艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、178話が終わりました

あまぎりさぎり、そして口うるさいアークも加わり、また一段と騒がしくなった基地

今回のお話は、そんな基地にもう一人追加されます


179話 一番最初のお友達(1)

あまぎりとさぎりが基地に来て数日後…

 

「ぶいんぶい〜ん‼︎」

 

「うわ〜‼︎やられた〜‼︎きんきゅうだっしゅつだ〜‼︎」

 

テレビの前で、アークとたいほうがオモチャで遊んでいる

 

「あ〜くなにもってうの⁇」

 

「ひとみもしいたい‼︎」

 

ひとみといよがアークの手元を不思議そうに見ている

 

「ビビリから貰った戦闘機‼︎」

 

「いよはくうま‼︎あんぶうび〜いくお‼︎」

 

「いかしてあおかない‼︎へんち〜ん‼︎」

 

いよの手には黄色い車

 

ひとみの手には銀の車のミニカーが握られている

 

「たいほいはれっぷう‼︎ばばばば‼︎」

 

「うわ〜‼︎あんぶうび〜‼︎ろか〜ん‼︎」

 

四人は実に楽しそうに遊んでいる

 

俺は今しばらく四人を見た後、工廠に入った

 

「アークはどうだった⁇」

 

「相変わらずさっ。どうせその内飽きたらここに来るだろ」

 

「それもそうだね‼︎」

 

白衣を羽織り、きそと共に最後のカプセルの前に立つ

 

「出て来るよ‼︎」

 

ようやくカプセルから最後の一人が出て来た

 

べチャッと音を立て、地べたに落ちた少女は声を出さずに泣き始めた

 

「よ〜しよし‼︎痛かったな‼︎」

 

声を出さずに泣く少女の前で膝を曲げ、頭を撫でる

 

出て来た少女は本当に小さかった

 

この基地で一番小さいのは勿論ひとみといよ

 

そして次はたいほう

 

出て来たこの子は、ひとみといよよりは大きいが、たいほうよりは小さかった

 

「僕はきそ‼︎」

 

「俺はマーカス・スティングレイだ‼︎」

 

「…」

 

少女は口を縦に開け、しゃくり上げながら俺達の顔をしばらく見た後、俺の所に寄りギュッと抱き着いて来た

 

「大丈夫。大丈夫さっ」

 

好戦派の連中はこんな子まで利用していたのか…

 

抱っこを始めてから、少女は一切俺から離れようとしない

 

怯えきって話にならない

 

しかも声帯に異常がある為、意思の疎通も中々難しい

 

「よしっ‼︎みんなの所にご挨拶に行こう‼︎」

 

そう言った途端、少女は俺に力強くしがみ付いた

 

「お友達もいっぱいいるぞ⁇オモチャだってある」

 

「…」

 

余程酷い扱いを受けていたのだろう

 

俺の胸に置いた手に物凄い力を入れている

 

「俺にくっ付いてたら行けるか⁇」

 

そう言うと、渋々だが首を縦に振ってくれた

 

「よしっ‼︎じゃあみんなの所に行ってみよ〜‼︎」

 

きそを先頭に置き、食堂に戻る

 

「パパ‼︎最後の子が出て来たよ‼︎」

 

「おっ⁉︎どれどれ‼︎」

 

「この人はパパ。みんなのお父さんなんだよ‼︎」

 

きその紹介を受けた後に隊長が近寄ると、少女は更に俺にしがみ付く

 

「おっと」

 

隊長は察してくれた様で、伸ばした手を引いてくれた

 

「物凄いレイに懐いてるな⁇」

 

「何か事情があるみたいなんだ…」

 

「あらっ‼︎可愛らしい子ね⁇」

 

台所から貴子さんが顔を見せた

 

少女は貴子さんの声に反応を示した

 

「抱っこしても大丈夫かしら…」

 

「この人は貴子さん。みんなのお母さんなんだよ‼︎」

 

少女は貴子さんをチラ見する

 

「おいでっ‼︎」

 

恐る恐るだが、少女は貴子さんに手を伸ばす

 

「よいしょ〜‼︎」

 

貴子さんが少女を抱っこする

 

少女は口を縦に開け、貴子さんの顔を不思議そうに見つめている

 

「貴子さん…その…」

 

「何と無く分かってるわ⁇いいのよ、お話出来なくても。み〜んな一緒よ⁇」

 

貴子さんの包容力に救われた…

 

「その子だぁれ⁉︎」

 

たいほう達と遊んでいたアークが、一旦手を休めてこっちに来た

 

「名前はまだ無いんだ。ビビらせたりしないでくれよ⁇」

 

「ビビリと一緒の扱いはしないわ⁇」

 

「ぐっ…」

 

アークは”そんな分かりきった事、なんで言うの⁇”とでも言いたそうな顔を見せて来た

 

「しっかしあれだなぁ。名前が無いと不便だな…」

 

何気無しにそう言うと、少女は持っていた小さな鞄から何かを取り出し、俺に渡してくれた

 

「まつわ…」

 

少女が渡してくれたのは、平仮名で書かれた名札

 

それも、小学生が付けるようなデザイン皆無の名札では無く、縁がチューリップの名札だ

 

「よろしくな、まつわ」

 

貴子さんに抱かれたまつわの頭を撫でると、口を縦に開けて、不思議そうに俺を見た

 

「ちょっとだけ工廠に戻る。まつわを頼みます」

 

「分かったわ。さっ、お菓子食べよっか‼︎」

 

貴子さんは、まつわを抱きながら台所へと向かう

 

まつわは貴子さんの肩から顔を半分出し、俺ときそを見つめていた…


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