艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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187話 貴方と私の宝物(2)

一時間後…

 

「え〜と、その〜…」

 

私の腕の中には、産まれたての赤ん坊がいた

 

あの腹痛、ただの腹痛ではなく陣痛だったのだ

 

流石に三人産むと出産には慣れて来たが、陣痛だけは耐えられなかったみたいだ

 

赤ん坊を抱っこしている横で、助産婦の千歳と千代田は喜びを露わにしてくれているが、明石はビミョーな顔をしている

 

「大尉とは、その〜…」

 

「す、数日前かしら…良く分からないけど、レイがどうしてももう一人欲しいって言い出したから…」

 

「産まれたのか⁉︎」

 

「見せて‼︎」

 

事態を聞き、引き返して来たレイときそが来てくれた

 

「えぇ。楽な出産だったわ⁇」

 

レイに赤ん坊を抱かせる

 

「初めましてだな。”早霜”」

 

レイは既に名前を決めていたみたいで、赤ん坊の事を”早霜”と呼んだ

 

「あらっ。名前まで決めてたの⁇」

 

「まぁなっ。この子との約束なんだ」

 

不思議な事を言うレイを、私はおちょくった顔で見る

 

「ふ〜ん…未来でも行って来たのかしら⁇」

 

「んな所さっ」

 

「お母さん大丈夫⁇」

 

「えぇ。大丈夫よっ」

 

きそがベッドから半分顔を出し、私を見ている

 

相変わらず色々な物に対して身長が足りないきその頭を撫でる

 

目しか見えていないが、嬉しそうな顔をしてくれている

 

「ほらっ、お母さんの所に行こうな」

 

早霜が返って来ると、早霜はジッと私を見つめて来た

 

「早霜…」

 

私もレイも、早霜の顔を見る

 

そんな私達を見て、きそは一歩下がる

 

きそは気付いていないのね

 

自分がどんどん遠慮する人間になってる事を…

 

「きそ」

 

「ん⁇」

 

「きそも好きだからね⁇忘れちゃダメよ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

その後の話で、早霜は横須賀で預かる事になった

 

早霜も他の子の御多分に漏れず、成長が早かった

 

産まれて2日目にはえっちらおっちら立ち上がり

 

3日目には歯が生え

 

4日目には流暢に話し始めた

 

…もう驚かないわよ⁉︎

 

伊達に3人も産んでないわ‼︎

 

「きよしもねぇさん。それは⁇」

 

「これ⁇これはき〜ちゃんの車‼︎お父様に買って貰ったの‼︎」

 

「はやしももくるまほしい…」

 

早霜が清霜の宝物の車に手を伸ばすと、清霜は車を取る

 

「やだ‼︎これだけはき〜ちゃんのっ‼︎」

 

「そう…」

 

早霜は清霜に睨まれてすぐに手を引いた

 

早霜はビックリする位諦めが早い

 

それに本当に大人しい子

 

ここまで大人しいと逆に不安になる

 

何も無ければ良いのだけど…

 

 

 

 

数日後…

 

「清霜姉さん」

 

「ん⁇」

 

「早霜も車欲しいです」

 

「ダメだよ‼︎あれだけはき〜ちゃんの‼︎」

 

「そう…」

 

清霜は頑なにあの車のオモチャを貸そうとしない

 

どうやらレイに買って貰った、自分なりの宝物との認識があるみたいだ

 

少し位貸してやれば良い…とも思うが、それを清霜含め子供達に言う事はレイから禁止されている

 

子供達にだって、大切な物や意思がキチンとあるからだ

 

「早霜はどうだ⁇」

 

「レイ‼︎」

 

「お父様‼︎」

 

清霜の顔がパァッと明るくなる

 

普段から明るい清霜を更に明るくさせたのは、勿論レイ

 

清霜は本当にお父さんっ子だ

 

レイもレイで、飛び付いて来る清霜の受け止め方に段々慣れて来ている

 

清霜はレイに抱かれながらも片手で車のオモチャを持っている

 

…どうしても早霜に貸したくないらしい

 

「朝霜と磯風は⁇」

 

「工廠に行ったわ。焼き芋作るんですって」

 

「ガングートもか⁇」

 

「そっ。親潮も行ったわ⁇ななは学校よ⁇」

 

「そっかそっか。よいしょ…」

 

「わ」

 

レイは足元でレイをジッと見つめていた早霜も抱き上げ、清霜の反対側の腕に抱いた

 

「…」

 

早霜はどうしても清霜の車のオモチャが欲しいようで、レイの腕の中でさえ手を伸ばす

 

「ダメだよ‼︎」

 

「そう…」

 

「ははっ‼︎なんだ早霜。車欲しいのか⁇」

 

「車欲しい。早霜も、清霜姉さんと遊びたい…」

 

「よしよし。なら買いに行こうか‼︎」

 

「私、ちょっと朝霜達見て来るわ⁇」

 

「無線預かる」

 

「ん…」

 

私が持っていた緊急用の無線をレイに渡そうとすると、早霜が手を伸ばした

 

「なら早霜にお願いするわ⁇落としちゃダメよ⁇」

 

「うん」

 

私の手から無線を取ると、早霜はアンテナを齧ったり、軽く振ったりし始めた

 

「よ〜し、行こう‼︎」

 

レイ達を見送った後、コートを羽織り、朝霜達の所へ向かう

 

 

 

「どうだ⁇美味いか⁇」

 

「これが焼き芋…とても甘くて美味しいです‼︎」

 

「チンチンに熱いが、中々イケるな‼︎あづっ‼︎」

 

工廠の中で、四人が焼き芋を食べているのが見えた

 

「おぉ‼︎お母さん‼︎」

 

「懐かしい装置ね⁇」

 

四人が焼き芋を食べていた中心には、いつの日がきそが作った”芋自動調理機”があった

 

「母さんも食うか⁇ホレ‼︎」

 

「あらっ。ありがと」

 

朝霜から焼き芋を貰い、皮ごと頂く

 

「はぇ〜…」

 

私を覗き込むかの様に、親潮が口を開けながら見つめて来る

 

「な、なぁに親潮…」

 

「いえ…朝霜様と同じ歯をしているなと…」

 

朝霜と私の歯は良く似ている

 

ギザ歯だ

 

夜ベッドの上でレイを噛むと、どんな銃弾に撃たれた時より叫ぶ

 

ストローも噛む癖があり、すぐに先端がダメになったり、歯ブラシがハの字に湾曲してすぐダメになる所も似ている

 

「磯風様はジェミニ様の若い頃の写真に良く似ています」

 

「い〜ちゃんはオトンに似てない。一切な‼︎」

 

磯風、アンタ気付いてないわね

 

普段の仕草の一つ一つ、レイにソックリよ

 

特に悩んでる時に机に人差し指をコツコツする癖

 

「ガン子ちゃんは面倒見の良さがマーカス様に良く似ています」

 

「そうか‼︎そうだろう‼︎」

 

ガングートは鼻息を出して自慢気にしている

 

焼き芋を食べながら、自慢の娘達の微笑ましい姿を見るのも何だか悪くない気もする

 

数十分後、レイ達が工廠に来た

 

「おっ‼︎いたいた‼︎」

 

「車買って貰った」

 

早霜の脇には、清霜とは色違いの青い車が挟まれている

 

レイの腕から二人が降り、床で遊び始める

 

口を尖らせて車のオモチャで遊ぶ二人は、見ていて本当に可愛い

 

「早霜はホントに大人しいなぁ」

 

朝霜も同じ事を思っていた

 

「大人しい子もいるさっ。なっ、早霜⁇」

 

「うん」

 

レイが早霜と清霜の頭を撫でる

 

「さてっ。俺は一旦帰るわ」

 

「気を付けて帰るのよ⁇」

 

「分かった。清霜、早霜。仲良くするんだぞ⁇」

 

車のオモチャに夢中になっている二人は、レイの言葉に耳を貸していない

 

そんな二人を見てレイは微笑んだ後、基地へと戻って行った…


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