艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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185話が終わりましたが、その番外編になります

自分を含め、二人実験に成功した朝霜

しかし、朝霜はもう一度だけ確証が得たい

その為に、過去にちょっとした未練がある二人が過去に飛ばされます


185.5話 あの日の約束(1)

マー君の忘れ物

 

「あ〜しゃん、あにしてんの⁇」

 

「ひとみといよちゃんは、よこしゅかしゃんとおさんぽしてうの」

 

この日、ひとみといよは横須賀に預けられ、レイは航空演習に向かっている

 

そんな二人が横須賀と共に見回りに来たのが工廠前

 

たまたま朝霜が出て来ており、二人は横須賀と手を繋いだまま、朝霜に話し掛けていた

 

「おぉ‼︎来てたんか‼︎」

 

朝霜はちゃんと膝を曲げ、二人に目線を合わせる

 

「あ〜しゃんおしごろ⁇」

 

「えいしゃんといっしょ⁇」

 

「んな所だな‼︎アタイも早くお父さんの手助け出来る様になんないと、きそ姉に顔向け出来ないかんな‼︎」

 

「朝霜、晩御飯はみんなで食べまるわよ⁇」

 

「あかった‼︎んじゃ、もうチョイ作業してくんよ‼︎」

 

「がんばえ〜‼︎」

 

「あ〜しゃんつおいお〜‼︎」

 

「ふふっ…」

 

朝霜を見送る二人を見て、横須賀の顔が綻ぶ

 

横須賀はその後二人を連れて繁華街へと向かった…

 

 

 

 

 

「あ〜ぁ、誰かも一人位試せないモンかねぇ…」

 

朝霜は工廠で少しダラけていた

 

自分と父親で装置の確証は得られたが、もう一人位は試してデータを得たい

 

一番のベストは、過去でやり残した事がある人

 

だが、日本人はシャイなのか、やり残した事があったとしても言ってくれない

 

夕張だってそう

 

明らかにやり残した事があるのに、絶対に言ってくれない

 

多分、夕張の事を知っているのは、大湊にいるボスと、お父さん位だろう

 

「おっ」

 

そんな時、表にサラとマークを見掛ける

 

あの二人ならもしかすると…

 

「おじいちゃん‼︎おばあちゃん‼︎」

 

「あらアサシモ‼︎」

 

「どうした⁇新しい艤装でも出来たか⁇」

 

「おじいちゃんとおばあちゃんは、やり残した事ってあっか⁇」

 

「やり残した事ねぇ…いっぱいあり過ぎるわね…マー君は⁇」

 

「あるっちゃあるけどな…ははは」

 

サラは多過ぎて諦めてるみたいだが、マークは様子が違う

 

「言ってくれよ」

 

「サラ、ちょっと待っててくれ」

 

「えぇ」

 

マークは朝霜を連れ、一旦工廠の中に入った

 

「あ、あんだよ…」

 

「サラの前で言い難い…実は…」

 

マークは朝霜にやり残した事を話してくれた

 

「んだよ、おじいちゃんはシャイだなぁ‼︎」

 

「サラは忘れてるみたいだが、もしやり直せるなら、そこをやり直したいな…」

 

「あぁった。アタイが一肌脱いでやんよ‼︎」

 

「あっ、あっははは‼︎朝霜がか⁉︎」

 

マークは朝霜を笑う

 

まさか自分のやり残した事を解決してくれるとは思っていないのだろう

 

「笑いやがったな⁉︎見てろよ‼︎おじいちゃんのやり残した事をやり直すにゃ、車が必要だな‼︎それもジープみたいな天井が無い奴じゃなくて、普通車だな‼︎」

 

「ふふっ…そうだ」

 

「ちょっとそこで待ってな‼︎」

 

朝霜は工廠から走って行った

 

「アサシモ行っちゃったわ⁇」

 

朝霜が工廠から出たのと入れ違いで、サラが入り口付近にもたれかかり、マークに話し掛けた

 

「ちょっと待ってやろう。孫の世話も大切だっ」

 

「ふふっ、そうねっ‼︎」

 

 

 

 

「え〜と…あったあった‼︎」

 

横須賀の一角に停めてある、隊長の車

 

今のマークに一番必要なアイテムだ

 

朝霜は覚えていた

 

横須賀に車のキーを預け、時々動かして欲しいと頼んでいた隊長の事を

 

「え〜と…鍵挿して…よっしゃ‼︎」

 

エンジンが掛かり、朝霜はそれを運転し、マークのいる場所に戻る

 

勿論朝霜は免許なんて持っていない

 

だが、ここは一応”自宅の敷地内”である為、乗ったらいけないと言う訳ではない

 

それに朝霜はいつもここで働く人のジープの運転等を見ている

 

多少の運転の仕方は頭に入っていた

 

「持って来たぞ‼︎」

 

「マー君、アサシモ本気よ⁇」

 

「何言ってんだ‼︎アタイはいつだって本気さ‼︎おじいちゃん、その日がいつか覚えてっか⁇」

 

「30年前のサラの誕生日だ」

 

「あぁった」

 

朝霜は車から降り、背中からバットを出し、言われた年月日にダイヤルを合わせる

 

「おっしゃ出来た‼︎おじいちゃんおばあちゃん‼︎車に乗んな‼︎」

 

「マー君っ‼︎」

 

「あ、あぁ」

 

サラに背中を押され、マークが運転席に座り、サラが助手席に座る

 

「乗ったか⁉︎」

 

「乗ったわ‼︎」

 

「乗ったぞ‼︎」

 

「んじゃっ‼︎帰りは迎えに行ってやん…よっ‼︎」

 

朝霜は車の後部バンパーにフルスイングのバットを当てた…

 

 

 

 

 

「うおっ⁉︎あ、アサシモ‼︎何するんだ‼︎」

 

アサシモを叱ろうとしたマークが後ろを振り返るが、そこにアサシモはいない

 

「…あら⁇マー君‼︎マー君見て‼︎」

 

「ん⁇」

 

二人の目の前には、一昔前の光景が広がっていた

 

何処か懐かしいネオン付きの看板…

 

当時は前衛的だった、俗に言うワンレンボディコンの服の女性…

 

忙しく動き回るサラリーマン…

 

全ての景気が最高潮だった時代だ

 

それに、今乗っているこの車

 

ウィリアムが昔から乗っている車だが、今では博物館モノだが、この時代では最新車

 

偶然にも、この車は行き着いた時代にフィットした

 

そして気付く

 

自分達の乗った車が、赤信号の先頭で待っているのを

 

「マー君青よ‼︎」

 

「あ、あぁ‼︎」

 

白い車が走り出す

 

その姿は水を得た魚の様で、ご機嫌にエンジンを吹いてくれた

 

「マー君‼︎ダイエィがあるわ‼︎」

 

「懐かしいな」

 

サラは助手席から、今では数が少なくなったオレンジ色の看板の大手スーパーを指差す

 

「ホントに戻って来たのね…」

 

「現実なのか…これは…」

 

「現実じゃなかったら、こんな古いラジオ流れてないわ⁇」

 

車内にはラジオが流れており、今では古いと言われる曲が、当時のヒット曲として流れている

 

《デート中のカップルに”ドライブインシアター”お知らせだぁ‼︎》

 

「マー君見て‼︎」

 

「しっ…」

 

マークはサラの口を閉ざす為に、ハンドルを握っていた片方の手を離し、サラの口元に置いた

 

《本日のドライブインシアターは…》

 

マークは各所のドライブインシアターが放映される場所を聞き、進行方向を変えた

 

「もういい⁇」

 

「あぁ。行き場所決まったからな」

 

「そっ⁇ね〜見てマー君‼︎ツーテン・カークよ‼︎懐かしいわぁ…」

 

「登りたいか⁇」

 

「ん〜んっ。マー君、予定あるみたいだし、サラ我慢しますっ‼︎」

 

とは言うサラだが、ツーテン・カークをずっと見つめている

 

内心登りたいみたいだ

 

「用事が済んだら時間がある。後で登ろう」

 

「やったっ‼︎」

 

サラと約束をした所で、車は目的地に着いた

 

着いた場所は、だだっ広いテント

 

入り口では人がおり、皆そこでお金を払っている

 

「いらっしゃいませ」

 

「んっ」

 

マークも代金を払い、テントの中に入る

 

「何かあるの⁇」

 

「まぁ見てろ」

 

キョトンとするサラを横目に、マークはラジオの周波数、そして音量を弄る

 

「よ〜し、これでいいだろ‼︎」

 

「真っ暗よ⁇」

 

「サラっ、前向いて」

 

「前⁇」

 

サラが前を向いた瞬間、暗闇では存在が分からなかったスクリーンに映画が映し出された

 

「わぁっ…」

 

その映画は、サラがずっと見たがっていた映画

 

マークはこの日、サラを誘ってここに連れて来ようとしていた

 

だが、仕事が長引いてしまい連れて来る事が出来ず、オマケにサラと喧嘩をしてしまった

 

マークはその事をずっと後悔していたのだ

 

「30年越しで悪いな」

 

「…ううん」

 

サラは涙を拭いた後、少しだけシートを倒し、映画に没頭し始めた

 

サラの横で、一仕事おマークもシートを倒す

 

だが、マークはほとんど映画を見ていない

 

マークは今しばらく、幸せそうなサラの横顔を見つめていた…

 


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