艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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189話 連合の白い悪魔(3)

涼月が産まれてから、照月は時々一人で大湊やガンビア率いる輸送連隊に足繁く通う様になった

 

隊長にも俺にも何処に行くかキチンと言っている為、誰も文句の一つも出なかった

 

もしかすると照月にとって、ようやく見付けた”生き甲斐”なのかも知れない…

 

数週間後…

 

「なるほどな…」

 

大湊に来ていた俺は、一人の少女から聴診器を外す

 

「あの…涼月、何処か悪いんですか⁇」

 

聴診器を当てていたのは、随分と大きくなった涼月

 

数週間で照月と同じ位の体格になり、言葉も流暢に話せている

 

「お父さんとお母さんとお話があるから、照月の所に行って待っててくれるか⁇」

 

「はい」

 

涼月を医務室から出し、ボスと岩井さんを椅子に座らせる

 

涼月の急成長で考えられる事は一つ

 

「どっちか、艦隊化計画の手術を受けてるな」

 

「あぁ、それなら私かな」

 

そう言ったのはボスだ

 

岩井さんもそれを知っているみたいだ

 

「涼月にも艦隊化計画の影響が及んでる。って言っても、そんなに大きなデメリットは無い」

 

「良かった…」

 

「病気じゃなかったな…」

 

ボスに続き、岩井さんも安堵の溜息を吐く

 

「まっ⁇強いて言うなら、子育ての順序を吹っ飛ばすから、小さい時の子育てを経験出来ない事位か⁇」

 

「いいさ。涼月は私達の子供である事に変わりは無いよっ」

 

「私達が願うのは、照月ちゃんの様に健康で人を思う子に育って欲しい…それだけです」

 

「なるほどっ…まっ、健康に問題は無い。後は食ったりお話したりと…まぁ、普通の子育てだな⁇」

 

「あ。それとマーカスさん。一つお願いが」

 

「なんだ⁇」

 

ボスと岩井さんは顔を見合わせ、互いに頷いた…

 

 

 

 

 

「ホントに大丈夫なの⁇」

 

艤装を付け、何故かリュックを背負った照月が不安そうにしている

 

俺はその横で持って来た艤装の最終確認を行う

 

数日前に涼月の検査を終えた後、ボスと岩井さんから一件の依頼を受けた

 

”涼月の艤装を造ってやって欲しい”

 

俺は流石に断ろうとした

 

だが、涼月の両親二人の意見は、あの子の意見を尊重してやって欲しいとの事

 

一応艤装は造ってはみたが、上手くいくかどうか…

 

「何事も経験さ。照月の言いたい事は分かる。早すぎる、だろ⁇」

 

「うん…」

 

「本人きってのお願いなんだ。それにっ…」

 

照月の頭を撫でる

 

「照月が付いてるから大丈夫だろ⁇」

 

「うんっ‼︎照月、涼月ちゃんを護ってあげるんだぁ‼︎」

 

照月が嬉しそうにガッツポーズをした時、涼月が来た

 

「引き返すなら今だぞ⁇」

 

「大丈夫です。涼月も、お照さんと共にお母さんやお父さんを護りたいんです」

 

涼月の目は本気だ

 

これ以上、引き止めてしまうとこの子の意思を曲げてしまう事になる

 

「分かった。なら引き止めはしない。艤装を付けよう」

 

新品の艤装を涼月に装着して行く

 

とは言え、この艤装はデータを取る為の試作艤装

 

どれも初心者でも簡単に扱える艤装であるが、威力は抑えてある

 

主砲は照月と秋月と同じ手甲に巻くタイプの主砲

 

そして、意思は無いが自動で狙いを定めて銃弾を撃ち出してくれる、長☆10cm砲ちゃんのレプリカを一つ

 

もう一つはまだ無く、形こそ長☆10cm砲ちゃんだが、中はケースになっている

 

因みに中には涼月専用の武器になるであろう艤装が入っている

 

「照月、後は任せたぞ⁇」

 

「うんっ‼︎涼月ちゃん、照月と一緒にスカイラグーンまで行ってみよっか‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

照月は艤装を付けた涼月に手を伸ばし、海の上に立たせ、ゆっくりと進み始めた

 

「上手上手‼︎」

 

「おおおおお…」

 

照月の補助を受けた涼月の足はプルプルしているが、段々慣れて来たのか、軽い補助だけで海上に立てる様になった

 

「うんっ‼︎もう大丈夫だね‼︎」

 

「おぉ〜…凄いです‼︎」

 

数十分もすると、涼月は補助無しで海上を行ける様になった

 

涼月の姿を見て、照月は俺に連絡を入れる

 

「お兄ちゃん‼︎照月、このまま涼月ちゃんとスカイラグーン目指すね‼︎」

 

《了解した。俺もグリフォンで追い掛ける》

 

照月の無線を聞き、ゴールであるスカイラグーンを目指す為、グリフォンに乗る

 

 

 

 

「お照さん」

 

「ん〜⁇」

 

「スカイラグーンとは⁇」

 

「スカイラグーンはね、お兄ちゃんみたいなパイロットの人が休憩したり、照月達がジュース飲んだり、お菓子食べたりする所なんだぁ‼︎」

 

「ジュース…お菓子…んっ‼︎」

 

ジュースと聞いて、涼月の顔に力が入る

 

「ん⁇」

 

スカイラグーン到着まであと半分位まで来た時、照月の目に一隻の船が目に入った

 

「ちょっと棚町さんに聞いてみよ〜っと‼︎」

 

照月は無線を棚町に繋げながら、船に近付く

 

涼月もそれに着いて行く

 

《此方大湊基地。どうしましたか⁇》

 

「照月の居る場所分かりますか⁇」

 

《ちょっと待ってね…え〜と。うん、分かるよ》

 

「今日って、この辺りに漁を許可してる船は居ますか⁇」

 

《う〜ん…居ないね。不審船か⁇》

 

「うん。凄い数のお魚獲ってるよ‼︎」

 

《了解。船員をふん縛ってくれるかい⁇》

 

「分かった‼︎」

 

照月は無線を切ると、腕をグルグル回す

 

「涼月ちゃん。照月が護ってあげるから、照月のお仕事、一緒にしてみる⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

照月は涼月を連れて、密漁船に近付く

 

この後、涼月を連れて行った事を後悔する事になるとも知らずに…

 

 

 

 

密漁船に近付いた照月は、乗組員に聞こえる様に声を上げる

 

「何やってるのぉ〜っ‼︎」

 

「…」

 

乗組員は照月の声に耳を傾けず、密漁を続ける

 

「勝手にお魚獲ったらダメなんだよ〜っ‼︎」

 

「…」

 

それでも耳を傾けず、黙々と漁を続ける

 

「そっかそっかぁ〜。照月を無視するんだね〜。そっかそっかぁ〜」

 

照月は笑いながら、背負っているリュックを肩から外す

 

「長☆10cm砲ちゃん持って‼︎」

 

長☆10cm砲ちゃんにリュックを持たせ、中を開ける

 

照月はリュックの中から何かを取り出し、火を点け、密漁船へ投げた

 

「えいっ‼︎」

 

密漁船に投げ込まれた物を見て、船員は慌てふためき、海の中へ飛び込む

 

そして、船上で爆発が起きる

 

「何しやがる‼︎」

 

「死んじまうだろ‼︎」

 

「照月、最後忠告したよ‼︎」

 

「いつ‼︎」

 

「照月、お魚獲ったらダメなんだよぉ〜って言ったよ‼︎」

 

「この野郎…」

 

船員の一人が隠し持っていたピストルを照月に向ける

 

「えいっ‼︎」

 

照月は相変わらずゲンコツでピストルを破壊する

 

「なっ…」

 

「抵抗しないで。照月、命までは取らないから」

 

そう言って照月は救命ボートの紐を手甲銃で切り、海上に落とした

 

「さっ‼︎死にたくないなら乗って乗って〜‼︎」

 

「従おう…」

 

船員達は救命ボートに乗った後、ようやく諦めが付いたのか、下を向いたまま話さなくなった

 

「船は残ってる。またやればいいさ」

 

「さぁっ‼︎照月と一緒にお仕事しよっか‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

「涼月ちゃんは左ね。照月は右っ‼︎」

 

照月はリュックから先程と同じ型のダイナマイトを取り出し、ライターで火を点ける

 

「それっ‼︎」

 

「えいっ‼︎」

 

二人が投げたダイナマイトは密漁船に当たった数秒後、爆発を起こす

 

「これは凄いです‼︎」

 

「でしょ〜⁉︎照月、これ大好きなんだぁ‼︎」

 

照月も涼月も笑顔でダイナマイトを密漁船に投げ続ける

 

「やっ、やめろ‼︎頼むから‼︎」

 

船長であろう人物が悲鳴をあげる中、数分もしない内に無人になった密漁船は木っ端微塵になった

 

「不審船は何処の国だろうと、照月は爆破するよ‼︎分かった⁉︎」


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