艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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198話 もう一人の愛娘(2)

「後はアーマーの重量だな…」

 

「カルクシタラ、カラダガトウソウヲモトメルカモナ」

 

「それはアーマー違いだ…」

 

マークの研究室では、あのアーマーがドンドン改良されている

 

「頼みがある」

 

「珍しいな⁇素材の手配か⁇」

 

「ヴェアを貸して欲しい」

 

「エロドウジンミタイナコトスルノカ」

 

「違う」

 

「ア…」

 

何かを察したのか、ヴェアはマークの顔を見た

 

「頼む」

 

「ウ…」

 

「何だか分からんが、マーカスの頼みなら悪くはしないだろう」

 

「頼む…”大淀”博士」

 

「フゥ…ソノナデヨバレチャ…」

 

俺の一言で決意したのか、ヴェアは眼鏡を掛けた

 

「しょうがない、ですねっ‼︎」

 

ヴェアの体が黒髪の綺麗な女性に変わる…

 

「ヴェアは世を欺く為の仮の姿‼︎この大淀こそが私っ‼︎」

 

バァ〜ン‼︎と決めポーズを決める大淀

 

ちょっと厨二病なのがたまにキズだが、権威ある博士である事に間違いは無い

 

「それで⁇この大淀に頼み事とはマーカス君‼︎」

 

「AIが一人奪われた。なんとかして取り返したい」

 

「マーカス君から奪い取るなんて相当ね…分かった‼︎大淀さんにお任せ‼︎」

 

大淀博士はすぐにPCの前に座り、キーボードを打ち始めた

 

「博士と知り合いだったのか⁉︎」

 

「博士から艤装の作り方やらAIの産み方を教えて貰ったんだ」

 

「元は貴子ちゃんの友達なの。ウィリアム君ともお友達だし〜、あっ‼︎エドガー君ともお友達かな⁉︎」

 

「「へぇ〜…」」

 

貴子さんを貴子ちゃん

 

隊長やラバウルさんに対して君付けで呼ぶ大淀博士

 

「さっ、出たわ‼︎」

 

向けて貰ったモニターを見ると、俺が産み出したAIが今どこにいるか一目瞭然で分かった

 

 

 

Iris…ウィリアム君の基地のマーカス君の部屋

 

Thanatos…横須賀基地の港

 

Stella…バンボー族村

 

Claudia…横須賀基地の執務室

 

Siren…バンボー族村

 

Sirene…バンボー族村

 

 

 

「しおいとひとみといよは何してんだ…」

 

三人が気になったが、問題はアルテミスだ

 

 

 

Artemis…タウイタウイモール

 

 

 

 

「タウイタウイモールだぁ⁉︎」

 

「おかしいわね…もうちょっと詳細が出るはずなのに…」

 

「行って見ない事には分からんな…」

 

「着いてったげるわ‼︎マーカス君一人じゃ分からないでしょ⁇大淀さんなら何かあったら対処出来るから‼︎マーク君、いいかしら⁇」

 

大淀博士は眼鏡をクイッと上げながらマークを見た

 

「ちゃんと帰って来いよ⁇無傷でな⁉︎」

 

「ふふっ‼︎オッケー‼︎なら決まり‼︎行くわよマーカス君‼︎」

 

ノートパソコンを手にした大淀博士と共に、研究室を出た

 

大淀博士は何処に行くのかと思えば、タナトスの所に来た

 

「タナちゃ〜ん‼︎の〜せ〜て〜っ‼︎」

 

「タナちゃん…」

 

大淀博士はちゃん付けしたがるな…

 

タナトスのハッチが開き、大淀博士は早速操舵室に向かう

 

「タナちゃん。タウイタウイモールに行ける⁇」

 

「分かったでち」

 

「ちょい待て‼︎俺はヘラで行く‼︎」

 

「そっか。マーカス君ヘラちゃんで来たのか…」

 

「言われなくても来たわよ」

 

いつの間にか叢雲がタナトスの中に居た

 

「ヘラはどうするんだ⁇」

 

「オートで帰らせたわ」

 

外を映し出したモニターを見ると、ヘラが飛んで行った

 

「じゃっ‼︎しゅっぱ〜つ‼︎タナちゃん‼︎レッツラゴーゥ‼︎」

 

「レッツラゴーでち‼︎」

 

テンション高めな大淀博士を乗せた”タナちゃん”は、タウイタウイモールを目指して進み始めた…

 

 

 

 

タウイタウイモールに着く少し前、大淀博士はタッチパネルを操作し始めた

 

「タナちゃん。タウイタウイモール一帯をクラウディアでスキャニングしてくれる⁇」

 

「クラウディアはカラでち」

 

クラウディアは無人機

 

何らかのAIが乗っていなければ動かない

 

「私が行くわ」

 

叢雲がヘラに変わり、クラウディアに乗る

 

「クラウディア、発艦‼︎」

 

クラウディアが打ち出され、タウイタウイモール上空をぐるっと一周し、スキャニングを開始する

 

「アルちゃんは動いてないわね…」

 

大淀博士のノートパソコンには、先程と一緒で、アルテミスことアルちゃんはタウイタウイモールにいる

 

「ん⁇」

 

港の端くれをスキャニングした時、大淀博士が動いた

 

「ヘラちゃん。港をもう一回スキャニングしてくれる⁇」

 

《分かったわ》

 

反転し、もう一度港のスキャニングを開始

 

「いた…いたわ‼︎ここよ‼︎」

 

ペイント機能を使い、赤い丸で何もない場所を囲む

 

「ヘラちゃん‼︎この場所にマーカーを撃ち込んで‼︎」

 

《何もないわよ⁇》

 

「いいから‼︎」

 

《了解したわ》

 

ヘラが小型のマーカーを何もない場所に撃ち込む

 

すると

 

スコン‼︎

 

と、何かに当たる音がした

 

《め…命中したわ…》

 

「えへへ‼︎ブイッ‼︎」

 

大淀博士が喜んでいる本後ろで、ゴーヤが話し掛けて来た

 

「この人やるでちな…」

 

「俺の尊敬する人だからな…」

 

「はっはっは‼︎この大淀から逃げられると思ったら大間違いよ‼︎」

 

「厨二病でち」

 

「昔からあぁだ…」

 

完全置いてけぼりになりそうになっている俺達二人

 

「何で分かったんだ⁉︎」

 

「女の勘‼︎」

 

大淀博士はウインクした後、いつも俺が座っている椅子にもたれた

 

「さっ‼︎後は誰が帰って来るか待ちましょ〜‼︎」

 

 

 

 

 

その頃、タウイタウイモールでは…

 

「おいち〜おいち〜‼︎ふにふに〜」

 

「こんなにいっぱい付けて…ちゃんと拭きなさいっ‼︎」

 

「ふにふに〜」

 

幸せそうな親子が屋上でソフトクリームを食べている

 

「”るいちゃん”、ソフトクリームすき‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

自分の事をるいちゃんと言った少女は、母親であろう女性に口元を拭いて貰っている

 

「マーマひこうき‼︎」

 

るいちゃんが指差す先には、クリーム色の前進翼の航空機が飛んでいる

 

「クラウディア…るいちゃん、行くわよ」

 

女性はるいちゃんの手を引き、屋上から去った…

 

 

 

 

その頃基地では…

 

「ただいまーっ‼︎」

 

「うんが〜‼︎」

 

「あんお〜‼︎」

 

三人が帰って来たが、隊長ときそが机の上に立てたタブレットを真剣な目をして見ている

 

きそが隊長の膝の上に座っているので、それが多少の和みになってはいるが、緊迫しているのに変わりはない

 

「あにちてんの〜⁇」

 

「ん⁇お空から撮った動画見てるんだ」

 

「んっ、ひとみにもみしぇて‼︎」

 

「いよもみたい‼︎」

 

「おてて洗ってからね〜」

 

二人は動画を見たいのを我慢し、しおいに連れられ手を洗いに向かう

 

「きそ」

 

「んっ‼︎貴子さん、ひとみちゃんといよちゃんに動画見せておいて下さい」

 

「分かったわ‼︎」

 

きそと隊長が外に出る…

 

「きしょろっかいった」

 

「ぱぱしゃんもいった」

 

手洗いを終えて帰って来たひとみといよは、二人を目で追う…

 

 

 

 

 

「来たわ‼︎」

 

タウイタウイモールでは、屋上に居た親子が、モニター上に赤丸を書いたあの場所へ戻って来た

 

「マーカス君‼︎行くわよ‼︎…マーカス君⁉︎」

 

「さっき出てったでち」

 

「マーカス君…」

 

「戻ったわ。どうなってるの⁇」

 

ヘラが帰って来た時には、既に遅かった

 

「マーカス君…」

 

 

 

 

「さっ、るいちゃん。帰りましょうか⁇」

 

「うんっ‼︎マーマとおうちかえる‼︎」

 

アルテミス艦内に戻って来た親子二人

 

「るいちゃん。エンジン点けてちょうだい」

 

「は〜い‼︎」

 

るいちゃんがエンジンを点火しようとする

 

が、エンジンが点かない

 

「あれぇ〜…つかない」

 

「点かないだろうな」

 

「はっ‼︎」

 

回る椅子をグルッと回し、二人の顔を見た

 

「まさかアンタが犯人だったとはな…」

 

「るいちゃん。下がってなさい」

 

「るいちゃんこのひとしってる‼︎るいちゃんのパーパ‼︎」

 

「アルテミス…なのか⁇」

 

「うんっ‼︎マーマにおなまえつけてもらったの‼︎”るいーじ・とれっり”‼︎っていうの‼︎」

 

「そうか…」

 

アルテミスもとい、るいーじとれっりを見て笑みが零れた

 

…ちゃんと覚えてくれていたんだな

 

「るいちゃん。今からマーマとお話があるから、奥で待っててくれるか⁇」

 

「うんっ‼︎るいちゃんいいこだから、パーパのいうこときくよ‼︎ふにふに〜」

 

るいちゃんは素直で良い子だ

 

るいちゃんが操舵室から出て数十秒後、俺は目の前の女性に目を向けた

 

「何故アルテミスを奪った」

 

「私の任務だからよ」

 

「何処の差し金だ」

 

「はは‼︎スパイの私が言うと思うかしら‼︎」

 

「なら、アルテミスは連れ帰る」

 

話が通じないと分かり、るいちゃんのいる部屋に向かって歩き始めた

 

「あの子には手を出さないで‼︎」

 

女性はすぐに俺の腕を掴んで動きを止めた

 

「…ホントにスパイか⁇」

 

「…」

 

女性は体を震わせ、目元が緩む

 

「す、スパイよ…」

 

「本物のスパイは、目標に対して情が湧かない」

 

「あ…アンタに分かるはずないわ…」

 

「分かるさ。俺もスパイだったからな。正直に言え。アルテミスに情が湧いたな⁇」

 

「…」

 

女性は黙ってしまった

 

本来はアルテミスを奪取して、潜水艦のボディを造るはずだったのだろう

 

だが、見た所甘えん坊なるいちゃんを見て、女性は母性が擽られ、粗方逃げているのだろう

 

「…あの子を見た時、自分が何をしているのか分からなくなったの。貴方のAIを奪取して、カプセルの中にボディを産み出した…この子がカプセルの中で必死に生きようとしているのが目に見えた時、この子と一緒に逃げようと思ったの」

 

「…」

 

「私と関わったら、貴方達…ウィリアムの沽券に関わるから、敢えて悪い様に言って突き放したの。だから、貴子さんには悪い事を言っちゃった…特にたいほうちゃんには…」

 

アルテミスを奪取した犯人はアクィラだった


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