艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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17話 黒い少女と青いカモメ(2)

「ははは…」

 

「それで…要件を話そうか」

 

今まで相槌程度に老人と会話していた横須賀君の目が変わった

 

「艦隊の異動の件についてです。こちらからは、研修に戦艦長門を。贈与に伊401を」

 

「では、こちらからは…リットリオ‼︎」

 

「はい」

 

オレンジ色の髪の毛で、左側にロールがある女の子が部屋に来た

 

この子は…

 

「戦艦リットリオ。我が国で造られた戦艦だ。この子を研修に」

 

「リットリオ…」

 

「後一人居るのだが、いかんせん戦いが嫌いでなぁ…何処にいるのかは検討もつかん」

 

「探して連れて行け、って事ですかね⁇」

 

「…すまぬ」

 

「ははは。畏まりました。数日間はこの国に居ますので、その間に探します」

 

「手間をかけるな…」

 

「…」

 

「大佐。行きましょう」

 

「宜しく頼むぞ」

 

結局、葉巻を吸っただけで出て来た

 

「ご飯にしましょう」

 

ちょっとキレ気味の横須賀君と共に、オープンカフェに着いた

 

「このパスタを二つ」

 

「まぁそう怒るな」

 

「怒ってませんよ。あのリットリオって娘、見覚えあったでしょう⁉︎」

 

「…」

 

「彼女は軍の看護婦だったはずです…」

 

「時代が変わったんだよ…」

 

「これを食べたら、私は少しこの街の鎮守府に挨拶に行きます。大佐はどうされますか⁇」

 

「その辺ブラブラしてるよ」

 

横須賀君は無言でパスタを食べ続け、代金を払って鎮守府に向かった

 

相当怒ってるみたいだ…

 

さて、どこに向かおうか

 

あぁ、前回は行けなかった”あそこ”に行こうか

 

あそこと言うのは、街の中心にある巨大な資料館

 

そこは資料館の傍らで、美術展をしている時もあると聞いた

 

しかし、いざ着いてみると何をすればいいか分からない

 

「あっ…」

 

館内に眩しい光が射し込む

 

見上げると、ステンドグラスに穴が開いていた

 

「先の戦争で、戦闘機の流れ弾が当たった後です」

 

「君は⁇」

 

顔を下げると、眼鏡をかけたボブの女の子がいた

 

「この資料館の司書です」

 

「そっか…来たはいいが、何をすればいいか分からない。君のオススメは⁇」

 

「…」

 

彼女は眼鏡を掛け直し、私の顔をまじまじと見ていた

 

「どうした⁇」

 

「いえ…もう少ししたら仕事が終わりますので、私で良ければ案内します」

 

「いいのか⁇」

 

「えぇ。それまでそこの歴史コーナーにいて下さい」

 

彼女が去り、歴史コーナーに取り残された

 

そのコーナーには大昔の絵画が並び、新しくなるにつれ写真へと変わって行く

 

そして、最後辺りの数枚の写真に目が行った

 

「懐かしい…」

 

写真に手を触れ、数回なぞる

 

…昔の私の写真だ

 

この頃は良かった

 

戦場に赴くほど、戦果を挙げていた全盛期だ

 

「美しい機体…この写真は、この国を救ってくれた部隊”ブラック・アリス”の隊長さんと、その機体、Su-37…」

 

「ブラック・アリス…か。そんな名の時期もあったな…」

 

「ご存知で⁇」

 

「まぁな。世話になった連中がいるんだ」

 

「…」

 

彼女は不思議そうな顔をしていた

 

何せこのブラック・アリス隊、写真はあるものの、殆ど世に公開されていない

 

隊長は愚か、部下の名前さえ明らかになっていない

 

まして、世界を渡り歩く傭兵

 

攻撃が済めば、潔くその地を去ってしまう

 

だが、彼女は知っていた

 

「行きましょ」

 

彼女と共に外に出ると、自転車が置いてあった

 

「…今日は押して帰ります」

 

「いや、漕ごう。久し振りにここの坂を下りたくなった」

 

「ん」

 

彼女を後ろに乗せ、坂を下る

 

「久し振りです。誰かに自転車を漕いで貰うの…」

 

「前にもあるのか⁇」

 

「えぇ…生きていれば、貴方位の歳じゃないかしら⁇」


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