艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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199話 クソガキ先生(4)

サンダース隊が横須賀を飛び立った時、俺達はシャングリラに着いていた

 

「ヒヨコちゃんが心配か⁇」

 

「いんや。彼奴らは大丈夫だろ…」

 

港にポツンと停められた瑞雲を見ながらタバコを吸う

 

「心配なのはタシュケントの方だ」

 

「先生だから大丈夫だろ⁇」

 

「彼奴の飛行記録見たか⁇」

 

「ヤバいのか⁇」

 

「ヤバイ。ヒヨコちゃんよりショボい」

 

アレンは鼻から紫煙を吐き出し、呼吸を整えて言った

 

「…終わってんな」

 

「だから敢えてタシュケントを付けた。お前の攻撃からタシュケントを守れるかどうか…これも訓練内容さ」

 

「お前にしては考えてんな⁇」

 

「お前にしてはが余計だ‼︎いいか⁉︎全部落とす勢いで叩きのめせ。じゃないと訓練じゃない‼︎」

 

「後悔するなよ⁉︎」

 

「しないさ。ここで負けるようじゃ…彼奴らは実戦では通用しない」

 

そう言いながらアレンの横でしゃがみ、タバコを指ではね、海に捨てた

 

「随分本気だこと…」

 

「俺の勘なら、もう少ししたらスカイラグーンに着くハズだ…」

 

 

 

 

「大丈夫ですか⁇」

 

「はらひれはら…」

 

震電から降りて来たタシュケント先生は目を回してフラフラになっていた

 

「うぁ〜…」

 

「おっと‼︎」

 

フラフラのタシュケント先生は、ずっと付き添ってくれていたサンダース隊の子の体にもたれかかった

 

彼はタシュケント先生を抱き留めようとしたが、どう見ても抱き締めてしまっている

 

「うぅ…ごめんよぉ…」

 

身長差でどうしても上目遣いになり、タシュケント先生は彼を見つめる

 

「あの…その…胸が…」

 

「あ‼︎あぁ‼︎ごめんごめん‼︎」

 

タシュケント先生が離れるも、彼はタシュケント先生から目を背けた

 

「君、名前は⁇」

 

「”涼平”です」

 

「リョーヘーね⁇覚えとくよ‼︎」

 

タシュケント先生は、補給を受けている間、皆が行く喫茶ルームに行こうとした

 

「あら⁉︎あらららら⁉︎」

 

三半規管がおかしくなったのか、タシュケント先生はまだフラフラしている

 

「大丈夫ですか⁇」

 

「む〜っ‼︎」

 

自分はフラフラなのに、目の前にいる生徒は全くフラフラしていないのに腹を立てているのか、タシュケント先生は右の頬を膨らませた

 

「んっ‼︎」

 

タシュケント先生は両手を広げ、涼平の前で上げて見せた

 

「えと…これは⁇」

 

「抱っこっ‼︎」

 

「抱っこ⁉︎」

 

「抱っこしてよぉ‼︎ボク歩けない〜っ‼︎」

 

タシュケントはその場で地団駄を踏み始めるが、相変わらずフラフラしている

 

「あわわ‼︎分かりました‼︎」

 

涼平は辺りを見回した後、タシュケント先生の脇に手を入れた

 

「えへへ…”ありがっと”♪♪」

 

「うっ…」

 

タシュケント先生を抱っこした涼平の胸は異常に早く鼓動していた

 

涼平は恋をした事が無かった

 

皆が色々答えていたずいずいずっころばしで、「全く無い」と答えた自分がとても恥ずかしかった

 

恋をしようと何度も本気で考えた事もあった

 

しかし、涼平の思い描く理想の女性はいなかった

 

それが今、こんな幼女の様な女性に対して、生まれて初めて体が熱くなっていた

 

「さっ、着きましたよ」

 

「ありがっ…おろろ…」

 

喫茶ルームの入り口でタシュケント先生を降ろし、まだフラフラしているタシュケント先生と手を繋いで中に入った

 

「おっ‼︎来た来た‼︎」

 

「大丈夫ですか⁇」

 

「えへへ…だいじょっぶ…」

 

軽く飲み物を飲むだけの小さな休憩だが、皆充分に気力を取り戻している

 

航路は残り半分だが、道中の最後には屈強な航空隊がいる

 

それぞれが緊張する中、涼平だけはタシュケント先生に付きっ切りになっていた

 

「ごめんよぉ、リョーヘー…」

 

「いえ」

 

タシュケント先生はソファーに座ってずっと涼平の腕にもたれかかっていた

 

「タシュケント先生、具合悪いのか⁇」

 

「まぁ、その…あれだっ。ほら…女体の神秘さ」

 

「あぁ…」

 

「それは仕方ないな…」

 

「ここに残りますか⁇」

 

「だいじょっぶ‼︎行くよ‼︎」

 

「涼平、頼んだぞ」

 

「任された」

 

涼平とタシュケント先生以外が喫茶ルームを出て、再び震電に乗る

 

「行こう、リョーヘ」

 

「無理になったらすぐに言って下さい。どうにかしてタシュケント先生だけでもシャングリラに着かせますから」

 

「うんっ」

 

涼平もタシュケント先生も震電に乗り込む…

 

 

 

 

「今スカイラグーンを出たみたいだ」

 

「そろそろ準備しますかねっ‼︎」

 

SS隊の三人が準備にかかる

 

「マーカス。本当に良いのですか⁇」

 

「叩き落すつもりで頼む」

 

「分かりました。アレン、健吾。手加減は要りません。参りますよ‼︎」

 

「イエス、キャプテン」

 

「イエス、キャプテン」

 

三人の目付きが変わる

 

本気で叩き落す目だ

 

この目をした彼等を相手に何機か生き残れば上出来だ

 

序でにアレンか健吾辺りに傷を負わせれば大成功と見ていい

 

そう思っていた俺の期待が完全に外れる事になるとは…


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