艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、190話、そして特別編が終わりました

今回のお話は、姫がお出掛けする所から始まります

実は基地の人達以外に知り合いが少ないスパイト

そんな姫に意外なお友達が出来ます


191話 スパイトだってお年頃

「遅くなったわ…」

 

その日、スパイトは横須賀で買い物をしていた

 

姫だって、一人で買い物くらいしたい

 

時計を見ると既に19時

 

基地で晩御飯を食べる時間だ

 

「これは⁇」

 

車椅子を動かし、一際明るいネオンが光る店の前に来た

 

「Bar…かしら⁇」

 

目の前には、最近横須賀で開店したバーがある

 

スパイトの喉がゴクリと鳴る

 

基地では酒類が少ない

 

あると言えば、工廠の冷蔵庫にある、息子のビール位

 

たまには飲んだって…構わないわよね⁇

 

スパイトは自分にそう言い聞かせ、タブレットを箱から出す

 

姫 >飲んで帰りたいと思います

 

たかこ >分かったわ。スパイトの分は冷蔵庫に入れておくわ‼︎

 

飲むとなれば、問題は帰りの足

 

たまには息子を足に使っても良いだろう

 

姫 >マーカス。横須賀にいるから、お母さんが言ったら迎えに来て頂戴

 

だが、しばらく待っても反応は無い

 

夜間哨戒にでも当たって入るのだろう

 

帰りの足は後で考えれば良いと考え、スパイトは車椅子を動かし、バーの中に入った…

 

 

 

 

「いらっしゃいませ‼︎」

 

「”ボッチ”よ」

 

スパイトは時々チョットズレた言葉をそれらしい場面で吐く

 

今だって、ボッチを一名様と捉えている

 

ホール担当の子は苦笑いを浮かべながら、店内に手を向ける

 

「あ、あはは…お好きな席へどうぞ‼︎」

 

「Thank you」

 

店内には自分の息子の年代の男性やOjisanが話しており、心地良いガヤつきで、スパイトはとりあえず雰囲気が好きになった

 

「ここが空いてるわね」

 

ソファーの席が空いていたので、車椅子を止めてソファーに移る

 

「ご注文は何に致しましょう」

 

「そうね…」

 

メニューを手に取り、パラパラと捲る

 

「この1976年の赤、それと…」

 

今度は肴の欄に来る

 

「Fish&Cipsを」

 

「畏まりました」

 

店員が厨房に向かい、店内を見回す

 

「んあ〜…」

 

気の抜けた声が聞こえ、その方に振り向く

 

「綺麗な外人さんで〜すね〜あはははは〜」

 

呂律が半分回っていない少女が、瓶ビール片手にスパイトを見つめている

 

「貴方は⁇」

 

「ポーラですかぁ⁇ポーラはポーラと言いますぅ〜」

 

「そう…ポーラもボッチかしら⁇」

 

「ポーラはボッチじゃありませんて。ポーラ、こう見えて娘がいますて」

 

「ここに座りなさい。フラフラじゃないの」

 

「えへへ、はぁ〜い‼︎」

 

スパイトがソファーをポンポンと叩いた場所にポーラが腰を下ろす

 

「私はスパイト。よろしくね⁇」

 

「スパイトさん⁇スパイトさんスパイトさん…何処かで聞いたよ〜な〜…」

 

ポーラは俯いて悩み始める

 

俯いた顔を見ると、ポーラは口を尖らせている

 

「マーカスは知ってるかしら⁇」

 

「マーカスさん⁉︎勿論ですよぉ‼︎ポーラ、何度もお世話になってますて‼︎」

 

「息子がいつもお世話になってます」

 

「マーカスさんのお母様ですか。そうですか…お母様⁉︎」

 

飲んでいたビールを噴き出す程驚くポーラ

 

スパイトはいつもの様に自然にハンカチを取り出し、ポーラの顔を拭く

 

「あ…ありがとござます…」

 

「ふふっ、綺麗な顔が台無しよ⁇」

 

あまりにも驚き過ぎた為、ポーラは酔いが覚めてしまい、申し訳無さでいっぱいになる

 

「あ、あのあの‼︎ポーラがアサカーゼを産んだ時、マーカスさんにお世話になりましたて‼︎それと、ポーラが逸れた時にお迎えに来てくれたり、それにそれに…」

 

自身の息子が普段している事を教えて貰い、スパイトはポーラの話の最中、終始満面の笑みを浮かべる

 

「とにかく、マーカスさんは凄い人ですて‼︎」

 

「Thank you、ポーラ。ふふっ…」

 

「お待たせしました」

 

フィッシュアンドチップスが置かれ、グラスにワインが注がれて行く

 

「グラスをもう一つ頂けるかしら⁇」

 

「畏まりました」

 

「いいんですかぁ⁇」

 

「えぇ‼︎二人で飲んだ方が、私も楽しいわ⁇」

 

「へへ…」

 

ポーラは照れ臭さそうに笑い、追加されたグラスに注がれるワインに視線を送る

 

「じゃあ、かんぱ〜い‼︎」

 

スパイトが微笑み、グラスが重なり合う音を立てる

 

「スパイトさんは何処のお方ですかぁ⁇」

 

「イギリスよ⁇イギリスは良い所よ⁇」

 

「はへぇ…ポーラはイタリアですて。イタリアも良い所ですよぉ⁇」

 

「Pizzaの国ね⁇」

 

「そうですそうです‼︎ポーラ、ピザ好きですて‼︎」

 

少し幼さが残るポーラを見ながら、スパイトはワインを口にする

 

スパイトは楽しくてたまらなかった

 

勿論基地での会話も楽しいが、こうした新鮮味のあるお話を聞くのも、スパイトは気に入っていた

 

ポーラは沢山の事を教えてくれた

 

イタリアは綺麗な街が多い

 

家庭的な美味しい料理が沢山ある

 

軟派な男が多い

 

でも気持ちは熱い国だ

 

スパイトは行った事の無い国の話を聞いて、心を踊らせる

 

そして、どんどんポーラが好きになって行く

 

「ふぁ〜…」

 

お互いに沢山話をした後、ポーラは欠伸をした

 

「おねむかしら⁇」

 

「そ〜れすねぇ…」

 

ポケ〜ッとした顔をしながら、ポーラは目を擦る

 

その顔は本当に幼く見え、スパイトの母性が動いた

 

「ここに横になって⁇」

 

スパイトは自身の膝をポンポンと叩く

 

「失礼じゃありませんかぁ…⁇」

 

「いいの。気にしないで⁇」

 

「じゃあ…お言葉に甘えて〜…」

 

スパイトの膝に頭を起き、ポーラは目がトロンとし始める

 

「スパイトさん…」

 

「どうしました⁇」

 

「また、ポーラと飲んでくれますかぁ〜⁇」

 

「勿論。ポーラがよければ」

 

「えへへ〜…良かったぁ〜…」

 

そう言った後、ポーラはうつ伏せでスパイトの膝枕で眠りに就いた

 

そんなポーラを見て、スパイトは髪を撫でたり、背中をゆっくりポンポンと叩く

 

「いらっしゃいませ」

 

ポーラを寝かせてすぐ、入口のカウベルが鳴る

 

「母さん」

 

「マーカス⁇」

 

上を向くと、背後に立っている息子のマーカスの顔が見えた

 

「お久し振りです」

 

「アレン」

 

横にはマーカスの友達である、パイロットのアレンもいる

 

「寝たのか⁇」

 

「えぇ。沢山お話ししてくれたわ⁇」

 

「俺、今日飲むから、母さん一人で帰れr…」

 

マーカスが今から言おうとしている言葉を予測し、真顔になる

 

「…分かった。横須賀に泊まろ」

 

「絵本も読んで頂戴⁇」

 

マーカスに甘えられる時はとことん甘えておくと決めている

 

「オーケー。じゃあ、ちょっと飲んでくる」

 

二人がカウンター席に座った後、残ったワインを飲み干した

 

「コーラを頂けるかしら⁇」

 

残ったフィッシュアンドチップスをコーラと一緒に食べ、二人を待つ

 

 

 

 

その頃、カウンターでは…

 

「おまかせを二つで‼︎」

 

「畏まった‼︎」

 

ネームプレートに”那智”と書かれた女性のバーテンにお任せのカクテルを注文するマーカスとアレン

 

数分後、カクテルが出来上がる

 

「ゔっ…」

 

「こっ、これはカクテル…か⁇」

 

「ガンジスの淀みでございます」

 

二人の前に置かれたカクテルは、どこからどうみても泥水にしか見えない

 

「心配するな。ちゃんとしたカクテルだ」

 

「い、頂きます…」

 

「よ、よし…」

 

意を決し、同タイミングで”ガンジスの淀み”と名付けられたカクテルを飲む

 

「…」

 

「…」

 

一旦グラスから口を離し、もう一度飲む

 

「…美味いな」

 

「…うん」

 

見た目の割には中々美味なガンジスの淀み

 

コクのある甘さで、奥行きに茶葉を感じる

 

「ほうじ茶を使っているんだ。だからそんな色になるんだ」

 

「なるほど…」

 

「もう一杯くれるか⁇」

 

ガンジスの淀みを気に入った二人は、今しばらくそれを楽しむ

 

「楽器あるな」

 

飲みながらふと気付く

 

店内の奥に幾つか楽器が置いてある

 

「上手く弾けたら割引してやるぞ⁇」

 

と、那智が半笑いで言ったが最後

 

二人は一瞬で楽器の前に行く

 

「あ、ちょっ…」

 

「大尉二人の演奏だ‼︎」

 

「やった‼︎」

 

那智は知らなかった

 

この二人、演奏は朝飯前なのだ

 

そしてすぐに演奏が始まる…

 

 

 

 

「あらっ、マーカス…」

 

スパイトは遠目で息子の演奏を見る

 

そして、曲に合わせて鼻歌を歌う

 

ポーラにとって、もう一段階上の心地良い空間が産まれる

 

それも束の間

 

心地良い演奏、そしてお酒も入り、スパイトも俯いて眠ってしまった…

 

 

 

 

目が醒めると、何処かのベッドの上

 

「朝…」

 

「起きたか⁇」

 

息子が着替えを持って来てくれた

 

「マーカスが運んでくれたの⁇」

 

「そっ。寝ちまったからな」

 

「Sorry…」

 

「気にすんな。着替えたら間宮に行ってくれ。お友達がお待ちだぞ⁇」

 

着替えを置いた後、息子は出て行った

 

着替えを済ませ、身嗜みを整えてから間宮に向かう

 

「あ‼︎スパイトさん‼︎」

 

「ポーラ‼︎」

 

ポーラに手招きされ、机を挟んだ向かい側に座る

 

「朝ごはん食べてから帰りましょ〜」

 

「えぇ‼︎」

 

その日、スパイトもポーラも楽しく朝食を食べ、互いの基地に戻って行った

 

この日を境に、横須賀基地内ではスパイトとポーラが一緒にいる所を度々目撃されるようになった…

 


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