艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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180話 涙の銃弾(3)

「蒼龍の執行よりはマシでしょう⁇」

 

「い、いや…まぁ…」

 

「蒼龍は楽には逝かせてくれませんからね」

 

蒼龍の執行は確かに怖い

 

生きたまま各部位を喰い荒らされ、意識のあるまま自分が死に行く姿を確認しなければならない

 

「当初は罪人とは言え、断末魔は耐えられませんでしたが、毎晩蒼龍の執行を見て慣れました」

 

「はは…」

 

トラックさんは頭を抑えている

 

「それよりレイ。これを」

 

トラックさんは俺にタオルを渡してくれた

 

「今のレイの顔を見たら、ひとみちゃんやいよちゃんが怖がりますよっ」

 

「すまん」

 

タオルで顔を拭くと、ベッタリと血が付いていた

 

こんなになるまで気付かんのか、俺は…

 

「そうだ‼︎食欲はありますか⁇」

 

「多少はな」

 

「シュークリーム、食べませんか⁇」

 

「食欲湧いてきた‼︎」

 

トラックさんがシュークリームを食べさせてくれると聞いた瞬間、腹まで鳴る始末

 

早速食堂に移り、トラックさんにシュークリームを出して貰う

 

「駆逐の子にも食べて貰いましたが、レイの意見も欲しくてね」

 

「頂きます‼︎」

 

早速シュークリームを食べる

 

皮は分厚く、中は濃厚なクリームとカスタードがギッシリ詰められており、しつこく無い甘さでとても美味しい

 

「どうですか⁇」

 

トラックさんは生唾を飲む

 

「美味い‼︎カスタードもクリームも最高だ‼︎」

 

「たいほうちゃんや照月ちゃんに出しても大丈夫ですか⁇」

 

「勿論‼︎トラックさんが良いなら是非食べさせてやってくれ‼︎」

 

「ふぅ…安心しました‼︎」

 

互いに笑い、ようやく事が落ち着く…

 

 

 

 

「お気をつけてお帰り下さい」

 

「蒼龍と江風に礼を言っておいてくれ。江風に至っては何も受け取らなかったんだ」

 

「畏まりました‼︎」

 

トラックさんに別れを告げ、タナトスの防水扉を閉めた

 

「や〜っと綺麗になったでち‼︎」

 

先程の部屋に戻ると、見違える様に綺麗になっていた

 

「ゴーヤ」

 

「帰って来たでちか」

 

「その…悪かったな」

 

「これからは前もって言って欲しいでち」

 

「分かったよ」

 

「こらボーちゃん‼︎肉を食うんじゃね〜でち‼︎」

 

ボーちゃんは残った肉片を食べ、ゴーヤはそれを叱っている

 

「さっ。お家に帰るでち‼︎」

 

ゴーヤの一声で、タナトスがトラックから出航する…

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい‼︎」

 

「よくやったな‼︎」

 

基地に帰ると、貴子さんと隊長が迎えてくれた

 

「腹ペコペコだぁ…」

 

「もうすぐご飯出来るからね‼︎」

 

隊長の前に座り、調査結果を書き留めた書類を出した

 

「誘拐、暴行…その他諸々。救いようの無い結果だったよ」

 

「すまんな…お前に汚れ役ばかり任せて…」

 

「気にしないでくれ。一応、今回の一件で好戦派は一掃出来た」

 

「勲章モンだぞ⁇」

 

「勲章よか、俺は焼きそばの方が良いね」

 

「お待ちどうさま‼︎」

 

「おっ‼︎頂きます‼︎」

 

貴子さんが持って来た山盛りの焼きそばを早速頂く

 

隊長が書類を脇に挟み、窓を開けてタバコを吸い始めた

 

「えいしゃんおかえい‼︎」

 

「たえたらおふおいこ‼︎」

 

ひとみといよが足元に来た

 

「んっ‼︎分かった‼︎まつわはどうした⁇んっ⁇」

 

反対側の足がつつかれる

 

振り返るとボーちゃんを抱いたまつわがいた

 

《まつわもお風呂入る》

 

「俺と一緒で良いか⁇」

 

《うんっ‼︎》

 

焼きそばを食べ終えた後、たいほうも入れた五人で風呂に入る事にした

 

 

 

 

「えいしゃんきもち〜⁇」

 

「気持ちいいぞ〜」

 

ひとみといよに背中を流して貰い

 

《頭ゴシゴ〜シ》

 

「まつわもボーちゃんも気持ちいいぞ〜」

 

まつわとボーちゃんに頭を洗って貰い

 

「おゆかけるよ‼︎」

 

「来い‼︎」

 

たいほうにこれでもかとお湯をかけられる

 

正に至れり尽くせり

 

湯船に入ると、まつわはボーちゃんに掴まり、ひとみといよと共に軽く泳ぎ始めた

 

「すてぃんぐれい、きょういそがしかった⁇」

 

「そうだなぁ…ちょっと疲れたな。ごめんな、中々遊んでやれなくて」

 

久しぶりにたいほうを抱っこしながら湯船に入る

 

「たいほうおともだちいっぱいできたからだいじょうぶ‼︎」

 

「そっか…」

 

たいほうも随分と成長した気がする…

 

嬉しい反面、少し寂しいな…

 

「でも、たまにはたいほうとあそんでね⁇」

 

「勿論‼︎」

 

たいほうはやはり無邪気だ

 

そんなたいほうを見て、ほんの少し安心した…

 

 

 

風呂から上がり、子供達が寝静まる

 

俺は食堂に残り、ソファに座ってボーっとテレビを見ていた

 

「マーカス」

 

「なんだ⁇寝付けないのか⁇」

 

母さんが来た

 

「ビビリは寝ないの⁇」

 

母さんの車椅子を引いたアークも来た

 

「たまには夜更かしもしたくなるお年頃なんです〜」

 

「調査結果の書類を見たわ」

 

母さんの一言で身が凍りつく思いになった

 

「その、何だ。ありがとな⁇俺を護ってくれてよ」

 

「気にしないで下さい。姫のご子息を御守りするのは、私の役目です」

 

アークの口調が一気に丁寧なものに変わる

 

あの研究員が誘拐したのはもう一人いた

 

…アークだ

 

アークと俺には、切っても切れない縁があった…


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