艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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182話 ちゅるちゅるアークちゃん(2)

横須賀に着くと、アークは真っ先に高速艇から降りた

 

「早くしろビビリ‼︎」

 

「あぁったあぁった‼︎イカさん、ありがとう」

 

「いつでもお呼び下さい」

 

イカさんに礼を言った後、アークの所に走る

 

「ウドンはどこで食べられるのだ⁉︎」

 

「…あったかな」

 

横須賀に来たは良いが、そう言えばうどんの店は見た事ない

 

「はぁ〜⁉︎ここまで来てないだと⁉︎アークはウドンを食べに来たんだ‼︎」

 

「まぁ待て。ちょっと考えさせてくれ…」

 

「あらマー君‼︎」

 

向こうからサラが来た

 

サラは俺を見るなり腕にしがみ付き、胸を押し当てる

 

「一人か⁇」

 

「そうなの。聞いて‼︎マー君ったら研究研究でぜ〜んぜんサラの相手してくれないの。マー君の子供とは大違い‼︎」

 

「この方は⁇」

 

人前ではアークは大人しく礼儀正しい

 

「あぁ。サラトガさんだ。俺の妻のお母さんだ」

 

「ハロー‼︎サラトガです‼︎」

 

「サラ=トガー…か。私はアークロイヤル。マーカスの護衛だ」

 

しかもちゃんとマーカスと呼んでくれている

 

「あらっ‼︎マー君、こんな別嬪さんが護衛なの⁇」

 

「まぁな」

 

「そうだサラ=トガー。この辺りでウドンを食べられる場所はないか⁇」

 

「ウドンねぇ…あっ‼︎ズイズイズッコロバシはどう⁉︎」

 

「なるほど…あそこなら出るな‼︎」

 

「ズィーズィーズッコロバシ⁇」

 

「行きゃあ分かる。サラ、ありがとうな⁇」

 

「ふふっ、いつでもっ‼︎」

 

サラと別れ、ずいずいずっころばしに向かう

 

「サラ=トガーはビビリの事が好きなのか⁇」

 

「そりゃあないな。サラには旦那がいる」

 

「旦那がいるのにあんなにビビリにくっ付くのか⁉︎」

 

「事情があったんだ。長い間、旦那と離れ離れになってたんだ。俺はその代わりみたいなモンさ」

 

「サラ=トガーがあぁしていたなら、アークがしても問題はないな‼︎」

 

そう言うとアークはすぐに腕を絡ませて来た

 

「今日のビビリはアークのモノだ‼︎」

 

アークはずいずいずっころばしに着くまで痛い位に腕を絡ませていた

 

どうしてアークがここまでするのか、この時の俺は知る由もなかった…

 

 

 

 

「いらっしゃ…浮気ですか⁇」

 

ずいずいずっころばしに入って早々、くっ付いていたアークを見て浮気と疑われた

 

だが、瑞鶴は人の事は言えない

 

「そんな所だ。うどんあるか⁇」

 

「うどんね‼︎葛城‼︎うどん二丁‼︎」

 

「うどんにちょーーーーー‼︎」

 

瑞鶴のいるカウンターの後ろで、何やら女の子が小麦粉を打っている

 

「新入りか⁇」

 

「そっ。今までパックのおうどんだったんだけど、あの子が来てから手打ちになったの。あぁ、値段は変わらないから心配しないで‼︎」

 

「これはなんだ⁇」

 

アークの前には、レーンに乗ったお寿司が回っている

 

「これはお寿司。ちょっと食べてみるか⁇」

 

「オスシー…」

 

「何食べたい⁇あたしが握ったげる‼︎」

 

「では、このサラダロールを…」

 

「オッケー‼︎」

 

「あぁ、えと…」

 

アークは瑞鶴の名を言おうとしたが、まだ名前を聞いていない為、どう呼んで良いか分からないでいた

 

「瑞鶴だ」

 

「ず、ズィーカク。アークはこの流れてる所から取ってみたい」

 

「オッケー。手前から流すわね」

 

瑞鶴はサラダロールを作った後、アークの少し前からそれを流した

 

「き、来た‼︎お、おいマーカス‼︎どうしたら良い‼︎オスシーを取れば良いのか⁉︎」

 

言った割には俺の肩を叩いてどうすれば良いかテンパる

 

「こうやってお皿を取るんだ」

 

「おサラ…」

 

アークはサラダロールの乗ったお皿を取り、手元に置いた

 

「食べて良いのか⁉︎」

 

「いただきますしてからな⁇」

 

「いただきます…」

 

アークは生唾を飲んだ後、サラダロールを一つ手で掴み、口へ運んだ

 

「美味い‼︎」

 

「ふふっ‼︎良かった‼︎」

 

「オスシーは美味いのだな‼︎」

 

「マーカスさんはどうする⁇クマノミの軍艦にする⁇」

 

「クマノミ…」

 

「醤油を垂らして食べると美味しいよ⁇違うのならプレコのたたきもあるよ⁇」

 

「プレコ…」

 

瑞鶴は何故か俺やアレンが来ると熱帯魚の寿司を勧めて来る

 

「安全は保障するわ⁇急速冷凍したりして、品質良いのを使ってるから‼︎」

 

と、親指を立てる瑞鶴

 

「瑞鶴さん‼︎うどん出来ました‼︎」

 

「ありがとう」

 

葛城と呼ばれた女の子が俺とアークの前にうどんを置いた

 

「おぉ‼︎これがウドン‼︎」

 

「瑞鶴」

 

「はいはい」

 

「いなりを頼む」

 

「オッケー‼︎」

 

瑞鶴がいなりを握る前で、アークは念願のうどんを夢中で啜っている

 

「ウドン美味い‼︎」

 

アークはズルズルちゅるちゅる音を立て、本当に幸せそうにうどんを食べている

 

「良かったな。うどん食べれて」

 

「うんっ‼︎」

 

それだけ美味そうに食われりゃ、うどんも幸せだろう

 

アークを横目に、俺もうどんを食べる事にする

 

「美味いな」

 

「ふふっ。気に入ったらまた頼んであげて⁇」

 

「分かった。ここに代金置いとくからな⁇」

 

「ありがとう‼︎また来てね‼︎」

 

いつも通り座っていた席のテーブルに代金を置き、ずいずいずっころばしを出て来た

 

「ビ…マーカス‼︎またこのズィーズィーズッコロバシに来よう‼︎アーク気に入った‼︎」

 

「その前にお口フキフキだ」

 

「んっ」

 

アークの口周りはネギやら天かすがいっぱい付いている

 

ハンカチを取り出し、ドロドロになったアークの口周りを拭く

 

「お前はホンット母さんに似てるな⁇」

 

「姫にか⁇」

 

「母さんも食い方汚いんだ」

 

「…確かに。姫はソース類を出されると、食べる度に汚れて行く。何故だ⁇」

 

「母さんもお前も、ちょっと子供だって事だ」

 

「…ありがとう」

 

ハンカチを仕舞うと、アークはまた自然に腕を絡ませて来た

 

「次は何処行く⁇」

 

「ビビリ。あれはなんだ⁇」

 

アークの目線の先には、久々に見る摩耶の出店があった

 

「よっ‼︎」

 

「レイか‼︎何か買ってくか⁉︎」

 

相変わらず摩耶の出店は特徴的な物が多い

 

「おっ」

 

一つの商品に目が行き、それを手に取る

 

「オママゴトセット…マーカス。気は確かか⁇」

 

「違わい‼︎」

 

「マーカスはしないのか⁇」

 

「しない‼︎」

 

「それは潰れたオモチャ屋から買い取ったモンだ。100円で良いぜ⁇」

 

裏の値札を見ると、薄っすらと店名が書いてあった

 

”ハッピーマック”

 

10年程前に日本各所で見た気がする…

 

「よし、買った‼︎」

 

摩耶に100円玉を渡す

 

「毎度あり‼︎」

 

摩耶からおままごとセットを買い、手に持って歩く

 

「100円の割には沢山入ってるな⁇」

 

「お買い得だったぜ‼︎」

 

「…ビビリ。その右下の野菜は何て名前だ⁇」

 

おままごとセットの右下には、キノコみたいなオモチャがある

 

これ位俺でも分かる

 

「マッシュ”ムール”だろ⁇」

 

「…は⁇」

 

「マッシュ”ムール”だろ⁉︎」

 

俺の答えを聞いて、アークは爆笑し始めた

 

「ははははは‼︎まだ”てぃーほう”の方が分かっているな‼︎」

 

「ぐっ…マッシュムールじゃないのか⁉︎」

 

「ひぃ〜‼︎ひぃ〜‼︎び、ビビリ、それはマッシュルームだ‼︎」

 

アークの爆笑は止まない

 

遂には腹を抱えて笑い始めた

 

「あぁ‼︎そうかそうか‼︎マッシュルームか‼︎」

 

「レイさんなのです‼︎」

 

「こんにちは‼︎」

 

タイミング良く雷電姉妹が来た

 

「お前ら‼︎これは何だ‼︎」

 

そう言って、マッシュルームなる物を指差す

 

「松茸なのです‼︎」

 

「松茸ね‼︎」

 

「はははは‼︎…は⁇」

 

「全然違うじゃねぇか‼︎」

 

「マッシュルームだろ⁉︎アークに間違いはない‼︎」

 

「松茸なのです」

 

「松茸ね」

 

「ふぅ…」

 

アークは二人の前で膝を曲げ、首を傾げてニコッと微笑んだ

 

「…拗ねるぞ⁇」

 

アークの一言で雷電姉妹の額から冷や汗が流れる

 

「マッシュルームなのです‼︎」

 

「よく見たらマッシュルームね‼︎」

 

「はっはっは‼︎ほら見ろ‼︎やはりマッシュルームだ‼︎アークは正しい‼︎」

 

「そ、そうだな…」

 

ダメだ、今日はアークのペースに飲まれてる…

 

アークは自分が正しいと思い込んでおり、それを意地でも押し通す

 

…それが良さでもあるんだがな




ハッピーマック…子供達の夢の城

一昔前に日本各所に存在していたオモチャ屋さん

大型スーパーにお客を取られたのと、時代の波に抗えず、少しずつ閉店して行った

現在はコンビニ等に姿を変えるが、それでも子供達を見護り続ける仕事を忘れられず、未だ存在感があり過ぎる場所がチラホラ

横須賀にいる千代田が関わっていたらしい



作者からのメッセージ

勘の良い方はお気付きでしょう。あの全国チェーンのあのオモチャ屋です

どうか、忘れないで下さい

作者はこのオモチャ屋に沢山の思い出を置いて来ました

それは二度と取り戻す事が出来ません

なので、こうしてオマージュした名前だけでもここに残して置く事にしました

読者の方々、そして私自身の為にも

何となく、忘れてはいけない記憶の気がするのです



P.S
リクエストが多ければ、このオモチャ屋のお話を書くかも知れません

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