艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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題名が変わりますが、前回の続きです

結構重要な伏線回収があります


199話 護る力は誰が為

「焚き火好き⁇」

 

「えぇ。戦う理由を…思い出しますから…」

 

上目遣い気味に、タシュケントがリョーヘーの顔を横目で覗く

 

リョーヘーは笑っているのか怒っているのか分からない顔をしているが、とても真剣な目をしている

 

「戦う理由⁇」

 

「自分…深海の人達と暮らしてたんです」

 

「へぇ。珍しいね⁇」

 

涼平はタシュケントを一瞬見た後、太めの木の枝で火を弄った

 

「良い人も沢山いました…質素な生活ではありましたが、中々幸せでした」

 

「どうして深海棲艦と一緒に暮らそうと思ったの⁇」

 

「分かり合えるかな…って。コミュニケーションを取れば、互いに手を取り合う事も可能…そう思った時にはそこにいました」

 

「どんな事したの⁇」

 

涼平はタシュケントに打ち明けた

 

人口の少ない離島で産まれ、そこで暮らしていたある日、武装解除した友好的な深海棲艦が来た事

 

深海の人達と手を取り合い、色々な物を作った事

 

一緒にご飯を食べた事

 

一緒に遊んだ事

 

人には言えぬ、深海への強い思いがあった事

 

「そしてあの日、自分は全てを失いました」

 

「どうなったの⁇」

 

「島が空襲に遭ったんです。日本軍機の…皆で作った家も、道具も、友達も、思い出も…全部火に焼けました」

 

「…」

 

あまりに壮絶な過去に、タシュケントは息が詰まる

 

「それからです。人を愛せなくなったのは…自分では分かってるんです。きっと、また失うのが怖い…と」

 

「もしかして焚き火を見るのは…」

 

「自分の意思を保ってるんです。恥ずかしい話、今が楽しくてしょうがないんです。仲間がいて、艦娘達に囲まれて、大尉がいて…」

 

ようやく薄っすらと笑ったリョーヘーを見て、タシュケントはホッとする

 

「そっかぁ…」

 

「それに、火を見てると彼奴を思い出しますから…」

 

「あいつ⁇」

 

「島が火に焼ける中、高笑いをしながら水平線の向こうに去って行った、紫色の長い髪の女…彼奴が島を焼いた。彼奴の放った爆撃機で、皆は焼かれて苦しんで散って行った…」

 

「まさか…パイロットになった理由って…」

 

「彼奴に一矢報いてやりたい…ただその一心です」

 

涼平の怒りに呼応するかの様に、焚き火が強く燃え上がる

 

「…ダメだよ」

 

「自分は強くないといけない。それも、今度は奪われない様になるまで」

 

「ダメだってばぁ‼︎」

 

立ち上がったタシュケントが吠える

 

「先生⁇」

 

「折角良い腕持ってるのに、復讐とかやめてよ‼︎」

 

「自分は…」

 

「そんなに復讐したいなら、その力で今日みたいにボクを護ってみせてよ‼︎」

 

「…」

 

リョーヘーは言葉に詰まった

 

告白になっている事に、熱くなったタシュケントは気付いていない

 

「よいしょ‼︎」

 

タシュケントはリョーヘーの膝の上に座り、前を開けているリョーヘーのジャケットの中に入った

 

「…」

 

「…」

 

「…あったかいですか⁇」

 

「あったかい」

 

リョーヘーの鼓動が早くなる

 

「だいじょっぶだよ、リョーヘー。ちゃんとボクを抱っこして、ドキドキしてるもん。好きな証拠だよ」

 

「そう…なのですか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

タシュケントは首を上にあげ、リョーヘーに笑顔を見せる

 

「どうしても復讐する⁇」

 

「えぇ…彼奴を見たら、この手で…」

 

膝に置いていたリョーヘーの手に力が入る

 

タシュケントはその上に自身の小さな手を置いた

 

「ダ〜メッ…リョーヘーは良い子だから分かるでしょ⁇」

 

「先生…」

 

リョーヘーの胸板に頭を置き、タシュケントは目を閉じた

 

「勿体無いよ…その力…ボクを護ってくれたんだ。護るべき事に使うべきだよ…」

 

「護るべき事…」

 

「あ‼︎そ〜だ‼︎リョーヘーにまだお礼してないね‼︎よっこらせ…」

 

タシュケントはリョーヘーの膝の上で方向転換し、リョーヘーの顔を見れる対面状態で座った

 

「う…」

 

身長の割に主張している胸がリョーヘーの胸板に当たる

 

「こっち向いてリョーヘー。命令だよ…」

 

中々タシュケントに目を合わさないリョーヘーを見て、タシュケントはリョーヘーの顔を小さな手で掴んだ

 

「大丈夫。安心して…ボクが着いててあげる。リョーヘーが復讐しない様に、ねっ…」

 

「…それも命令ですか⁇」

 

タシュケントは静かに首を横に振った

 

「ん〜ん。これはボクからのお願い。嫌なら、いいよ⁇」

 

タシュケントの顔を見て、リョーヘーしばらく悩んだ後、ゆっくり首を縦に振った

 

「…分かりました」

 

「ん…良い子…」

 

少女の様な小さな先生と、静かに復讐の火を燃やすパイロットの二人が口付けを交わす

 

「リョーヘー」

 

「…はい」

 

「ボクのファーストキスは高く付いたよ⁇」

 

唇を離したタシュケントは怪しく微笑む

 

「どう言えば良いか…その…自分も…です」

 

「ふふっ…あっ‼︎焚き火消えちゃった‼︎」

 

「水かけて帰りましょう⁇」

 

バケツに海水を汲み、焚き火を完璧に鎮火した後、二人は手を繋ぎ、皆の待つ場所へと戻って行った…

 

 

 

 

 

数日後…

 

「お〜いリョーヘー‼︎」

 

滑走路に出入りしなくなったタシュケントが、柵の向こうから涼平を呼んでいる

 

「あ‼︎先生‼︎」

 

「おっしゃ‼︎誰かの恋人が来た様だし⁉︎今日は終いだ‼︎かいさ〜ん‼︎」

 

俺が教本を畳んだ音で、本日のサンダース隊の訓練を終えた

 

タシュケントに向かって走って行くのは勿論涼平

 

「へへっ。涼平の奴よかったな‼︎」

 

「くやしーっ‼︎」

 

「こちとら血涙だ血涙‼︎」

 

「身長差カップルだな‼︎」

 

「これからはクソガキって呼べないなっ…」

 

残ったサンダース隊の連中と共に、幸せそうな顔付きになった涼平を今しばらく眺めていた…




タシュケント…空色のクソガキ

ロシアからの派遣将校の分際で空を飛べない、デスクワークとデータ集めが得意な艦娘

かなり低身長で小学生位に間違われるが、れっきとした大人

こんな癖して胸がデカい

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