艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

666 / 1086
202話 死の邂逅(4)

「うっ…」

 

次に涼平が起きたのは、知らないベッドの上

 

「あ、起きた‼︎レイ‼︎起きたよ‼︎」

 

「きそちゃん…ここは⁇」

 

「呉の医務室だよ。涼平君、貧血で倒れたんだ」

 

「はぁ…情けないです…ありがとうございます」

 

涼平は自分がDMM化したのを忘れていた

 

余程キレていたのだろうな…

 

「おっ‼︎起きたか‼︎」

 

「申し訳ありません、大尉」

 

「お前は頑張り過ぎだっ。横で寝てるフィアンセに心配掛けるなよ⁇」

 

「フィア…」

 

涼平が横を見ると、ベッドの横で眠っているタシュケントがいた

 

「タシュケント…」

 

タシュケントの頭を優しく撫でる涼平は、先程とは打って変わって、とても優しい顔をしている

 

「はへ…あ…リョーヘー…」

 

目を擦りながらタシュケントが起きた

 

「心配掛けましたね…」

 

「ん〜ん。リョーヘーならだいじょっぶだって分かってた‼︎」

 

「それと涼平。ここの提督が会いたいらしい。呼んでも良いか⁇」

 

「そんな‼︎自分が行きます‼︎」

 

「いいんだ、涼平」

 

「そこで楽な姿勢で待ってて⁇」

 

「だいじょっぶだよ、リョーヘー」

 

「は…はぁ…」

 

リョーヘーは訳が分からないまま、そのままベッドの上で待たされた

 

「失礼します…」

 

「じつれいっ、じまずっ…」

 

「彼奴は…‼︎」

 

顔面真っ青になった呉さんと、ズビズビ泣いている隼鷹が医務室に来た

 

「大変申し訳ありませんでした‼︎」

 

「ぼんどにごべんなざい‼︎」

 

涼平は拳を握るが、タシュケントがそれをグッと押さえている

 

「言い訳はしません…あの島に爆撃命令を出したのは私です」

 

「ばぐげぎじたのばばだしでずぅ…」

 

医務室の床に頭を擦り付けて土下座をする二人を見るが、涼平の怒りは収まらない

 

「…家族と友人を…返して頂けますか⁇」

 

「申し訳ありません…友好的な深海、しかも人が暮らしていたとは…」

 

「自分は一生を掛けても貴方がたを許す事はありません。ですが、今は友軍…ですから、一つだけ約束して下さい」

 

「何なりと」

 

「二度と、自分から何かを奪わないで下さい」

 

「約束する…」

 

二人が幾ら猛省しても、涼平の仲間は戻って来ない

 

ふとそれを感じたのか、涼平はため息を吐いた

 

「…少し、一人にして頂けますか⁇」

 

「分かった…行こう」

 

未だに鼻をすする隼鷹を連れ、呉さんは医務室から出て行った

 

「きそ。俺達も出よう」

 

「うん」

 

一人にしてくれと言ったが、タシュケントと居た方が良さそうだ

 

「やっぱりリョーヘーは良い子だね」

 

「そう、ですか⁇」

 

「うんっ…」

 

「たった今、生き甲斐を失いました…」

 

涼平は精気を失った目をし、窓の外を眺めている

 

「隼鷹…そしてここの提督が味方である以上、自分の復讐は終わりです…」

 

「それでいいんだよ、リョーヘー。復讐なんてダメだよ…」

 

タシュケントは涼平の手を握るが、それにも精気は感じられない

 

「リョーヘー、楽しい話しようよ。リョーヘーの夢ってなぁに⁇」

 

「家の設計士になりたかったです」

 

「お家の⁇」

 

「えぇ。深海の人達と小屋を造ったりしている内に、それが楽しいと気付きました」

 

「そっかそっか。パイロットは違うの⁇」

 

「パイロットは…そうですね…はは、パイロットも、です。でも、二番目かも知れません」

 

少しだけだが、涼平の目に覇気が戻る

 

「タシュケント先生の夢は⁇」

 

「ボクかい⁇ボクはオヨメになる事かな⁇」

 

「どんな方が好みですか⁇」

 

「そうだね〜…ん〜と…」

 

口元に人差し指を置き、タシュケントは考える

 

「復讐を辞めて、幸せ探しをしてる人かな⁇」

 

「はは」

 

「あ‼︎そうそう‼︎ボクの事を助けてくれたり、ファーストキスをあげた人かな⁉︎」

 

「なるほどっ…」

 

「よいしょ」

 

タシュケントは涼平の膝の上に乗り、顔を近付けた

 

「だからね、リョーヘー…」

 

「は…はい…」

 

タシュケントは照れ臭くさそうな笑顔を送った後、真顔で言った

 

「ボクの為に死んで⁇」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっはははははは‼︎そりゃ勘違いするだろ‼︎」

 

《告白こっわ〜‼︎》

 

帰りのグリフォンの中で、涼平とタシュケントの乗る震電の無線を聞き、二人で大爆笑する

 

どうやらタシュケントが涼平に告白したらしいが、涼平が萎縮してしまう事態になったらしいが、話を聞いている限り、誰だって怖いだろう

 

《し、仕方ないだろ⁉︎必死に顔戻そうとしたら真顔になったんだ‼︎》

 

《それ、ホラー映画で言う台詞ですよ⁇》

 

《うぅ…意味違ったのかぁ…最悪のプロポーズだよぉ…》

 

タシュケントが言ったのは、復讐の為に命を捨てるのでは無く、自分に半生をくれと言う意味

 

涼平が受け取ったのは、今すぐこの場で自分の為にスプラッターな事になれ‼︎と、勘違いした

 

急に真顔に戻ったら、誰だってそう思う

 

《お陰で、まだ生きたいと分かりました》

 

《なら良かった‼︎えへへっ‼︎》

 

「美味いモン食って、好きな女といるのもまた人生だぞ、涼平」

 

《そうだよ‼︎タシュケントとエッチな事も出来ないよ⁇》

 

《はいっ‼︎》

 

すっかり覇気が戻った涼平の声を聞きながら、俺達は横須賀に戻った…


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。