艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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金魚すくい屋のセリフに注目


172話 高速偵察部隊出動‼︎(3)

会場はあっと言う間に人と艦娘でごった返し、夏祭りの雰囲気が出て来た

 

「レイ‼︎」

 

金魚すくいの屋台から、誰かに呼ばれた

 

「摩耶‼︎」

 

何でも屋から駄菓子の卸問屋になった摩耶がいた

 

「バイトか⁇」

 

「そっ。どうだ⁇やってくか⁇」

 

「どっちがすくえるか賭けようぜ」

 

「負けたら背後のカキ氷な⁇」

 

「いいだろう‼︎」

 

摩耶からポイを貰い、いざ金魚すくいスタート

 

ふふふ、アレンよ

 

君は知らないだろう

 

俺の所には、金魚すくいで無類の強さを誇るしおいがいる事を‼︎

 

しおいに学んで、金魚すくいの特訓をした俺の力を見るがいいわ‼︎

 

「うおりゃ‼︎」

 

「この表面の水分を調整するには…」

 

「そぉい‼︎」

 

「この角度からだな…」

 

五分後…

 

「嘘だろ…」

 

アレンはブリキの桶5つ分の金魚をすくい、俺は桶2つ分の金魚をすくった所でポイの紙が破れた

 

アレン5つ、俺2つ

 

完敗である

 

「ぬっはっはっは‼︎航空力学を学んでいたのは貴様だけでは無いわぁ‼︎」

 

「クッソォォォオ‼︎てか金魚すくいで航空力学応用できんのか⁉︎」

 

「も…物の考え様⁇」

 

訳分からん考えの奴に負けたのか…

 

「しっかしまぁ…獲りに獲ったなぁ⁇」

 

金魚すくいの大きな水槽の中には、数えられる位の数匹の金魚しか泳いでいない

 

「3匹位くれるか⁇清霜にやりたい」

 

「んっ」

 

摩耶は値段表を指差した

 

 

 

金魚すくい

 

一回100円

 

すくった分持って帰れます。拒否権はありません

 

すくえなくても3匹あげます

 

 

 

「200円で商売上がったりじゃねぇか‼︎」

 

「いいんだよっ。アタシは少なくなったら足すだけだからな」

 

摩耶は出店の後ろのカーテンを捲った

 

出店の裏には上に網が張られた巨大な水槽があり、その中には出店に出ている金魚より遥かに多い数の金魚がミチミチに入っていた

 

「弥富でも見た事ないぞ…行った事ないけど」

 

「裏にまだいるって事は心配無いな」

 

「そう言うこった‼︎荷物になるから、帰りまで預かっておいてやるよ‼︎」

 

「サンキュー‼︎」

 

「楽しかったよ‼︎」

 

「見回り頑張ってな‼︎」

 

摩耶と別れ、メイン通りに戻って来た

 

「味何にするんだ⁇」

 

「イチゴで‼︎」

 

「イチゴのカキ氷を二つ」

 

「はいは〜い‼︎」

 

数十秒後、出来上がったイチゴのカキ氷を貰い、代金を払う

 

俺達はイチゴのカキ氷を食べながら見回りを続ける

 

「大当たり〜‼︎」

 

「見たか‼︎」

 

「おっ⁉︎」

 

大当たりを報告する声と共にベルが鳴り、聞き覚えのある声が聞こえて来た

 

「60インチのプラズマテレビです‼︎」

 

「ろっ、60インチ⁉︎」

 

「当てた奴の顔見に行こうぜ‼︎」

 

人混みを掻き分け、テレビが当たったであろうクジ引き屋の前に来た

 

「リチャードさんにあげるわ‼︎」

 

「瑞鶴が当てたんだ。瑞鶴の部屋に置いてくれ」

 

「はぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「レイ‼︎気を確かに持て‼︎」

 

息を吸い込みながら喉で音を鳴らし、頬に手を当てる

 

親父が目の前で堂々と浮気している‼︎

 

瑞鶴は浴衣を着て、親父も甚平を着ている

 

しかもか〜な〜り、仲良さそうにしている

 

「マーカスさん⁉︎」

 

「えっ⁉︎マーカス⁉︎」

 

二人に気付かれた‼︎

 

「ほっ、ほほほ本官は何も見ていないであります‼︎」

 

「どうやら人違いの様です‼︎失礼しました‼︎」

 

アレンと共に警官の真似をして、早急にその場を去ろうとした

 

「待て待てマーカス‼︎スパイトには言ってある‼︎」

 

「よく母さんが許可したな⁇」

 

「普段寿司奢ってくれたりしてるんだ。何かお返しをと思って、ここに来たんだ」

 

「なるほど…」

 

「なぁ、マーカス…」

 

親父が耳打ちする

 

「頼むからスパイトには黙っててくれ」

 

「ほほぅ⁉︎」

 

「そうだマーカス‼︎小遣いをやろう‼︎アレン、勿論君にもな‼︎」

 

そう言って、親父は俺達にそれぞれ一万円札を握らせた

 

そして、一万円札を握った手をキツく握り締められる

 

「…どうか御内密に」

 

「どうしよっかなぁ〜⁉︎」

 

「お、俺はこれで充分です‼︎」

 

アレンは口止め料を貰って満足しているが、俺はもう少しおちょくろうとした

 

「よしマーカス。それ以上強請る気なら、必殺の”上官命令”を使おう‼︎」

 

「分かった分かった‼︎邪魔して悪かったよ‼︎瑞鶴、じゃあな‼︎」

 

「また来て下さいね〜‼︎」

 

嫌々一万円札を内ポケットに入れ、その場を去る

 

「まっ、あれだ。分かってやって、黙ってやるのが男同士ってモンだろ⁇」

 

「流石はレイ‼︎カッチョイイ‼︎」

 

親父も普段大変な職務に就いているのに、嫁に中々逢えないもんな…

 

身近な愛が欲しくなるのも分かる気がする

 

ある程度の見回りが終わり、神社の下に降りて来た

 

階段の中腹や神社に比べて出店は少ないが、少しは出ており、人も中々いる

 

俺達の見回りもここで終わり

 

後は軽く見回りを続けつつ、問題があれば駆け付ければ良い

 

「マーカス君‼︎」

 

「貴子さん‼︎」

 

貴子さんが来た

 

どうやら隊長と貴子さんは午前中、居住区の家で二人で過ごし、隊長はこれからみほとデートに行くみたいだ

 

だが、浴衣を着ていない

 

「レイ‼︎」

 

「隊長‼︎」

 

隊長も来た

 

隊長は甚平に着替えており、みほと逢う気満々だ

 

「Papa‼︎」

 

「アイちゃん‼︎」

 

アレンはアレンで、アイちゃんが来た

 

隊長達が横須賀でアイちゃんを見つけ、アイちゃんも行きたがっていたので連れて来たみたいだ

 

「レイ、俺はアイちゃんと出店回るよ。ありがとな⁇」

 

「お前と一時でも行動を共に出来て、誇りに思うよ」

 

そう言って、互いに自身の胸に拳を当てた

 

「私も行って来るよ」

 

「楽しんで来るのよ⁇」

 

「あぁ‼︎」

 

貴子さんは軽く甚平をはたいたり、着直させた後、隊長を見送った

 

アレンと隊長が同時に去り、俺と貴子さんがその場に残る

 

「貴子さ…」

 

この後の予定を聞こうと、貴子さんの顔を見た

 

貴子さんは、階段を意気揚々と登って行く隊長を、悲しそうな顔で見続けていた

 

「貴子さん」

 

「ん〜⁇」

 

俺の方に振り返った貴子さんは、いつもの顔に戻っていた

 

いつも気丈な貴子さんの悲しそうな顔を見るのは初めてだった

 

そんな貴子さんを前にし、俺は知らずの内に手を差し出していた

 

「俺と行こう」

 

「…」

 

貴子さんは軽く口を開けながら迷い半分、驚き半分の様な表情をしている

 

まさか、旦那の部下からデートに誘われると思ってなかったのだろう

 

「私も行っていいのかしら…」

 

「勿論さ‼︎ホラッ‼︎」

 

「…うんっ‼︎」

 

貴子さんは俺の手を取った

 

握った掌は、何故か横須賀と同じ、可愛げのある、柔らかく優しい手の平をしていた…


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