艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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202話 死の邂逅(2)

俺と涼平が交戦する少し前…

 

「呉に着いたら、なるべく隼鷹を涼平から引き離せ」

 

《涼平君を⁇》

 

「あいつ…自分の産まれた島を隼鷹の爆撃で失ってるんだ…名前は知らないとは思うが、姿をみたら恐らく…」

 

《オッケー。じゃあ、僕先に呉に行ってるよ‼︎》

 

「任せた。俺はその間、涼平と戦う」

 

《一人で大丈夫⁇》

 

「心配すんな。教え子に負ける訳にはいかん」

 

《オッケー。じゃ、お先にぃ〜》

 

グリフォンから離れたきそは、一足先に呉のカプセルに転送された

 

「頼む…遭わないでくれよ…」

 

呉が見えて来ても、エンジンはフルスロットルのまま、涼平と交戦状態に入った

 

 

 

 

 

もし涼平と隼鷹が遭ってしまったらとんでもない事になる

 

作戦とは言え、隼鷹は涼平の家族や友人を殺している

 

涼平が航空機に乗り始めたのは隼鷹に復讐する為だと、俺は知っている

 

空で貰ったものは、空で返したいんです…と

 

タシュケントが来てくれて、涼平にくっ付いてくれて多少は抑えてるとは思ってはいるが、最悪の事態は避けたい

 

「遅い‼︎」

 

《あっ‼︎》

 

急ブレーキを入れ、最小限の宙返りをし、涼平の背後に着き、機銃のトリガーを引く

 

涼平の乗る震電がピンク色になる

 

「な〜〜〜っはっはっはぁ‼︎AIが無かったら俺に勝てると思ったかぁ‼︎」

 

《強い…》

 

「俺がサンダーバード隊なのをお忘れなくぅ〜‼︎」

 

《ぐ〜や〜じ〜い〜‼︎》

 

俺が冗談交じりで煽ると、涼平も冗談交じりで悔しがった

 

《レイ。もうOKだよ》

 

「オーケー。ファイヤフライ、着陸しよう」

 

《了解》

 

きそから連絡が入ったのを合図に、涼平を着陸させる

 

「ふぅ…」

 

「完敗です、大尉」

 

グリフォンから降りると、涼平が待ってくれていた

 

「良い線行ってたぞ。まっ、相手が悪かったな‼︎」

 

「リョーヘー‼︎」

 

「先生‼︎」

 

「ほらっ。フィアンセがお待ちだ」

 

「行って来ます‼︎」

 

涼平の背中を押し、タシュケントの所へ向かわせる

 

「ホント強いね」

 

きそが来た

 

「すまんな、使いっ走りみたいな真似させて」

 

「ん〜ん。隼鷹さんは執務室にいるから、なるべく涼平君を近付けさせないでね⁇」

 

「ありがとな」

 

俺ときそも休憩の為、呉の食堂に向かった

 

 

 

「おぉ〜‼︎イケメンがいっぱいですねぇ〜‼︎ポーラ、お食事作るの頑張っちゃいますぅ〜‼︎」

 

「可愛い人だな…」

 

「アドレス知りたいなぁ…」

 

食堂に座っていたサンダース隊の子達が、ポーラについて色々話していた

 

「ポーラは人妻だぞ。よいしょ」

 

「ひ、人妻⁉︎」

 

「あんな童顔なのにですか⁉︎」

 

「しかも子持ちだ」

 

「「えぇ〜…」」

 

キッチンでポーラが何かを焼く、ジュワ〜という音を聞きながら、食事を待つ

 

「朝風ぇ〜。皆さんにお食事運んでちょ〜だ〜い」

 

「はいはい」

 

気の抜けたポーラの声で、朝風がハンバーグを運んで来た

 

「さっ、食べて頂戴‼︎」

 

「貴方がポーラさんの…」

 

「そっ。私は朝風。覚えといてね⁇」

 

「そっくりだ…」

 

朝風と会う度に思う

 

段々ポーラに似て来たな…

 

皆と同じ事を考えつつ、ポーラの作ったペッパーハンバーグを口に入れる

 

「同志マーカス。ボク、リョーヘーと一緒にここの基地司令に挨拶してくるね‼︎」

 

タシュケントの一言で、ハンバーグが詰まる

 

「ダメだ‼︎後にしろ‼︎」

 

「どうしてさ‼︎」

 

「そんなに行きたいなら俺が行く‼︎」

 

ナイフとフォークを置き、ナプキンで口を拭いた後、席から立って食堂を出た

 

「…何か怒ってます⁇」

 

「怒ってないよ‼︎たまにそう見える時があるんだ。ごめんね⁇」

 

「いえ…」

 

涼平は、自分が何かしてしまったのかと勘違いしている

 

 

 

執務室の前に立ち、ドアをノックする

 

「マーカス・スティングレイだ」

 

「どうぞ」

 

執務室の中に入り、呉さんと隼鷹に一礼する

 

「部下を代表してお礼をしに来た」

 

「やっぱりマーカスの教え子か‼︎」

 

「強かったよ、アンタの教え子‼︎」

 

「今、食堂で昼食を食わして貰ってる。もう少し居させてやってくれ」

 

「ゆっくりして行くと良い。今は特段大きな作戦も無いしな」

 

「一人キレのあるパイロットが居たな…ファイヤフライ、だったかな⁇」

 

褒められて嬉しい反面、複雑な気分になる

 

「じゃ、俺も頂きますかね」

 

「ゆっくりして行ってくれ」

 

「後で挨拶に行くよ‼︎」

 

隼鷹の言葉で冷や汗が出る

 

だが、いつも通りの失礼で失礼じゃ無い俺で居なければならない

 

ぎこちない笑顔を送りながら、俺は執務室を出た

 

食堂に戻ると、サンダース隊の数人がトランプをしており、他数人が居ない

 

「他の奴等はどうした⁇」

 

「タバコ吸いに行ったのと、涼平とタシュケント先生は食後の散歩に。きそちゃんは二人をスニーキングすると言ってました」

 

「ちょっと見てくる」

 

涼平とタシュケント、そしてきそを探す為に表に出て来た

 

二人はすぐに見つかった

 

港で腰掛けてアイスを舐めていた

 

…これは邪魔しない方が良さげだな

 

問題はきそだ

 

かくれんぼ上手いからな…

 

「レ〜イ〜」

 

「うひゃお‼︎」

 

草むらから急に手が伸び、服を掴まれて引き摺り込まれた

 

「えへへ、ビックリした⁇」

 

引き摺り込んで来たのは、スニーキング中のきそだ

 

「ビックリした…隼鷹はどうだ⁇」

 

「今の所大丈夫みたいだよ。隼鷹さんは執務室、二人は目の前。このまま行けば大丈夫そうだね」

 

「そっか…」

 

昼食も終わり、サンダース隊の帰投時間も近付いている

 

「ゾロゾロ出て来たよ」

 

時間通りに各々の震電に向かい、出発時間と呉さんの挨拶を待つ

 

「何か話してるね⁇」

 

「ちょっと聞いてくる」

 

サンダース隊の子達が整備士と何か話しており、両者共頭を抱えている

 

「どうした⁇」

 

「大尉。ファイヤフライ機なんですが、プロペラの不調がありまして…」

 

「どれ」

 

整備士から書類を挟んだバインダーを受け取り、内容を確かめる

 

どうやらプロペラが一枚吹き飛んだみたいだ

 

「あ〜…なるほどな。これ位なら直せる。涼平以外は帰投出来るな⁇」

 

「はい‼︎」

 

「涼平は整備後の震電か、何かしらに乗せて連れ帰るって横須賀に言っておいてくれ」

 

「了解です‼︎」

 

「どうかされましたか⁇」

 

丁度涼平が来た

 

「エンジンの不調だ。直してやるから、ちょっと待ってな」

 

「ありがとうございます、大尉」

 

「皆、ご苦労だった。今後ともよろしくお願いします」

 

「「「ありがとうございました‼︎」」」

 

呉さんの挨拶も終わり、涼平を除いたサンダース隊が呉から飛び立って行く…

 

なんてこった…

 

一番帰らせたい涼平だけが残るなんて…

 

「君がファイヤフライかな⁇」

 

「はい」

 

「隼鷹の艦載機隊が、君に一番墜とされたと拗ねていたよ」

 

「あはは…」

 

「良い腕だ。是非ウチに欲しい」

 

「ダァ〜メダメダメダメ‼︎サンダース隊は俺の子だ‼︎」

 

呉さんはニヤリと笑い、それが冗談だと分かった

 

「いつか共闘出来る事を楽しみにしてるよ」

 

呉さんは涼平の肩を叩き、涼平は呉さんに一礼した

 

「タシュケントはどうした⁇」

 

「隼鷹と言う方にご挨拶をしに行きました」

 

何気無く言った涼平の一言が、一気に血を凍らせた

 

「涼平。プロペラの整備の仕方を教えてやる。来い」

 

「あ、はい‼︎」

 

涼平と共に、震電のプロペラの付け替えに入る

 

「吹っ飛んでるな…」

 

涼平の震電のプロペラの何本かは先端を失い、一本は根元から外れていた

 

「一機だけ、自分に突っ込んで来る様に飛んで来た機体がいました。可能性があるとすれば、その機体に擦ったのかと」

 

「強かったか⁇」

 

「えぇ…あの日の機体を思い出しました…」

 

いつもの表情を見せる涼平だが、拳に力が入っているのを見落とさなかった


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