艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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長い間ストップしてしまい、申し訳ありません

色々ありましたが、ようやく落ち着いたのでまた再開します


184話 拗ねた雄鳥(3)

「では、午後20時までに返却をお願いしますね」

 

「分かった」

 

翔子を助手席に乗せ、横須賀を出た

 

たまにはドライブするのも悪くない

 

高速に乗ると、下にある街を一望出来た

 

「綺麗…」

 

翔子は髪を耳元で止めながら外を眺めている

 

後部座席に隠れている二人のスパイもつられて翔子の見ている方を見る

 

「パパさんと一緒に空を飛んでいる時と、また違った景色ですね…」

 

「たまには低空から眺めるのも良いもんさ」

 

KKTとKSTは後部座席から少しだけ顔を出し、二人を見る

 

大変仲睦まじい二人が垣間見える

 

スパイ二人は元の位置に戻り、正面を向きながら口を開いた

 

「…これはヤヴァイね」

 

「…クライアントに報告せねば」

 

そう言う二人の襟元には、榛名が舌を出したピンバッジが付けられている

 

KSTの技術により、クライアントの耳に逐一報告が行く様になっている

 

ジープは高速を外れ、サービスエリアに来た

 

追跡対象はここに来たかったみたいだ

 

スパイ二人はジープが停車する寸前で飛び降り、別の車の死角に隠れた

 

「どこ行くんだろ…」

 

「ん⁇」

 

KKTの目線の先に看板がある

 

”いちごがり

←”

 

「イチゴ=ガリ⁇」

 

「苺の食べ放題みたいな感じだよ。ほら、あの赤い果物」

 

看板には分かり易い様に苺のイラストが描かれている

 

「ストロベリーか。なるほど…」

 

「入って行ったよ」

 

スパイ二人は、追跡対象の後を追う様にいちごがりの施設に入って行った

 

 

 

「ウィリアムも拗ねるのですね」

 

「ごめんなさい…」

 

基地の食堂では、貴子さんと母さんがコーヒーを飲みながら話をしている

 

俺は子供を集めて、テレビの前で積み木で遊んでいた

 

「マーカス君、ごめんね⁇きそちゃん使う様な真似して」

 

「楽しそうに行ったからいいさ」

 

あの後、きそとアークは貴子さんから何かを言われた後、目を輝かせて意気揚々と横須賀に向かった

 

貴子さんが何を言ったのかは知らないが、余程魅力的な報酬が出るのだろう

 

「えいしゃんおしごろすう⁇」

 

積み木を積みながら、いよがそう聞いて来た

 

「んっ。今日は良いんだ。ホラッ、今日はみんなと遊ぶ日だろ⁇」

 

「きょうはすいようび‼︎」

 

たいほうの目線の先の日めくりカレンダーを見ると、今日は水曜日

 

本当に子供達と遊ぶ日だ

 

「きしょかえってくう⁇」

 

「くっこおは⁇」

 

「みんな帰って来るさ。隊長もな⁇」

 

「マーカス君が凄いマトモに見えて来た…」

 

「マーカスも拗ねる時はあるわ。ねっ⁇マーカス⁇」

 

「えいしゃんすねう⁇」

 

「うわ〜んいう⁇」

 

「すてぃんぐれいすねるの⁇」

 

「うっ…」

 

子供達の視線が痛い…

 

隊長…早く帰って来てくれ‼︎

 

 

 

 

「パパさん、はいっ‼︎」

 

「んっ‼︎」

 

追跡対象は翔子さんに苺を食べさせて貰っている

 

「き…KST」

 

「なぁに⁇」

 

「さっきからやってるあの行為はなんだ⁇」

 

「あ〜んって奴⁇」

 

「そうだ」

 

二人は手に練乳を入れた容器を持ち、苺を頬張りながら追跡対象の様子を伺っていた

 

「好きな人に食べさせて貰うのって、嬉しくなるんだ」

 

「アー…KKTも、もう一回ビビリにしたら喜ぶか⁇」

 

「喜ぶと思…もう一回⁇」

 

「ビビリには昔離乳食を食べさせていた」

 

「はぇ〜…」

 

「ビビリは良く食べる子で、スプーンまで齧っていたな…」

 

「KKTって…結構年寄り⁇」

 

「なっ‼︎ビビリより多少は年上なだけだ‼︎」

 

「ん⁇」

 

「ヤバッ‼︎」

 

苺を頬張った追跡対象が背後を振り返った‼︎

 

KSTは急いでKKTの頭を抑えて、苺のなる木に身を隠した

 

「すまん…」

 

「ビックリしたぁ…」

 

追跡対象は再び翔子さんの方を向き、話しながら苺を頬張り直した

 

 

 

 

苺狩りを終えた後、施設の横にある動物のふれあいコーナーに来た

 

「あらっ、可愛い‼︎」

 

翔子は一匹の小動物の前に屈み、頭を撫でた

 

「ウサギさんで合ってますか⁇」

 

「そっ。ウサギさんだっ」

 

私も翔子の横で膝を曲げる

 

翔子とこうしてじっくりデートするのは初めてかも知れない

 

翔子は翔子で、私の機体…クイーンのAIとして、そして女優として忙しい生活を送っている

 

こうした息抜きも必要なのかも知れないな…

 

「うわぁ〜ん‼︎助けてぇ〜っ‼︎」

 

「何でこっちに来るんだーっ‼︎」

 

「ふっ…」

 

私達がいる小動物のコーナーの反対側で、柵の向こうに入って、まぁまぁ巨大なアルパカに追い掛けられている見覚えのある二人を見て笑みが零れる

 

私が気付かないとでも思っていたのだろうか⁇

 

伊勢に居た時からずっと着けて来ているのは知っている

 

ジープに乗った時も、私はバックミラーで二人がちゃんとシートベルトを締めているのを確認してからジープを出した

 

「うっ‼︎」

 

なんて事を考えていると、いきなり数回のフラッシュが焚かれた

 

「へへっ…」

 

カメラを構えていたのは、どっかの記者の様だ

 

一般市民に紛れ込み過ぎて分からなかった

 

私も落ちたな…

 

「パパさん、この人、週間文秀の記者さんです。しつこく付きまとって来てて…」

 

「パパラッチか…」

 

翔子は女優だ

 

スキャンダルで強請ってくる輩も少なからずいるだろう

 

「いい写真貰いましたわ‼︎女優、景浦翔子のお相手は年輩の男性‼︎」

 

週間文秀の記者はそそくさとその場を去って行った

 

「パパさん‼︎追わないで下さい。あぁ言う人は放って置く様にと言われてます」

 

「いいのか⁇」

 

「えぇ。それよりあっちに行きましょう‼︎」

 

翔子はパパラッチを気にせず、私の腕に自身の腕を絡ませた後、アルパカコーナーに向かった


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