艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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193話 命の権利(5)

ガンビアは日に日に話せる様になり、若干怖がりな事が分かった

 

だが、気になるのはそこじゃない

 

「おやすみ、ガンビア」

 

「♪〜」

 

寝る時は必ず横に座り、俺が眠るまでお腹をポンポン叩きながら歌を歌い

 

「行って来ます」

 

「アレン。襟が曲がってる。ちゃんと前髪も…よしっ。気を付けてね⁇」

 

出撃前は愛宕よりキチッと身嗜みを整えてくれ

 

「ふぁ…」

 

「ガンビアのお膝で、横になって⁇」

 

出撃から帰投して疲れて帰れば膝で寝かせてくれたり

 

異常なまでに愛情を向けてくれた

 

そして、どうしても気になるのが一つだけあった

 

「…」

 

ガンビアの膝の上で寝ていると、いつもガラガラのオモチャの音が鳴る

 

「Sleepin、アレン…」

 

子供扱いされている様で、バカにされている様で、嫌と思った

 

だが、ガンビアがガラガラを振る度、俺は猛烈な眠気に襲われ、そしてビックリする位気持ち良く朝を迎えられる

 

だから、無碍に叱る訳にも行かなかった

 

「ガンビアはアレンに懐いていますねぇ」

 

「アレンが懐いてるんじゃないの⁇」

 

「最近分からなくなって来た…」

 

愛宕の作る朝食を食べながら、頭を抱える

 

懐いているのは俺か

 

それともガンビアか

 

「アレンは知らないのね⁇」

 

「何がだ⁇」

 

カウンター越しに愛宕が話す

 

「ガンビアちゃん、アレンが居ない時は凄く怖がりなのよ⁇」

 

「アイちゃんのドッキリで泣いちゃうし」

 

「俺の声聞いたら隠れちゃうし」

 

「私達が近付こうとしたら、壁の向こうに隠れて、ビクビクしながらこっち見てるし」

 

「俺はどうなんだ⁇」

 

「アレンには自分から近付こうとしていますねぇ。ここ最近、アレンが帰って来たら真っ先に反応するのはアイちゃんかガンビアです」

 

「愛宕もですよ、キャプテン」

 

「申し訳ありません…愛宕とアイちゃんとガンビアです」

 

健吾が愛宕にウインクすると、愛宕は微笑みを返した

 

「あのガラガラはどうしたんだ⁇」

 

「アイちゃんの為に買ったんだけど、予想外に早く育っちゃったから、プレイルームに置きっ放しだったの。それをガンビアちゃんが頂戴‼︎って言ったからあげたの」

 

「アレン…」

 

入口に隠れ、顔を半分出したガンビアが見えた

 

「おっ‼︎ガンビア‼︎ご飯食べよう‼︎」

 

「アレン、その…」

 

「ん⁇」

 

「ガラガラ、いや⁇」

 

「嫌じゃないさ‼︎よく眠れるからな‼︎」

 

「そう…良かった…」

 

ガンビアは胸を撫で下ろした後、俺の横に座った

 

「でもアレン。ホントガンビアちゃんと似てるわね⁇」

 

「何回言うんだよ…」

 

ガンビアの事を知れば知る程、皆口を揃えて俺と似ていると言う

 

「アレンのお嫁さんは、愛宕」

 

「そうよ〜‼︎ちゃんと覚えてくれたのね⁇」

 

「うん…ガンビア、アレンの事、もっと知りたい」

 

ガンビアはモジモジしながら、愛宕を見ている

 

「あ、愛宕…その…」

 

「ふふっ‼︎人徳よアレン⁇嫉妬なんてしてないわ‼︎」

 

ガンビアがベッタリしていても、愛宕は怒らないで居てくれた

 

行動も何一つ変わらない

 

それどころか、ガンビアにもしっかりとコミュニケーションを取ってくれている

 

良い嫁を貰っ…

 

「愛宕、良いお嫁さん。アレンにお似合い」

 

ガンビアに先に言われた

 

「あ、ありがとう…」

 

「うふふっ…」

 

愛宕と見合って微笑み合っていると、食堂のドアが蹴破られた

 

「検査のお時間どぅえ〜〜〜っすぅ‼︎」

 

「レイ‼︎」

 

両手に機材を持ったレイが半ギレで入って来た

 

「イチャついてんなら誰か開けてくれ‼︎」

 

「「すみませんでした‼︎」」

 

「医務室借りても良いか⁉︎」

 

「薬品は御自由に使って下さい」

 

「サンキュー…よっと」

 

キャプテンと健吾が謝り、レイは機材を持ち直し、医務室へと向かった

 

「レイさん」

 

「そっ。俺達の友達さっ」

 

「イケメンでしょう⁇」

 

「お医者さんなんだよ⁇」

 

「レイさん、お医者さん。ガンビア、出してくれた人」

 

「そっ。ガンビアにとっても、俺達にとっても大切な人だ」

 

俺がガンビアの頭を撫でる中、そこに居た全員が頷いていた

 

 

 

「オーケー。ガンビア、来てくれ」

 

「アレン、来て」

 

「んっ」

 

ガンビアに手を引かれ、レイの待つ医務室に入る

 

「採血とDNA検査…後は簡単な検査をするからな⁇」

 

「うん」

 

相変わらずガンビアは少しだけ縦に首を振る頷き方をする

 

「じゃあ、まずは採血から…」

 

「ぴっ‼︎」

 

レイの採血は早い

 

そして痛くない

 

ガンビアが俺の手を力を込めて握り、ぴっ‼︎っと言った間に採血は終わっていた

 

「次はDNA検査のサンプルを取るからな…」

 

ガンビアは大きな口を開け、頬の裏側の組織を取られ

 

髪の毛を一、二本抜かれた

 

「おっしゃ‼︎後は内診だ。胸の音聞かせてくれるか⁇」

 

「ん…」

 

ガンビアは恥ずかしそうに服を捲り上げ、シンプルな黒一色のブラを露わにした

 

その時、俺は何故だか分からないが、ガンビアとレイの間に手を割って入れた

 

「…何だ⁇」

 

「い、いや…その、すまん…」

 

「アレン。ガンビア、大丈夫」

 

「そ、そか…ははは…」

 

レイは引く訳でもなく不思議そうに俺を見ていたが、すぐにガンビアに聴診器を当てた

 

「よ〜し、見た限りは良好だな‼︎悪かったな、付き合わせて」

 

「ありがとござます」

 

「こちらこそ。ちょっとだけアレンと話があるから、先に食堂に居ててくれるか⁇」

 

「うん…」

 

不安そうに何度も俺の顔を見ながら、ガンビアは医務室から出た

 

「その…悪かった…」

 

「気にすんな。愛は人によって違うからな」

 

「…バカにしないで聞いてくれるか⁇」

 

「お前をバカとは思ってるが聞いてやろう」

 

「ぐっ…」

 

そう言ってニヤつくレイだが、この目はちゃんと聞いてくれる目だ

 

「ガンビアといると、その…護ってやりたくなるような…護って欲しくなるような…不思議な感覚になるんだ」

 

「珍しいな。お前の口から護って欲しくなるって言葉が出るとは…」

 

レイと同じく、いつの間にか護る立場になっていた俺は、女性にほとんど甘えずにここまで来た

 

それが今、ガンビアと出逢って変わろうとしている

 

勿論、愛宕には甘える時はある

 

だが、何かがガンビアとは違う

 

それが分からないでいた

 

「ガンビアがお前に向ける愛情は、母親の愛情に近いんじゃないのか⁇」

 

「母親…」

 

「ポケットにガラガラ入ってたな⁇」

 

「あぁ…毎晩あれを振ってくれる」

 

「それを母親の愛情って言うんだよ。子供扱いじゃない。ガンビアにとっちゃ、それが愛情表現なんだ」

 

「なるほど…」

 

「ヴィンセントのモールス…聴こえてたろ⁇」

 

「まぁ…」

 

あの時、ヴィンセントとレイが爪でやっていた奴だ

 

レイもモールスと気付いていた

 

「”妻をどうするつもりだ””妻をよろしく頼む”だとよ」

 

「やっぱりガンビアの旦那だったか…」

 

「…きそが二人の過去を調べてくれた。お前に預けとくから、暇があったら見とけ」

 

資料を受け取り、レイは機材を片付け始めた

 

「さっ‼︎か〜えろ‼︎アレンがガラガラで寝てるってひとみといよに教えてやろ‼︎」

 

「レイ」

 

「冗談だよ」

 

「ありがとな」

 

「いいってこった‼︎まっ、気が向いたらビールでも奢ってくれ‼︎じゃあな‼︎」

 

「あぁ」

 

レイが帰り、食堂に戻って来た

 

「アレン‼︎」

 

すぐにガンビアが駆け寄って来てくれた

 

不思議なもんだな…

 

さっき母親とか話したからだろうか⁇

 

ふと、目の前にいる女性が自分の母親だったら…と、考えていた

 

 

 

 

その日の夜、ガンビアを先に寝かせ、資料を見て見た

 

ガンビアは確かにヴィンセントの妻だった

 

そして、何故俺を子供扱いをするか、少しだけ分かった

 

ガンビアは自分の子供と生き別れている

 

生き別れた時はまだ赤ん坊だ

 

その時の事がトラウマとなり、俺に対して子供扱いをしているのかもしれない…

 

「アレン…」

 

ガンビアの寝言を聞き、布団を掛け直した後、俺も横になる事にした


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