艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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205話 みんなの学舎(6)

レイが工廠に向かってすぐ、私は満潮と手を繋ぎながら執務室に向かっていた

 

「彼、いつもあぁなの⁇」

 

「そうよ。いつだってレイは貴方達の味方よ⁇」

 

「…ふ〜ん」

 

満潮はあの提督の所為で大人が信用出来なくなっていた

 

それでも、私の手を握ってくれている

 

もしかすると、まだやり直せるかもしれない

 

「大人が信用出来ない⁇」

 

「…」

 

「さっきの霞ちゃんもそうだったわ。最初はレイに食って掛かってた」

 

「アイツは嫌いよ」

 

「霞ちゃんも良い子よ⁇勿論、満潮もね⁇」

 

「分かるはずないわ…」

 

満潮は時々私の顔を見るが、すぐに目を逸らし、下を向いてしまう

 

大人と目を合わせるのが怖いのかもしれない

 

「最初はレイを好きになったらどう⁇」

 

「…」

 

「そうね…最初の任務は、レイのいる基地に行って貰おうかしら⁇」

 

「…アイツ、良い奴かしら⁇」

 

「私の旦那だから信用なさい。それと、その基地には大佐がいるの。大佐も良い人よ⁇」

 

「ん…」

 

「二人共顔は怖いけど、とっても優しいわ⁇」

 

「…頑張る」

 

満潮は納得してくれたみたいだ

 

後はレイや隊長の方が、満潮に良い影響を与えてくれるはず…

 

 

 

 

 

「…」

 

工廠に来た俺は、作業台の上にあの左腕を置き、普段夕張がばりばり言わせている道具で破損箇所を修復し始めた

 

「倉田甲冑ね…」

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」

 

子供達を送り終えたヤマシロが来た

 

脇に何か挟んでいる

 

「これ、必要だと思って」

 

「何だ⁇」

 

ヤマシロが脇に挟んでいた一冊の書物を受け取る

 

「深海の艤装…」

 

ヤマシロがくれた書物には、深海の艤装の作り方や修復の仕方が書かれていた

 

「彼が持っていたの。私にはもう必要無いから、貴方にあげるわ」

 

「倉田だろ、その彼の名前」

 

「えぇ。何で知ってるの⁇」

 

「自分が殺した奴の名前くらい覚えてるさ。コイツの名前も倉田甲冑だろ⁇」

 

「流石は元スパ…」

 

「それ以上言うなよ⁇」

 

「ふふっ…分かったわ。じゃあね⁇」

 

「待て」

 

帰ろうとしたヤマシロを引き止めた

 

「二つ聞きたい事がある」

 

「ん…」

 

「俺が学校で倉田を殺した後、アイツは生きていたのか⁇」

 

「えぇ。数年だけだったけど、彼は生きてたわ…さっきも言ったけど、結局、私の知らない所で死んだわ…」

 

「そっか…もう一つは、コイツの見返りはなんだ⁇」

 

さっきの書物を持ち、ヤマシロに見えるように動かす

 

「要らないわ」

 

「そんな訳にはいかん」

 

俺がそう返すと、ヤマシロは微笑んだ

 

「なら、次の恋が上手く行く様に応援して頂戴⁇」

 

「オーケー」

 

そう言い残し、ヤマシロは工廠から出て行った

 

ヤマシロがくれた書物は、深海の艤装が事細かに書かれていた

 

それを元手に、この倉田甲冑”山城”を修復して行く…

 

「よしっ」

 

一時間もしない内に、それは修復出来た

 

後は自分の手に着けて、着け心地を確認するだけだ

 

子供達に触れても怪我しない様に、先程の仕込み砲は取り除いた

 

もう使えなかったしな

 

着け心地も悪くない

 

これなら左手の握力補助の為だけに使える

 

後は手袋をはめて、表からは見えない様にすれば良い

 

革手袋をはめ、左手を数回動かしたあと、俺も基地に戻った…

 

 

 

 

 

数日後の昼…

 

「来たわよ」

 

「よく来たな。さ、座ってくれ」

 

ちょっとは明るくなった満潮が遊びに来た

 

隊長が満潮を食堂に案内し、貴子さんがお菓子とジュースを持って来てくれた

 

「あ…えと…」

 

「いっぱい食えよ⁇」

 

「足りなかったら言ってね⁇」

 

貴子さん手作りのカップケーキ数個が、満潮の前に置かれる

 

「食べていいの⁇」

 

「勿論‼︎貴子の手作りなんだ‼︎」

 

「お口に合うかどうかは分からないけど…きっと美味しいわよ⁇」

 

「…頂きます‼︎」

 

大人二人に警戒していた満潮は、二人が大丈夫だと分かると、カップケーキに手を伸ばし、頬張り始めた

 

「あら。この前のお礼でもしに来たのかしら⁇」

 

満潮がカップケーキを食べる中、イタズラに笑う霞が食堂に来た

 

「何よ‼︎このクソ霞‼︎」

 

「ハァ⁉︎文句あるわけ⁉︎このウ○コ満潮‼︎」

 

「ウ○コですって⁉︎」

 

「ハンッ‼︎クソとか言うからそうなるのよ‼︎」

 

「うぎぎぎ…」

 

「ぐぬぬぬ…」

 

昼間から喧嘩している二人を見て、俺達は笑っていた…


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