艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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175話 ピクセルガール(2)

”パスワードを入力して下さい”

 

《…》

 

クラウディアはその時、初めて自分以外のシステムに興味が湧いた

 

悪いとは思いつつ、システムのパスワードを開示する

 

”モデルを設定して下さい”

 

《モデル…手本…模範…》

 

クラウディアは考えた

 

自分の模範になるのは、パートナーである横須賀

 

クラウディアは自分の記憶から、横須賀の写真を抜き、空欄に入れる

 

”初期設定の髪型を設定して下さい”

 

《髪型…》

 

クラウディアの頭の中にあるのは、モデルとした横須賀の写真

 

クラウディアは訳を分かっていないまま、髪型を決める

 

クラウディアはその後、そのシステムから色々聞かれる度に全て答えた

 

年齢…1歳

 

身長…10840ピクセル

 

体型…500GB

 

クラウディアは勤勉な子だが、どこか抜けている所がある

 

途中から自分の事を書き始めていた

 

システムがどんどん立体モデルを創り上げて行き、最後の質問に来た

 

”胸のサイズを設定して下さい”

 

クラウディアはふとグラーフの写真を思い出した

 

グラーフは大きい物を持っている

 

ただ、出来上がったモデルを見る限りグラーフと同じサイズにすると、かなり不釣り合いになる

 

《小さくもなく、大き過ぎない様にお願い出来ますか⁇》

 

モデルが変更され、年頃の女の子が表示された

 

”此方で建造を開始致します”

 

《建…あ、ちょっと‼︎》

 

クラウディアが弄っていたのは建造装置だった

 

ようやく事の重大さに気付いたクラウディアは停止システムにアクセスしようとするが、時既に遅し

 

建造の進展具合のバーを見ながら、クラウディアは焦っていた

 

”AIの移植を開始します”

 

《あぁっ‼︎》

 

建造装置のシステムは近くにいたクラウディアを移植するAIと勘違いし、建造装置の中に放り込んでしまった

 

《やめて下さい‼︎誰か‼︎》

 

この時に限って、いつもファイルを解除しまくっているタナトスが居なかった

 

《消えちゃいます‼︎あぁ…》

 

 

 

 

 

「う〜ん、美味しかったぁ‼︎」

 

おんどりゃあで広島焼きを数枚食べて、きそは御満悦

 

きそは唇の周りをペロペロしながら、俺と手を繋いで格納庫に戻って来た

 

格納庫に戻る道中、激しい爆発音が響いた

 

「な、なんだ⁉︎」

 

「敵襲⁉︎」

 

爆発音の後、すぐにうっすらと黒煙が上がる

 

格納庫の方からだ‼︎

 

「あわわわわ…」

 

二人共頭によぎったのは、クラウディアの不備だ

 

ミサイルの暴発や、機体が破壊されたのかも知れない

 

「行くぞ‼︎」

 

「うん‼︎」

 

きそと共に格納庫に急ぐ…

 

「あ、あれ⁇」

 

格納庫に入ってすぐ、クラウディアの確認をする

 

だが、特に異常は見当たらない

 

「何だったんだ…⁇」

 

「分かんないや…クラウディアに聞いてみよう。クラウディア‼︎」

 

《…》

 

きその応答に答えたのは、ノイズ音だけ…

 

「クラウディア‼︎応答して、クラウディア‼︎」

 

《…》

 

「クラウディアがいない…」

 

きその顔が青ざめる

 

「誰か来てくれ‼︎」

 

格納庫の横に建っている、建造装置がある施設から悲鳴が聞こえて来た

 

「クラウディアは後だ‼︎俺が何とかする‼︎」

 

「わ、分かった‼︎」

 

急いで隣の施設に移動する

 

「どうした⁉︎」

 

「たっ、大尉‼︎」

 

物陰に隠れていた工兵の近くに寄り、目線の先を見る

 

「う…ぐ、あ…」

 

「な…」

 

爆発の原因が分かった

 

数個ある建造装置の内の一つが破壊され、煙を上げている

 

そして、溶液に塗れた素っ裸の女の子が呻き声を上げながら、辺りをフラフラ歩いていた

 

見た所、体のサイズ的に駆逐艦の様だ

 

「あの子が破壊したの⁇」

 

「えぇ。いきなり建造装置の中に現れて、内部から…」

 

「いきなり建造装置から出て来た…⁇」

 

建造装置は外部から弄らなければ、臓器であろうと絶対に生成出来ない

 

誰も弄っていないのに、勝手に産まれて来る事はあり得ない

 

考えろ…

 

好戦派の妨害工作か…

 

それとも、ネットワークの海からパスワードをこじ開けて…

 

…パスワードをこじ開けて⁇

 

「まさか…」

 

だが、もしこれが本当なら、全て辻褄が合う

 

今目の前でフラついているのは、もしかしたらクラウディアなのか⁇

 

クラウディアなら並大抵のパスワードなら簡単にこじ開けられる

 

「ここだ‼︎」

 

異変に気が付いた憲兵隊が来た

 

「けん、ぺい、たい…」

 

「捕獲しろ‼︎マーカス大尉に引き継ぐ‼︎」

 

「「「はっ‼︎」」」

 

憲兵隊が女の子の捕獲にかかる

 

「は…離せぇ‼︎」

 

「ぐわっ‼︎」

 

「うわっ‼︎」

 

女の子は掴み掛かって来た憲兵隊をいとも簡単に壁へ叩き付けた

 

「フーッ、フーッ‼︎」

 

「こ…こいつ…」

 

憲兵隊の隊長の体が震える

 

憲兵隊に敵意剥き出しの少女は、近くに置いてあった試作型の艤装に目が行く

 

「軽巡の艤装だ…」

 

「どうするつもりだ⁇」

 

女の子の目線の先には、軽巡の子が白兵戦をする為に造った、対艦刀が床に転がっている

 

過去に天龍と言う艦娘が使っていたのをモデルにし、造り上げた物だ

 

だが、あれは駆逐艦の子には重すぎる為、持てたとしても攻撃に転用出来ない

 

すると、女の子は離れた対艦刀に向けて手を伸ばした

 

「えぇ〜…‼︎」

 

女の子の手の中に、同じ対艦刀が生成されて行く…

 

「…プログラム再構築。内部データを軽巡洋艦に切り替え完了」

 

「…」

 

きそが驚く中、俺は確信した

 

あれはクラウディアだ

 

クラウディアには適応変化機能が備わっている

 

戦う度に強くなり、横須賀に多くを手助けする為にそのプログラムを作成したのだが、クラウディアは予想外の進化を遂げていた

 

クラウディアは任意で艦種を変えられる

 

それも適材適所で…

 

「…」

 

「くっ…」

 

クラウディアは対艦刀を持ち、ジリジリと憲兵隊の隊長に歩み寄る

 

「クラウディア‼︎」

 

「‼︎」

 

女の子は反応を示した

 

やはりクラウディアだった

 

「創造主様…」

 

「人を傷付けちゃダメだろ⁇」

 

「申し訳ありません…」

 

クラウディアの手の中から対艦刀が消えて行く…

 

「それはデータの塊か⁇」

 

「適応変化機能の一環です」

 

「そっか」

 

「ま、マーカス大尉…」

 

「悪い事をしたな…」

 

「い、いえ‼︎無事解決出来て良かったです‼︎では‼︎」

 

憲兵隊は逃げる様に去って行った

 

「ホラッ、これ着ろ」

 

着ていた革ジャンをクラウディアにかける

 

「ありがとうございます…あの…」

 

「建造装置のパスワード、こじ開けたろ⁇」

 

「…申し訳ありません」

 

「興味を持つのは良い事だ。次からはパスワード開ける時はちゃんと聞いてからやろうな⁇」

 

「…はいっ‼︎」

 

クラウディアは産まれて初めての笑顔を見せた


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