わせたくないタイミングで遭わせてしまった

 

「け…健吾さん…」

 

「ごっ…ごめんね”大和”…おお…おかしいよね…俺みたいな奴ガッ…ウッ…やっ、大和みたいな美人と一緒になれるなんてっ…ごめんねっ…役不足だったよねっ…」

 

健吾はポロポロ涙を流しながらも、笑顔で自分には見せた事の無い女の顔になった大和を見続けた

 

話している途中、健吾はDMM化しかけたが、それを残った愛と持ち前のガッツでねじ伏せて笑顔を送り続けた健吾に、本当は拍手してやりたい

 

あまりにも優しく

 

あまりにも哀れで

 

あまりにも強い男…


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