艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、177話が終わりました

今回のお話は、新しい子が出て来ます

そして、いつの間にか基地に馴染んでいるアークが意外な一面を見せます


178話 涙の誓い(1)

基地の工廠で、三人の回復が進められる

 

「レイ、そっちはどう⁇」

 

「大丈夫そうだ。82%まで復元出来てる」

 

少女達の体の大多数がそのまま残っていたのが救いだった

 

戦闘の衝撃で内部がやられた位なら、俺にも修復出来る

 

「ふぅ…チョット疲れた。休憩‼︎」

 

「休憩だ休憩‼︎」

 

時刻は昼前

 

ドリンクバーからコーラを出し、きそと一緒に飲む

 

正直な話、後は彼女達の回復力が要になる

 

俺達が出来るのはここまでだ

 

ただ…一人だけ問題がある

 

横一列に並べられたカプセルの一番左に入っている、一番小さい女の子…

 

どうやら対タナトス用に産まれた、対潜に特化した子らしいが、当のタナトスが頑丈過ぎて全く歯が立たなかった

 

そして、どうも発声機能がイカれてる

 

恐らく戦闘による大ダメージの影響だろう

 

「名前付けてあげなきゃね⁇」

 

「そうだな…」

 

コーラを飲みながら、きそと共に悩む

 

彼女達は番号で呼ばれていた

 

カプセルの傍に書いてある通し番号がソレだ

 

あの艦隊の中で唯一名前が付いていたのは…

 

「何やってんの⁉︎」

 

大声を出しながら、いきなり工廠に入って来た赤髪の女性…

 

アークロイヤルだ

 

アークは声がデカい

 

どうやら俺がビビるのが面白いらしい

 

「お前のお友達を治してんだよ」

 

「ビビリの癖に凄いね‼︎」

 

「レイビビリだってさ‼︎」

 

「うるせぇ‼︎」

 

「よいしょ‼︎」

 

アークは勝手に工廠の床にマットを敷き、そこに座ってサンドイッチを食べ始めた

 

奔放過ぎる…

 

「僕にも頂戴‼︎」

 

「いいよ‼︎カツサンドと、タマゴサンド、野菜だけのサンドもあるよ‼︎」

 

「タマゴサンド食べたい‼︎」

 

「はい‼︎」

 

きそもマットに座り、サンドイッチを頬張る

 

そんな二人を見て、少しだけ微笑む

 

アークは思っているより悪い奴じゃない

 

料理の腕だって悪くないし、隊長のお手伝いもする

 

やはり、そこは外見と同じく気高い様だ

 

「ビビリはお医者様なの⁉︎」

 

声のデカさはどうにもならんみたいだがな…

 

そんなアークは、口の周りにパンのカスをいっぱい付けている

 

何処かで見た風景だ…

 

「そっ。アークも怪我したら、ちゃんと俺の所に来るんだぞ⁇」

 

そう言いながらアークの口周りをティッシュで拭く

 

「ありがとう‼︎ビビリは凄いんだね‼︎」

 

笑顔を送るアークは中々可愛い

 

この子供っぽさ…何処かで…

 

「きそちゃんもお医者様⁇」

 

きそに話す時は普通のトーンに戻る

 

「僕はチョット違うかな⁇」

 

「でも凄いわ⁇こんな事出来るなんて、素晴らしい腕だと思うわ⁇」

 

「えへへ…」

 

きそは褒められて照れている

 

「もうみんなの名前は覚えたか⁇」

 

「うん‼︎ウィリアム提督でしょ⁉︎貴子さんでしょ⁉︎ローマ、グラーフ…」

 

アークは皆の名前を覚えていた

 

ただ、言っても恐らく治らないであろう点が一つあった

 

「俺の名前は⁇」

 

「ビビリじゃないの⁇」

 

「あ。もしかして知らない⁇」

 

「うん」

 

いつの間にかアークの膝の上に移動していたきその言葉で、アークが俺の名前を知らないと言う事実が飛び出た

 

「知らないからビビリって呼んでたのか⁉︎」

 

「教えない方が悪いと思う‼︎」

 

アークにメチャクチャごもっともな事を言われる

 

「俺はマーカス・スティングレイだ」

 

「ふ〜ん…」

 

「興味ないんかい‼︎」

 

「それでみんなレイって呼んでるのね…」

 

「そう言う事だ」

 

「分かった。レイ、三人をお願いね⁇」

 

「お、おぉ…」

 

急に素直になって、マットとサンドイッチを入れていたバスケットを片付け始めた

 

「これあげる‼︎食べて‼︎」

 

「ごっほっ‼︎」

 

素直になったと思ったら、急に口にクッキーを投げ込まれた

 

「アークが作ったデカいクッキーあげる‼︎」

 

「あいらとう…」

 

「バイバーイ‼︎」

 

スキップしながら、アークは工廠を去る

 

「台風みたいな人だね…」

 

「あれだけ元気ありゃあ大丈夫だな…ははは…」

 

どうやら俺をからかうのが好きみたいだ…

 

回復も順調に進み、後数分で完了する所まで来た

 

食堂ではアークがお昼を食べているのが見え、サンドイッチを食べていたのに、まだバクバクとカレーを食べている

 

まっ、アークもその分動くから良いか…

 

《一番カプセルの修復が完了しました》

 

「来た…」

 

そして、間髪入れずに

 

《二番カプセルの修復が完了しました》

 

と、音声のお知らせが入る

 

俺ときそは生唾を飲み、俺は一番カプセル、きそは二番カプセルのロックを外す

 

「かっは…」

 

「けっほ…」

 

一番カプセルからは、メガネを掛けた子が

 

二番カプセルからは、潮を銀髪にした様な子が出て来た

 

「きそ、そっちの子を頼む」

 

「オッケー。チョットごめんね…」

 

互いに開けたカプセルの子の目にライトを当てたり、脈を計る

 

「うんっ‼︎大丈夫そうだね‼︎」

 

「こっちも良好だな‼︎」

 

「ここは何処だ…アンタ達は一体…」

 

メガネを掛けた子が口を開いた

 

「ここは横須賀分遣基地さ」

 

「ここに来たからもう大丈夫だよ‼︎」

 

「アンタ達が助けてくれたのか…」

 

「まぁ…」

 

「あの…ありがとうございます…」

 

銀色の潮っぽい子が頭を下げる

 

「…腹減ったろ⁇貴子さんにご飯作って貰おう」

 

何も言えなかった

 

自分達が撃沈したとは、今は言えなかった

 

二人を連れて食堂に入る

 

「あらっ‼︎小さなお客さんね⁇」

 

「よく来たな‼︎」

 

貴子さん含め、そこに居た全員が好意的な対応をしてくれる

 

「デカい…」

 

メガネを掛けた子が、貴子さんの威圧に一歩引く

 

「さっ、そこに座って⁇」

 

二人共椅子に座り、貴子さんにカレーを作って貰う

 

「さっ、食べて‼︎」

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

二人共カレーを口に入れる

 

俺と隊長、そして貴子さんが二人の様子を眺める

 

「お…美味しい…」

 

「あの…全部食べていいですか⁇」

 

「勿論よ‼︎いっぱいあるから、おかわりもあるわよ⁇」

 

それを聞いた途端、二人の目が輝き、カレーを食べるのが早くなる

 

二人はその後もう一度カレーをおかわりした後、ちゃんと手を合わせてごちそさまになった


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