艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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190話 オンナノタタカイ(5)

「御協力、感謝致します‼︎」

 

「俺は何もしてねぇよっ。礼ならきそと、今アンタらの足元にいるPT達に言ってやってくれ」

 

「ぷ〜…」

 

「ぴ〜…」

 

PT達も疲れたのか、兵士達の足にもたれかかって鼻ちょうちんを作っていた

 

「ははは…ありがとう、PTさん達‼︎」

 

「ぷぴ〜…」

 

「ぴぷ〜…」

 

それぞれの足元にいたPTを撫で、兵士達は一般市民を連れて喫茶ルームを出た

 

「お疲れ様です」

 

兵士達を見送った直後、目の前の机にショートケーキとコーラが置かれた

 

「分かってるな…」

 

「HAGYは何だってお見通しですよっ。榛名を救って頂き、ありがとうございました」

 

「感謝してくれてるならっ…」

 

椅子に座り、フォークを手に取り、逆の手でコーラを飲んだ

 

「これを代金として貰うとすっか‼︎」

 

「提督がお礼は後日…と」

 

「今貰ったからパスだって言っとけ‼︎んっ‼︎美味い‼︎きそにも作ってやってくれるか⁇」

 

「それは”茂樹”大佐から差し入れです…」

 

「茂樹大佐ぁ⁇誰だ⁇」

 

「トラック泊地の提督さんです。他にも多方面の方から差し入れを頂きました」

 

「茂樹って言うのか…」

 

長い間トラックさんで通っていた為、今更ながら本名を知った

 

「食った食った‼︎よっこらせ‼︎」

 

ケーキを食べ、コーラを飲み干した後、ソファに横になった

 

「食べてすぐ横になったら牛になりますよ⁇失礼します…」

 

HAGYに膝枕をして貰う

 

今ではする方が多くなった膝枕だが、久々にして貰うと中々心地良い

 

「榛名にもよくするんですよ⁇」

 

「榛名がHAGYをお母さんと呼んだ理由…少し分かる気がするな…」

 

「せめてお姉さん…位が良かったですが…でもっ、頼られるのは悪い気はしませんねっ⁇」

 

「その内慣れる…さ…」

 

疲れに勝てず、そのままHAGYの膝枕の上で目を閉じた…

 

 

 

 

「ぬはぁ‼︎」

 

何時間も経過した後、榛名はベッドの上で目を覚ました

 

「ぐへぇ…イテェダズル…」

 

相変わらず痛む鳩尾

 

誰かが処置してくれたのか、体中に包帯が巻いてある

 

「榛名…⁇目が覚めましたか⁉︎」

 

「ハギィ…」

 

ベッドの横で眠っていたHAGYが榛名の手を握る

 

「心配させないで下さい…」

 

「悪かったダズル…よっこら」

 

HAGYの支え付きで、榛名はベッドから立ち上がる

 

「誰が処置してくれたんダズル⁇」

 

「マーカスさんときそちゃんですよっ…ほらっ」

 

「ぐがーーー…」

 

「んごーーー…」

 

喫茶ルームで、白衣を着たまま死んだ様に眠っているマーカスときそがいた

 

「みんな助けてくれたんですよ⁇」

 

「感謝しないといかんダズルな…そういや、赤ちゃんの家族は…」

 

「マーカスさんが接合してくれています。ただ…莫大な時間を要するみたいです」

 

「接合⁉︎どれ位ダズル…」

 

流石に助からないと思っていたあの両親が助かったと聞いて、榛名は驚いている

 

「…三年です」

 

赤ちゃんの両親は下半身と上半身が分かれ、尚且つ中腹部分は吹き飛んでしまっており、カプセルに放り込んで、長い時間を掛けて全身を取り戻す作業に入っていた

 

「三年…あ、あの赤ちゃんはどうするんダズル‼︎」

 

「ほ〜らほ〜ら、リシュリューだリュー」

 

マーカス達から離れた席で、リシュリューが赤ちゃんを抱っこしてあやしている

 

「榛名はどうしたいですか⁇」

 

「は、榛名は…」

 

「レロレロレロだリュー‼︎」

 

「見捨てる事なんか…出来んダズル。ハギィ、リシュリュー」

 

「大丈夫だリュー‼︎」

 

「分かってましたよ榛名っ‼︎」

 

「ありがとダズル…でも、提督が何て言うダズル⁇」

 

「それについては御安心を。HAGYが言ってあります」

 

「ニムと霧島は何て言ってたダズル⁉︎」

 

「早く帰って来いにむ〜、普段の行いが悪いからこうなるまいく〜…と」

 

「あんのクソマイク…いっぺんぶっ飛ばしてやるダズル‼︎」

 

「そんだけ言えりゃっ…傷は癒えたみたいだな」

 

「マーカス。助かったダズル」

 

「お前の巨乳拝めたからイーブンにしといてやるよ。それとっ…」

 

きそに革ジャンを被せたマーカスは、何故か奥の部屋に行き、手に何かを持って戻って来た

 

「何ダズル」

 

「忘れモンだっ」

 

榛名の足元にハンマーが落とされる

 

「ありがとダズ…おいマーカス‼︎オメェ何でハンマー持てるんダズル‼︎」

 

「誰がそいつの設計図書いたと思ってるんだ」

 

「リシュリューのハンマーの設計図も書いてくれたんだリュー‼︎」

 

「知らんかったダズル…」

 

「それと、あの家族の事だが…」

 

「ハギィから聞いたんダズル。ありがとう、マーカス」

 

「時間は掛かるが、何とかしてやる。あのヤマシロって奴もな」

 

「あ…アイツは元は先公ダズル。学校にでも置くと良いダズル。監視付きでな」

 

「それも手だな…処分は任せてくれるか⁇」

 

「監視とか躾がいるなら榛名が出てやるダズル‼︎」

 

「助かるよ。きそっ」

 

「んぁ…」

 

目を擦りながらきそが起きた

 

「榛名さん‼︎」

 

起きた直後、きそは榛名に抱き付く

 

「心配したよぉ…」

 

「もう大丈夫ダズルよ…ありがとう、きそ」

 

きそが榛名に抱き付いている時、外に輸送機が着陸するのが見えた

 

「ようやくお出ましかっ…」

 

輸送機が着陸して数分もしない内に、階段を登る音が聞こえて来た

 

「お疲れ様、レイ」

 

来たのは横須賀だ

 

「負傷者は向こうだ」

 

「分かったわ。こっちに運んでちょうだい‼︎」

 

横須賀は替えのカプセルを持って来てくれた

 

「アンタが居てくれて良かったわ…近場にドクターが居なかったのよ」

 

「治療ならいつでもっ」

 

「そうそう榛名。レイもきそも。国から感謝状が来るわよ⁇」

 

「感謝状送るくらいなら焼肉奢れって言っとけ‼︎」

 

「そうダズル‼︎死にかけたんダズル‼︎焼肉位食わせて貰わなきゃイヤダズル‼︎なぁきそ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

「総理大臣からのありがた〜い感謝状なのに⁇」

 

「「「うん‼︎」」」

 

三人の意見がピタリと合う

 

「…まっ、まぁいいわ。とにかく、今日はありがとう。お礼は後日基地宛に送らせるわ⁇」

 

「隊長に心配掛けたな…」

 

「隊長が事故報告書を出してくれたわ。ラバウルさんと一緒にね⁇」

 

「マーカスと違って気の回るナイスガイダズルな‼︎ははは‼︎」

 

「ニャロウ‼︎そんだけ冗談言えりゃあ充分だ‼︎さっさと帰れ‼︎」

 

「榛名さん。赤ちゃんのお名前決めるんだリュー‼︎」

 

「言われてみればそうダズル」

 

帰る寸前にリシュリューに言われ、榛名は結構真面目に悩み始める

 

「そういや、雪降ってるダズルな…」

 

窓の外では、相変わらず雪が降っている

 

「マーカス。この子は男の子ダズル⁇」

 

「女の子だ」

 

「よし、なら”吹雪”にするダズル‼︎」

 

「吹雪、ですか⁇」

 

「そうダズル。雪みたいにキレイキレイな子になって、吹雪見たいに力強くて、誰にも負けん子になる名前ダズル‼︎」

 

結構適当に付けたと思っていたが、結構キチンとした理由があった

 

「オメェにしちゃマトモだな⁇」

 

「ウッセェ‼︎榛名はいつだってマトモちゃんダズル‼︎」

 

「吹雪ちゃんね…単冠湾向けに高速艇を手配してあるわ。赤ちゃん冷やしちゃダメよ⁇」

 

「んっ…じゃあ、榛名は帰るダズル」

 

「ありがとリュー‼︎」

 

「ありがとうございました‼︎」

 

単冠湾の三人と赤ちゃんは高速艇に乗り、帰って行った…

 

「あら、隊長だわ‼︎」

 

「ラバウルさんも‼︎」

 

スカイラグーンに、親鳥二機が着陸する

 

いつ見ても体が震える程カッコ良い

 

「レイっ」

 

「なんだ⁇」

 

窓の外を見ていた俺の襟に手を伸ばし、唇を当てられる

 

「今日のお礼よ…」

 

「高いお礼だ事…」

 

「うへぁ…」

 

丁度間に居たきそが上を向いて口を開けている

 

「きそにもねっ‼︎」

 

横須賀はきその額にも唇を当てる

 

「へへへ…」

 

照れ臭いのか、きそは額を何度も撫で、顔を赤くしている

 

「お疲れさん、レイ」

 

「此方は全て完了致しましたよ」

 

隊長とラバウルさんが迎えに来てくれた

 

「ありがとうございます」

 

「もう晩御飯だ。今日は貴子のカレーだぞ‼︎」

 

「よし、撤収‼︎ラバウルさん、ありがとうございました‼︎」

 

「ふふっ。平和の為ならいつでもっ」

 

「気を付けて帰るのよ‼︎ご飯の前にシャワー入りなさいよ‼︎」

 

「はいはい‼︎」

 

横須賀とラバウルさんに見送られ、俺達は基地に戻った

 

数日後、基地と単冠湾宛てに国からの感謝状と、焼き肉5万円分の金券が届いた…


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