艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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192話 あの子は恋する女学生(5)

格納庫を出て、約束通り横須賀と繁華街へ向かう

 

繁華街へ向かう道中、手を繋いだり腕を組んだりはしなかったが、横須賀は常に横にいた

 

「アンタ」

 

「なんだ⁇」

 

その呼び方は変わらないのかよ…

 

「アンタは何で私と結婚した訳⁇」

 

「お前といたら暇しないからだ」

 

「ふ〜ん…随分変わってんのね」

 

「元に戻ったら同じ質問してやるよ」

 

高雄の部屋に着き、横須賀は俺から離れて服を選び始めた

 

俺は俺で、高雄のいるレジの前で、ショーケースの中を見ている

 

「横須賀さん、何か若返ってません⁇」

 

高雄も横須賀の若返りに気付く

 

「新薬の実験みたいなモンさ」

 

二人して服を選ぶ横須賀の横顔を見る

 

顎を少し引き、一点を見つめる、横須賀の昔からの癖が見えた

 

黙っていたら本当に可愛い

 

「大尉は本当に横須賀さんが好きなんですね⁇」

 

「まぁ…な⁇」

 

「これにするわ‼︎」

 

横須賀が持って来たのはチェック柄のセーター

 

「他はいいのか⁇」

 

「そうね…じゃあ、この店で一番高いアクセサリー貰える⁇」

 

最近陰を潜めていたが、ここに来て横須賀の暴君が炸裂した

 

「ぐっ…ここはそのままの方が良かった‼︎」

 

「あはは…でしたら、イヤリングは如何ですか⁇」

 

「イヤリング」

 

ショーケースの中には、A&A maidのイヤリングが何個か置いてある

 

高雄は幾つかをショーケースから出し、俺達の前に置いた

 

「綺麗…」

 

「どれがいい⁇」

 

「そうね…イヤリングも良いけど、ネックレスも見たいわ⁇」

 

「そのネックレスは変えない方が良いかと…」

 

「これ⁇」

 

横須賀の首には、あの指環付きのネックレスが掛かっている

 

「誰に貰ったか忘れちゃったのよ…」

 

「大尉っ」

 

「んっ」

 

高雄に言われ、自分の襟を捲ってネックレスを見せた

 

「あ…」

 

お揃いのネックレスを見た瞬間、横須賀が少し止まった

 

そして、みるみる内に頬が赤みを帯びた

 

「い、イヤリングにするわ‼︎」

 

久々に見たアタフタする横須賀を見て、口角を上げる

 

「まっ、まぁ⁉︎私レベルになると何でも似合うわよね‼︎アンタ決めて頂戴‼︎」

 

「そうだな…」

 

一組のイヤリングを取り、横須賀の耳に付ける

 

手を近付けただけで分かる、少し荒くなっている横須賀の呼吸

 

そろそろ戻るか⁇

 

「あ…」

 

横須賀の耳から手を離すと、赤い石が付いたイヤリングが付けられていた

 

「お前は赤が似合う」

 

高雄に鏡を見せて貰い、横須賀は何度も鏡越しのイヤリングと、自分の横顔を見る

 

「…私とおんなじ髪の色⁇」

 

「そっ」

 

「…これにするっ」

 

「頂けるか⁇」

 

「畏まりました。イヤリングはそのまま付けていきますか⁇」

 

「う…うん…」

 

服とイヤリングを入れるケースを紙袋に入れて貰い、代金を払って高雄の部屋を出た

 

「あ…ありがと…」

 

「良く似合ってる」

 

「…」

 

横須賀は紙袋を胸の前で両手で抱え、下を向いたまま何度も瞬きをし、耳に髪をかける仕草を繰り返している

 

素直じゃないのに、分かり易いんだよな…

 

「あ、アンタ…どうせ他の女の子にも同じ事してるんでしょ⁇生意気でイケ好かないけど…その…カッコイイ…し…ど、どうなのよ‼︎」

 

上目遣い気味に睨まれる

 

「だとしたらどうする⁇」

 

「アンタをクソと思うわ」

 

「朝霜達に聞いて見るんだな」

 

タイミング良く、朝霜と磯風が此方に向かって来た

 

「おぉ‼︎お父さん‼︎」

 

「何だ⁉︎お母さんが若いぞ‼︎オトン‼︎お母さんに何をした‼︎」

 

磯風が真っ先に横須賀の異変に気付く

 

「何でもないの磯風。ねぇ、貴方達のお父さんは、他の女の人にも優しいの⁇」

 

「ん〜…そだな〜…確かに優しいっちゃ優しいな⁇」

 

「信頼はされてる。それはい〜ちゃんも見てる」

 

「んでも、お父さんが一番優しくしたり、一番心配してるのはお母さんなんだぜ⁇」

 

「オトンは絶対に一線は超えない。い〜ちゃんでもそれは言える」

 

「そう…」

 

「デート中に悪かったな‼︎」

 

「お母さんもオトンも、もう少ししたら帰って来いよ⁇今日はおばあちゃんが晩御飯を作ってくれるんだ」

 

「もう少ししたら帰るよ」

 

「お母さん。い〜ちゃんが荷物を持って帰ってやろう」

 

「ありがと」

 

磯風に紙袋を渡し、もう少しだけ横須賀と歩く事にした

 

「…ねぇ」

 

「ん⁇」

 

振り返ると、顔を真っ赤にし服の襟で口元を隠し、そっぽ向いた横須賀が見えた

 

「手…位、繋いであげてもいいわ…」

 

栗色のカーディガンの裾から手の平が出る

 

「んじゃ、お言葉に甘えて…」

 

握った横須賀の手は、緊張しているのか震えている

 

「まぁ…ちょっとは好かれてるみたいだし⁇私も好きになったげるわ⁇」

 

昔の傲慢横須賀に戻っているのを見て、鼻で笑う

 

「可愛くねぇの…」

 

「生意気ね…」

 

俺と中々の身長差がある横須賀は、俺の顔を見る度に見上げる様な形になる

 

それも、普段よりもう少し小さい身長だ

 

必然的に上目遣いになる

 

そんな横須賀の手を左手で握り、繁華街をグルリと歩いた後、執務室に戻って来た

 

執務室には誰もおらず、机に一枚の紙が置いてあった

 

「あ⁇何だこれ⁇」

 

”マー君とジェミニへ

 

食堂で待ってます”

 

「行くわよ」

 

横須賀に言われ、食堂に向かう

 

「あっ‼︎来た来た‼︎マー君‼︎ジェミニ‼︎」

 

「楽しかったみたいだな⁇」

 

「まぁなっ…よいしょ‼︎」

 

大人三人の席に座らず、癖の様に子供達のいる席に座る

 

「向こうに行けオトン。い〜ちゃんとあ〜ちゃんだけで充分だ」

 

「お父様は清霜と食べるの‼︎」

 

「早霜も」

 

磯風には避けられるが、他多数がくっ付いて来てくれた

 

「美味しいか谷風⁇」

 

「うんっ‼︎チキンもピザも美味しい‼︎」

 

学校に行ってる時などに横須賀に来るもんだから、谷風とは入れ違いが多かった

 

久々に谷風が食べる姿を見て胸を撫で下ろす

 

「オトン何食う。い〜ちゃんが取ってやる」

 

「そのピザと…チキン二つくれるか⁇」

 

「分かった」

 

磯風に食事を取って貰い、清霜と早霜に挟まれながら食べ始める…

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

夕ご飯を食べ終えた後、風呂に入って横須賀の部屋のベッドの脇に座る

 

「子供達と寝ないのね」

 

「週に一回はお前と時間を取るって決めてる」

 

「そっ」

 

横須賀はベッドの上で釈迦涅槃像の様な状態でシュークリームを頬張りながら、リモコンを弄る

 

「太るぞ⁇」

 

「ほ、ほっといて頂戴‼︎ほら、冷蔵庫からもう一個取って‼︎」

 

「はいはい…」

 

テレビの横にある小型冷蔵庫の中からシュークリームが入った袋を取り、横須賀に投げる

 

横須賀は礼も言わずにシュークリームの袋を取り、テレビに視線を向けたまま、袋を開けている

 

「アンタも食べたいなら食べて良いわよ⁇」

 

「俺ぁいい」

 

この姿を見る度、情けなく思う

 

そんな自堕落満開の横須賀の背後で横になり、ちょっと抱き寄せて見る

 

「ちょっと…」

 

それでもリモコンとシュークリームは絶対手放さない

 

頑なに自堕落をしようとする横須賀を見て、ちょっとイタズラしたくなった

 

「あっ⁉︎」

 

横須賀の手からシュークリームを取り、そのまま頬張った

 

「何考えてんのよ‼︎」

 

シュークリームを取られた横須賀はすぐに此方を向き、ビンタの体勢に入る

 

「あっ…」

 

横須賀の手首を取り、目を見つめる

 

「な…何よ…はっ…離しなさ…」

 

暴れる横須賀を抱き締め、そのまま布団に入る

 

「やっ…痛い事しないで…」

 

「こうしてるだけだ…」

 

「絶対嘘」

 

口では反発しているが、横須賀の体から力が抜けて行く

 

「俺を信じろ」

 

「…やぁよ」

 

「どうすりゃ信じてくれる⁇」

 

「…」

 

「横須賀」

 

「…今はその名前で呼ばないで」

 

「ジェミニ」

 

耳元でジェミニと言った瞬間、ビクッと肩が上がった

 

「き…キスでもしたらどうかしら⁇」

 

「ワガママな女だ…」

 

「んっ…」

 

布団の中でジェミニを抱き締めながら、長い夜を過ごす…

 

 

 

 

 

「おはよう…」

 

「おはよう。いい朝よ‼︎」

 

ヘトヘトな俺に変わり、横須賀はツヤツヤしている

 

結局あの後、主導権は横須賀に渡り、絞りに絞られた

 

そして…

 

「レイ、朝ごはん食べてから行くでしょ⁇」

 

「そうだな…よいしょっ‼︎」

 

髪も黒に戻り、変わらずデカイ胸をした横須賀がそこに居た

 

「良い薬だったわ。まっ⁇アンタを忘れなきゃ花丸なんだけどね」

 

「改良点はありそうだな…」

 

着替えながら話を続け、いざ部屋を出ようとした時、手を掴まれた

 

「レイ…」

 

「なんだ⁇」

 

横須賀の目を見る限り、普通の事ではなさそうだ

 

「はいっ‼︎バレンタイン‼︎」

 

横須賀から箱入りのチョコレートを貰う

 

今日がバレンタインと言う事を忘れていた‼︎


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