艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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189話 連合の白い悪魔(2)

タウイタウイに着き、照月は二式大艇から降りる

 

「秋津洲さん、ありがとう‼︎」

 

「回送中だったのは内緒かも‼︎」

 

そう言って、秋津洲は照月から代金を取らなかった

 

「さてっ。照月はお買い物だね‼︎うんっ‼︎」

 

照月はカゴを持ち、早速赤ちゃん用品のコーナーに向かう

 

「え〜とぉ…粉ミルクでしょ〜⁇紙オムツでしょ〜⁇あっ‼︎タオルとガーゼもいるよね‼︎」

 

カゴに放り込まれて行くベビー用品の数々

 

普段間の抜けた感じがする彼女であるが、意外にも赤ちゃん用品の事に詳しい

 

「え⁇お洋服はどうするかって⁇」

 

足元にいる長☆10cm砲ちゃんが手を振りつつ、照月に服はどうするか伝える

 

「お洋服はサイズがあるから、また今度にしよう⁇ありがとね〜」

 

最後にパックされた離乳食を数個カゴに放り込んだ後、照月はレジに並ぶ

 

「お願いしま〜す‼︎」

 

商品が精算されている最中、照月はガマ口財布を出し、支払いの準備をする

 

「15400円になります」

 

「はいっ‼︎」

 

照月はガマ口財布から一万円札を二枚取り出す

 

普段照月は哨戒任務や護衛任務に就いているので、そこそこのお金は持っている

 

時折飛び込んで来る特殊任務(不審船撃退、敵基地食料庫壊滅)の手当は横須賀で管理している

 

横須賀さんには手は出せない場所にあるので安心して頂きたい

 

お釣りを貰った照月は、お札を財布の中に入れ、小銭は手に持ったまま、パンパンになった麻袋を持ち、タウイタウイモールを出て来た

 

「あっ‼︎あったあった‼︎」

 

外にあった出店を見るなり、照月は走り寄る

 

「いらっしゃい‼︎」

 

「フランクフルト6本下さい‼︎」

 

最上のスティックミートの出張店だ

 

元々最上はここでこの店を出していたが、横須賀に自分の店を持ったので、ここは出張店になり、代わりにタウイタウイモールの職員がここに居る

 

「はいっ‼︎」

 

「ありがと〜‼︎美味しそぉ〜‼︎」

 

片手に3本ずつフランクフルトを持ち、照月はご満悦

 

照月は1本のフランクフルトを一口で食べた後、船着場に来た

 

「イカさんだぁ‼︎お〜い‼︎」

 

「照月ちゃん。お買い物かい⁇」

 

「うんっ‼︎照月、今から大湊に行くの‼︎」

 

「そっかそっか。乗って行くかい⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

高速艇に乗った照月は麻袋を置き、景色を見ながらフランクフルトを胃に落とす

 

照月は高速艇が好きで、こうして乗れる機会を普段から楽しみにしている

 

それに今日は運転手がイカさん

 

数いる高速艇の運転手の中で、イカさんだけは照月を乗せても普通の運転が出来る

 

照月は大湊に着くまでフランクフルトを全部胃に落とし、キチンと備え付けのゴミ箱に棒を捨てる

 

「さっ、着いたよ」

 

「イカさんありがとう‼︎」

 

「また声掛けてね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

大湊に降り立ち、照月は麻袋を肩に掛け、執務室を目指す

 

「コンコン。照月です」

 

キチンとノックをする照月

 

一時期は”恐怖のノック”と言われた行為も、最近は影を潜めている

 

「照月ちゃん⁇開いてるよ」

 

「ボスと岩井さんにお祝いに来ました‼︎何処にいますか⁉︎」

 

「自室に居ると思うよ。ありがとね⁇」

 

「うんっ‼︎行って来ま〜す‼︎」

 

照月が執務室から去り、棚町、そして鹿島が安堵の溜息を吐く

 

「照月ちゃんを前にすると背筋が伸びるな…」

 

「普段からお世話になってる上、怒らせたら基地壊滅間違い無しですからね…」

 

 

 

 

「え〜とぉ、岩井さんのお部屋は〜…あった‼︎」

 

岩井さんの部屋の前に着き、早速ノックをする

 

「コンコン。照月です」

 

「照月ちゃん⁉︎開いてるよ‼︎」

 

「失礼しま〜す」

 

照月が中に入ると、中々広いリビングに来た

 

「いらっしゃい照月ちゃん。ここ来るのは初めてだったね⁇」

 

「うんっ」

 

岩井さんの言葉に笑顔を送る照月だが、何故か照月は控えめに返事をした

 

「おやおや照月ちゃん‼︎いらっしゃい‼︎」

 

「ボス。わぁ〜っ‼︎」

 

ボスの腕の中には、ボスに似た銀髪の子が抱かれており、指を咥えながら照月をジーッと見ている

 

赤ちゃんが起きているのを見た後、照月は声を普通のトーンに戻した

 

照月は赤ちゃんが寝ているかも知れないので、気を使って声を控えめにしていたのだ

 

「お名前は⁇」

 

「この子は”涼月”。照月ちゃんから一文字貰ったんだよ⁇」

 

「わぁ〜っ‼︎嬉しい〜っ‼︎」

 

ボスと岩井さんは、子供に照月から一文字貰った名を付けてくれていた

 

照月が居なければ、ボスと岩井さんは繋がっていなかった…

 

ボスと岩井さんは、その感謝を表す為に、自分の子に”涼月”と名付けた

 

「抱っこしてみるかい⁇」

 

「う、うんっ‼︎長☆10cm砲ちゃん、ちょっとお願い‼︎」

 

照月は生唾を飲んだ後、長☆10cm砲ちゃんに麻袋を持たせ、ボスから涼月を受け取る

 

「わぁ〜っ…」

 

涼月を抱っこした照月

 

照月に抱っこされている涼月

 

両者共、互いの顔を見て微笑む

 

涼月は照月の顔に手を伸ばし、頬を触ったり、照月の大きな胸に軽く触れたりしている

 

「照月も赤ちゃん欲しいなぁ〜…ボス、岩井さん、ありがとう‼︎」

 

涼月をボスに返し、長☆10cm砲ちゃんから麻袋を貰う

 

「照月、お祝い持って来たの‼︎はいっ‼︎」

 

「良いのかい⁉︎普段からお世話になってるのに、こんな事までして貰って…」

 

麻袋ごと岩井さんに渡すと、岩井さんは一度躊躇った

 

「お祝いはキチンとしなきゃなんだよ‼︎」

 

「アンタっ。ありがたく貰っておきなっ」

 

「んっ。有り難く頂戴するね⁇」

 

「うんっ‼︎じゃあ、照月はこれで帰るね‼︎」

 

「ちょっとちょっと‼︎ご飯位食べて行きな‼︎」

 

「い〜のい〜の‼︎照月、赤ちゃん見てお腹いっぱいになっちゃったんだぁ〜‼︎じゃあね〜‼︎」

 

照月は本当に岩井さんの部屋から出た

 

「気を使わせちゃったな…」

 

「優しい子だからなぁ…ほら、見て」

 

岩井さんが麻袋の中をボスに見せると、中にはベビー用品が詰め込まれており、ある程度は凌げるセットが出来上がっている

 

「落ち着いたら、照月ちゃんに鱈腹食べさせてやろう。世話になりっぱなしだ…」

 

「ホント、出来た子だねぇ…」

 

 

 

帰りの高速艇の中で、照月は長☆10cm砲ちゃんを抱っこしながら、涼月の事を思い出していた…


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