艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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193話 命の権利(6)

数日後、結果を持ったレイが来てくれた

 

「ガンビアの検査結果が出た」

 

「サンキューな」

 

検査結果が入った封筒を受け取ろうとしたが、レイはサッと封筒を上に上げた

 

「これを見るのは相当な覚悟がいる」

 

「空戦よりか⁇」

 

「空戦よりだ。悪いが比じゃない」

 

「貸せっ」

 

レイから封筒を取り、中身を出した所でもう一度止められた

 

「覚悟は出来たか⁇」

 

「出来てるって〜‼︎のっ‼︎」

 

レイの制止を振り切り、中の資料を見た

 

「…」

 

その結果を見て、一気に血の気が引いた

 

「…満足行く結果か⁇」

 

「…間違い無いんだな⁇」

 

「絶対と言い切れる程間違いない」

 

「…嘘だろ」

 

「あ。血液検査とか内診の結果はこっちね‼︎まっ‼︎元気出せよ‼︎じゃな‼︎」

 

レイは俺の腕を二回軽く叩いて、逃げる様に帰って行った

 

 

 

 

その日の夜、基地は雷雨に見舞われた

 

アイちゃんの部屋でタバコを吸いながら、愛宕から逃げていた

 

逃げている理由は、愛宕のシュークリームをつまみ食いした為

 

アイちゃんが雨戸を閉めながら外を見ている中、俺はアイちゃんの勉強机の椅子に座り、封筒の中身を見ていた

 

「凄いThunderね…」

 

「あぁ…」

 

「Papa⁇」

 

様子がおかしい俺に勘付いたのか、アイちゃんは俺を見て瞬きしている

 

「アイちゃんはさ…ガンビアの事好きか⁇」

 

「好きよ‼︎どうして⁇…Papa⁇」

 

アイちゃんが振り返った時には、俺は居なかった…

 

 

 

 

「アレン…どこぉ…⁇」

 

廊下では、ガンビアが枕を抱きながら俺を探していた

 

「ぴっ‼︎」

 

何度も雷が鳴り、その度にガンビアは泣きそうになりながら身を屈める

 

「うぅ…アレン…」

 

「ガンビア⁇」

 

「アレン‼︎」

 

アイちゃんの部屋から帰って来た俺を見掛けたガンビアは、一目散に走って俺に抱き着いた

 

「Thunder怖い…」

 

「大丈夫だ…」

 

恐怖に震えるガンビアを抱き締め、少し落ち着かせる

 

「一緒にベッドまで行こう」

 

「うん…」

 

ガンビアと手を繋ぎながら、俺の部屋を目指す

 

何処かにガラガラのオモチャがあるのか、ガンビアが歩く度にガラガラ鳴っている

 

ガンビアは手を繋いだ反対の手で枕を抱き締めたままでいる

 

まるで子供の様だ…

 

ガンビアを俺のベッドに入れ、横にある椅子に腰掛けた

 

「アレン、ここにいる⁇」

 

「いるよ。ちゃんとガンビアが寝るまで」

 

「ん…」

 

余程不安なのか、掛け布団の隙間から手を出し、俺の手を強く握る

 

「今日はどんなお話しようか⁇」

 

「今日は、ガンビアのお話、してい⁇」

 

「いいよ…」

 

ガンビアと繋いだ手を膝に置き、俺を見つめるガンビアを見返す

 

「ガンビアね…子供いたの」

 

「どんな子供だ⁇」

 

「赤、ちゃん。男の子の、赤ちゃん」

 

「…今いくつだ⁇」

 

「わかんない…でも、おっきくなってると、いいな」

 

「どっか行っちゃったのか⁇」

 

「うん…ガンビア、おてて、はなしちゃった…」

 

「…」

 

普段も半泣きの状態でいる事が多いガンビアだが、今は違う

 

生き別れた子供の事を思い出し、涙している

 

「今でも子供の事は思い出す⁇」

 

「忘れた事、無い‼︎」

 

ガンビアの声に力が入る

 

「カプセルの中にいた時だって、忘れなかった‼︎」

 

「そっか…」

 

涙声でガンビアは言う

 

それを聞いて”ホッとした”

 

「ガンビアは立派なお母さんだな」

 

「あのね…」

 

「ん⁇」

 

ガンビアの布団を掛け直しながら、話を聞き続ける

 

「アレン…ガラガラ、嫌い⁇」

 

パジャマのポケットに入っていた、ガラガラを掛け布団の隙間から出した

 

「嫌いじゃないよ」

 

「赤ちゃん、ガラガラ、好きだった」

 

ガンビアは悲しそうに微笑みながら、空でガラガラを鳴らす

 

「アレンの、Motherは、どんな人⁇」

 

「俺か⁇俺は母さんの事は知らないんだ…」

 

「Sorry…」

 

「いいんだ。知ってて欲しかったんだ…だから、もっと聞いて欲しい」

 

「アレンは、Motherと、逢いたい⁇」

 

「逢いたいな…逢って、俺は大きくなったって言いたい。友達が出来た、ケッコンをした、子供が産まれた…話す事が沢山ある」

 

「Motherに逢って、何、聞きたい⁇」

 

「何にも聞かなくていい。ただ、少しだけ褒めて欲しい…かな」

 

「いい、こ」

 

母性からだろう

 

褒めて欲しいと言った俺の頭をスリスリと撫でてくれた

 

「アレンは、どんなMotherが、いい⁇」

 

「そうだな…」

 

ガンビアはジッと俺を見つめている

 

意を決した俺は、理想の母親をガンビアに言った

 

「俺の心配をしてくれて、ガラガラを振って、怖がりな…今目の前にいる人みたいな人かな」

 

「…アレン⁇」

 

「ただいま…”ママ”…」

 

ガンビアの目から、ポロポロと涙が落ちる

 

「やっぱり、アレンなのね…」

 

ガンビアはベッドから起き上がり、俺の頬を撫でた

 

「おかっ、え、りっ…アレ、ン…」

 

ズビズビと鼻水を垂らしながら、ガンビアは俺の胸にしがみ付いた

 

「ママ…」

 

レイ…

 

俺の感情は間違ってないと、いち早く気付いてくれてありがとう…

 

やっぱり、お前はかけがえの無い親友だ…

 

 

 

 

「アハッ…Papaったらあんなに甘えてる…」

 

「やっぱりお母さんだったのねっ…どうりで似てると思ったっ…」

 

俺の様子を、アイちゃんと愛宕はコッソリ見ていた

 

母親がいないアレンは、今の今まで甘える事を知らずに生きて来た

 

ようやく人に…母親に甘えるアレンを見て、二人は微笑んでいた

 

しばらく二人を見た後、愛宕もアイちゃんも食堂に戻ってホットミルクを飲んだ

 

「IowaもPapaにHugして貰うから、Papaもして欲しかったのね⁇」

 

「そうよアイちゃん。アレンだって、甘えたい時はあるのよ⁇」

 

「Mamaじゃダメなの⁇」

 

「私じゃダ〜メッ‼︎嫁と母親には、超えちゃイケない壁があるのっ‼︎」

 

「Iowaもいつか分かる⁇」

 

「分かるわよ‼︎アイちゃんなら、きっと分かるわ‼︎」

 

「ウンッ‼︎」

 

素直で物分かりが良いアイちゃんなら、すぐに分かると思う…

 

そう思う愛宕であった

 

 

 

 

 

「行って、らっしゃい‼︎アレン‼︎」

 

「早く帰って来るからな‼︎」

 

すっかり明るくなったガンビアが、俺を見送る

 

「GrandmaはホントにPapaが好きね⁇」

 

「ウンッ‼︎ガンビア、アレンと”ジンセー”取り戻すの‼︎」

 

「あらっ‼︎もう日本語も覚えたのね‼︎」

 

アイちゃんも愛宕も、ガンビアがアレンの母親と知っても態度を変えなかった

 

ガンビアがそれが良いと言ったので、基地にいる全員、ガンビアに対して態度を変えなかった

 

唯一変わったのは、アレンが甘える事を覚えた位だ

 

「お花。ガンビア、タンポポ覚えた。これ好きっ‼︎」

 

滑走路付近に生えていたタンポポを摘み、ガンビアは瓶に水を入れ、窓際に置いた

 

 

「子供の様な母親ですねぇ」

 

ラバウルさんと健吾がコーヒーを飲みながら、チョコチョコ動くガンビアを目で追う

 

健吾が頬杖をつきながら言う

 

「”ロリ”な母親も良いものです…あ''っ…」

 

頬杖を離した健吾が振り返った時には既に遅し

 

「素晴らしい…健吾も少女の良さが分かって来ましたか‼︎うんうん‼︎少女はですね…」

 

健吾は頭の中で”やっちまった…”と後悔する…

 

結局、アレンが哨戒任務から帰って来てからも、ラバウルさんの”熱血ロリ会議(一方的)”は終わらなかった…




ガンビア・ベイ…口みたいなピーナッツちゃん

ガンビア・ベイIIの中枢にいた、アレンの母親

金髪ツインテールでオドオドしているのが印象

アレンを子供扱いするが、それは小さい時のアレンを見れなかった反動が出ている為

ビックリした時の顔がアレンにソックリ

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