艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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174話 ハンマー榛名、唯一の悩み(3)

タブレットの音が鳴る

 

「誰だ⁇」

 

確認すると相手は単冠湾のニムだ

 

リヒター〉どうした、珍しいな?

 

ニム〉治して欲しい奴がいるにむ

 

リヒター〉そっちへ行こう。単冠湾で良いか⁇

 

ニム〉急を要する怪我じゃないにむ。実は…

 

 

 

ニムから全てを聞いた

 

榛名はどうやら色弱の様だ

 

単冠湾にもあるカプセルに入っても治らないと見ると、きぬとはまた違う症状みたいだ

 

「榛名さんがどうかしたの⁇」

 

きそにメールのやり取りを見せた

 

「じゃあ…今までずっと分からないまま戦ってたって事⁉︎」

 

「そう言う事になるな…」

 

「榛名さん…」

 

きそは榛名の事になると、少しムキになる傾向がある

 

榛名は産まれて初めて自分の造った物を評価してくれた人でもある

 

それに対しての恩返しでもあるのだろう…

 

その日、きそは一晩工廠から出て来なかった

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「レイ‼︎レイ起きて‼︎」

 

きそが俺を揺さ振る

 

「ん…んが…」

 

「んがじゃないの‼︎単冠湾に行きたいんだ‼︎」

 

「分かった分かった…8時間したらな…」

 

そう言って寝返りを打つと、きそは大きく息を吸い込んだ

 

「起きろぉぉぉぉおおお‼︎」

 

「どわぁ‼︎分かった分かった‼︎単冠湾だな⁉︎」

 

きその雄叫びで目を覚まし、朝ご飯も食べないまま、グリフォンに乗る

 

「レイ、これ持ってて‼︎」

 

きそはグリフォンに入る前に、俺に楕円形のケースを二つ渡して来た

 

「なんだこれ⁇」

 

「内緒っ‼︎壊さないでね⁉︎」

 

きそは嬉しそうな目を俺に見せた後、グリフォンに入った

 

「ふっ…」

 

ケースを開けて中身を見た後、俺は大体の事を理解した

 

 

 

 

 

単冠湾に着くと、ワンコが迎えてくれた

 

「いらっしゃいませ、レイさん‼︎きそちゃん‼︎」

 

「すまん、朝飯食わしてくれ‼︎限界だ‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

俺の腹の非常事態を聞いて、ワンコに食堂に案内された

 

「ゴメンね、レイ…」

 

きそは食堂に向かって行く俺に謝った後、榛名を探し始めた

 

「いっちにち一発、みっかで三発‼︎」

 

榛名はすぐに見付かった

 

HAGYが洗濯物を干している少し離れた場所で、ハンマーを素振りしていた

 

「榛名さん‼︎」

 

「きそ‼︎」

 

榛名はハンマーを降ろし、きそを抱き締める

 

「相変わらず凄い圧だ…」

 

榛名の巨乳で押し潰されて、きそは息が出来なくなる

 

「榛名さん。今日はプレゼントがあるんだ‼︎」

 

「きそから貰うのは何だって嬉しいダズル‼︎」

 

「これ‼︎」

 

きそは片方のケースを榛名に渡した

 

「これは何ダズル⁇」

 

「開けてみて‼︎」

 

ケースを開けると、中にはサングラスが入っていた

 

「おぉ‼︎」

 

「掛けてみてよ」

 

「ふふふ…」

 

榛名はきそから貰った”サングラス”を掛ける

 

ただのサングラスと思っていた榛名は、数秒後、大きく後悔する事になる

 

「似合ってるダズル⁇…ん⁇」

 

「似合ってるよ‼︎セレブな感じが出てる‼︎」

 

「ん⁇ん⁇」

 

榛名は何度もサングラスを外したり掛けたりを繰り返しながら、きそを見たり、洗濯物を干しているHAGYを見る

 

「色が分かるダズル…」

 

榛名はサングラスを掛けたまま、ポロポロと涙を流す

 

「それは色彩補助のメガネなんだ」

 

「あはっ…キレイキレイダズル…」

 

産まれて初めて見る、ほぼ完璧な色鮮やかな世界…

 

「お花ちゃんはピンクダズル」

 

足元に咲いていた花はピンク色

 

「お空は水色ダズル」

 

空は綺麗な水色

 

「ハギィのブラジャーは紫色ダズル」

 

HAGYの大きな胸を覆うブラジャーは紫色

 

榛名の世界に、色が戻って行く…

 

「きそ、本当に貰って良いんダズル⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

榛名は無言できそを抱き締めた

 

「きそは緑色…覚えたダズル…」

 

「あと、コレは予備のメガネ。もし壊れたら言ってね⁇」

 

「んっ…」

 

色彩補助のメガネを掛けた榛名は、かなり貫禄が出ている

 

パッと見はグラサンであり、榛名に良く似合っている

 

榛名はメガネを掛けたまま、きそと共に執務室に戻って来た

 

「帰ったダズル‼︎」

 

「おっ、サングラス貰ったの⁇」

 

「そんな所ダズル」

 

榛名は早速ワンコの手元にあった書類を手に取った

 

「イクは水色ダズル」

 

「榛名…」

 

ワンコは榛名の目の事を知っていた

 

榛名の気に触れてしまうので、今まで言い出せずにいたのだ

 

「榛名、きそちゃんとレイさんにお礼言った⁇」

 

「きそ、レイ。ありがとうダズル‼︎」

 

「本当にありがとうございます‼︎」

 

「良かったな、きそ」

 

「うんっ‼︎」

 

榛名の役に立って、きそは御満悦の様子

 

この色彩補助メガネは後日、横須賀で試作品第二号が造られ、商品化が決定した




色彩補助メガネ…きそが造ったメガネ

きそが榛名の為に造ったメガネ

外見はサングラスの様で、デザインにもこだわっている

これを掛ける事で色彩感覚に補正が入り、限りなく原色に近い色を見る事が出来る

現在、ホワイトアウト症候群の患者に配布され始めている

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