艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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178話 涙の誓い(2)

「何かお礼がしたい」

 

「あの、私、遠征が出来ます‼︎」

 

「そんなの気にしなくていい。今まで良く頑張ったな…」

 

「ここはゆっくり休む所だ。何も気にしなくて大丈夫さっ」

 

「しかし…」

 

メガネの子が渋る

 

どうやら義侠は大切にする子の様だ

 

「その内慣れるさっ」

 

「照月、お散歩して来る‼︎」

 

「照月、二人を連れて行ってくれないか⁇」

 

「うんっ‼︎一緒に行こう‼︎」

 

「い、行って来ます」

 

「行って参ります」

 

「気を付けてな⁇」

 

照月は二人の手を引き、そのままお散歩に出掛けて行った

 

「心配は無さそうだなっ⁇」

 

「だと良いんだけどなぁ…」

 

隊長の言葉を聞き、後頭部を掻く

 

「ビビリ‼︎口拭いて‼︎」

 

一難去ってまた一難

 

今度はカレーでドロドロになったアークの口を拭く

 

「あ〜もぅ、分かった分かった‼︎」

 

アークの口を拭いていると、服の裾を引っ張られる

 

「マーカス⁇」

 

「…分かったよ」

 

今度は母さんの口も拭く

 

この二人、チョット似ている…

 

 

 

 

 

「これはお兄ちゃんの仕事場‼︎」

 

「なるほど…あの男は工兵なのか」

 

照月は二人に基地の案内をしていた

 

「お兄ちゃんは”こうへい”じゃないよ⁇マーカス・スティングレイって名前‼︎」

 

「ははは、面白い奴だな」

 

「次はここ‼︎」

 

次は戦闘機の格納庫を案内する

 

「これがパパさんの飛行機で、これがお兄ちゃんの飛行機で、最後はグラーフさんの飛行機‼︎」

 

「あ…」

 

「ひっ…」

 

二人共、グリフォンを見た瞬間震え始めた

 

「どうしたの⁇飛行機怖い⁇」

 

「この航空機…」

 

「き、綺麗な飛行機ですね⁇」

 

「うんっ‼︎お兄ちゃんは凄いんだよ⁉︎飛行機も運転出来るし、潜水艦だって造るんだよぉ⁉︎」

 

照月は俺の事を一生懸命説明しようとするが、それが逆目に出てしまう

 

「これがお兄ちゃんの潜水艦‼︎」

 

港に停泊しているタナトスの所に来た時、メガネの子が歯を食い縛った

 

「アイツが…‼︎」

 

「どこ行くの⁉︎」

 

「ま、待って‼︎」

 

二人の制止を振り切り、メガネの子は工廠に向かった後、一人食堂に戻って来た

 

 

 

 

 

子供達が部屋に行き、食堂に残っているのは俺と隊長、そして後片付けをしているはまかぜと貴子さんが台所にいる

 

俺と隊長は子供が居ない間にタバコを吸いながら雑誌を見ていた

 

「撃つなら撃て」

 

物音一つ立てず、いつの間にかこめかみに駆逐艦の主砲が当てられていた

 

誰が向けているかは大体分かる

 

俺は当てられた主砲に見向きもせず、雑誌のページをめくる

 

「お前が仲間を殺したのか‼︎」

 

「そうだ」

 

主砲を当てているのはメガネの子

 

メガネの子は涙声で俺に問い掛ける

 

「お前の所為で…お前の所為で私達の仲間は…お前もあの時いたな‼︎」

 

メガネの子は隊長にも主砲を向ける

 

「それしか方法はなかった」

 

隊長も至って冷静であり、雑誌のページをめくる

 

台所にいたはまかぜと貴子さんも至って冷静であり、全く口出ししない

 

「その命で償って貰う‼︎」

 

主砲を更に押し付けられた時、俺は椅子から立ち上がった

 

「ひっ…」

 

「心臓はここだ」

 

メガネの子が持っている主砲を、あえて心臓の方に向ける

 

「くっ…」

 

「憎いんだろ⁇なら絶好のチャンスだ」

 

「うぅ…」

 

メガネの子は引き金を引くのを躊躇った

 

「ほら…撃てぇ‼︎」

 

「ひっ‼︎」

 

メガネの子が威圧に負け、主砲を放つ

 

「甘いな」

 

「え…」

 

俺は手で砲弾を止めていた

 

「何…で…」

 

「何でって…それの弾、マシュマロだしな⁇」

 

「え⁇」

 

涙でドロドロになった顔のメガネの子から主砲を取り、外に向ける

 

「行くぞ照月‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

照月のいる少し上に向かって主砲を放つと、シュポンと情けない音を出しながらマシュマロが宙を舞う

 

「おいひ〜‼︎ありがと〜‼︎」

 

照月は発射されたマシュマロを口でキャッチし、そのまま何処かに行った

 

「俺がその辺に艤装置いてあるかと思ったか⁇」

 

「チクショウ…チクショウチクショウチクショウ‼︎ゴメンよみんな‼︎」

 

「え〜、泣かしたの〜⁇」

 

タイミング悪くアークが来た

 

「女の子泣かしたらダメなんだよ‼︎」

 

「アークも俺が憎いか」

 

「全然‼︎ビビリをビビらせる方が楽しいもんっ‼︎」

 

「アー…ク⁇」

 

メガネの子がアークの方を向く

 

「女の子泣かすのもダメだけど、人に砲を向けるのはもっとダメよ⁇」

 

「アーク…旗艦のアーク・ロイヤルさんなのか⁇」

 

「そう‼︎如何にも私がアーク・ロイヤル‼︎」

 

アークは舌を出しながらウインクをし、親指を立てた

 

「何故ここ所にいるのです‼︎」

 

「何故って…助けて貰ったし、まとも…いや、それ以上に生活を送れるから⁇」

 

「此奴等は私達の味方を‼︎」

 

「黙りなさい」

 

アークの顔が一瞬で変わる

 

いつもふざけている事が多いアークだが、今は第一印象と同じ、気品に溢れた態度をしている

 

「救われたのが分からないの⁇」

 

「あ…」

 

「彼等は邪の道を行こうとしていた私達を阻止して下さった上、救助まで行ってくれたの」

 

「そうなのか⁇」

 

「言葉に気を付けなさい」

 

「そ…そうなのですか⁇」

 

「まぁなっ」

 

「敵だった私達を救おうとした上、全部を救えなかった事を後悔までしている。そんな彼等を撃つならば…今度は私が貴方を撃ちます。良いですね⁇」

 

「は、はい」

 

「じゃっ、お話お〜わりっ‼︎ビビリ⁇感謝なさいよ⁉︎」

 

アークはスキップしながら部屋に続くドアへと移動する

 

「ありがとうな」

 

「バーカ‼︎」

 

アークは舌を見せた後、自室に戻って行った

 

「ははは‼︎随分気に入られてるな⁉︎」

 

「弱味を握られてるの間違いだ‼︎」

 

「も…申し訳ありませんでした‼︎」

 

メガネの子はその場で土下座をする

 

「頭挙げろ。謝るのはこっちの方だ。全員は救ってやれなかった…」

 

「充分です…心を入れ替えます…」

 

「ん…」

 

メガネの子をキツく抱き締めると、更に泣き始めた

 

「良く頑張ったな…」

 

「うっ…ひっぐっ…」

 

「レイ‼︎出来たよ‼︎」

 

「ホラッ」

 

メガネの子の背中を軽く叩き、ドッグタグを持って来たきその方に向かせる

 

「これは⁇」

 

「君の名前だよ‼︎」

 

ドッグタグには”Amagiri”と彫られている

 

「あまぎり…」

 

「あっちの子は”さぎり”‼︎我ながら最っ高の名前だね‼︎」

 

きそは毎回段々とそれっぽく見えてくる絶妙な名前を付ける

 

「いいか⁇君は今日から番号じゃなくて、あまぎりとして生まれ変わった。これからは楽しい人生が待ってるぞ⁉︎」

 

「はいっ‼︎」

 

「敬語も使わなくて良い。ほら、言ってみ⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

あまぎりはようやく笑顔を見せてくれた

 

さぎりもきそが説明してくれた様で、二人共ここで過ごす事になった

 

「さ〜てぇ⁉︎そうと決まれば艤装がいるなぁ⁉︎」

 

「アンタの為なら、何処だって行くぜ‼︎」

 

その時、ドアが半分開き、アークが顔を半分出して此方を見て来た

 

「ワタシモホシイ…」

 

「あまぎりはどんな事が好きだ⁇」

 

「輸送とか遠征は得意だ‼︎」

 

「ギソウホシイ…」

 

「なるほどな…」

 

「ワタシニモツクレ…」

 

「…」

 

「…」

 

あまぎりと共にアークの方を見る

 

「ツクレ…ギソウホシイ…」

 

顔を半分出すアークを見て、笑いながらため息を吐く

 

「…アークはどんなのが良い⁇」

 

「メチャツヨな艤装‼︎」

 

「え〜ぇ。ワガママ言うアークの艤装はピンポン玉発射装置にしような」

 

「それがいいや‼︎」

 

「ビビリのケチ‼︎アホ‼︎マヌケ‼︎」

 

罵声三連撃を喰らい、更にやる気が無くなる

 

「分かった分かった。ちょっと待ってろ」

 

見るに見かねた俺は一旦部屋に戻り、戦闘機のミニチュアを持って来た

 

「アークにはコレをやろうな」

 

随分前に作ってそのままにしていた震電二型のミニチュアをアークに渡す

 

「戦闘機だぁ‼︎わ〜いわ〜い‼︎」

 

…多分、この後数秒でブッ壊される

 

「ぶるるるる〜ばばばばば〜、ちゅど〜ん、ぴゅ〜、ぼか〜ん‼︎」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

その場にいた全員が、開いた口が塞がらなくなった

 

ついさっきあれ程の気迫を見せたアークが、今では戦闘機のミニチュア一つで遊び始めている

 

口を尖らせて効果音を発するアークは、見ていて何だか面白い

 

「こ、これでしばらく大人しくなるだろ…」

 

「あ、あぁ…」

 

「ぷるぷるぷる〜」

 

楽しそうに遊ぶアークを見て、ちょっとホッとした

 

あれは本気の目だ

 

本気で遊んでいる子供の目だ

 

情けない姿になったアークをよそに、俺は工廠に向かった…

 

 

 

駆逐艦”あまぎり”及び”さぎり”が味方艦隊に加わります‼︎




あまぎり…遠征メガネ

好戦派の艦に乗っていた艦娘

当初は仲間を屠ったレイや隊長を憎んでいたが、アークの言葉で自分達を救おうとしてくれていたのを知る

好戦派に付いていた時の旗艦だったアークに弱い

戦いより遠征が好きで、少しずつだが、人の為に生きようと第二の人生を歩み始めた

思い込みは激しいが、根はとっても良い子

ジッとしているのが苦手なタイプ

顔に似合わず、抱っこすると良い匂いがするらしい





さぎり…銀の潮

好戦派の艦に乗っていた艦娘

あまぎりと違い、当初から薄っすらと自分達を救ってくれた事を知っており、きその言葉でそれが確信に変わった

作者は銀の潮とほざいているが、実際横に並べると中々似ている

物分りが良い子で、あまぎりと同じく遠征が好き

あまぎりと違い、下着に色気がある

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