艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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167話 真っ赤なお弁当(3)

「女の子が一人重体です…診て頂けますか⁇」

 

そう聞いて、椅子に掛けていた革ジャンを羽織る

 

「場所は⁇」

 

「案内します」

 

「アレン、きそを医務室に呼んでくれ。多分執務室の横須賀の所にいる」

 

「分かった‼︎ツケでお願いしていいか⁉︎」

 

「あ、はい‼︎お気を付けて‼︎」

 

鳳翔を出てすぐに俺とアレンは左右に別れ、それぞれの場所に向かう

 

「現在、応急処置は施していますが…」

 

「なな‼︎」

 

いつもななが出入りする門の近くで、男性職員が必死にななに呼び掛けていた

 

「容態は⁇」

 

「吐血及び、頭部からの出血が見られます」

 

「分かった。医務室に運ぶ」

 

「おに…さ…」

 

ななが薄っすらと目を覚ました

 

「もう大丈夫だからな‼︎」

 

「ごめ…さい…ゴホッ…」

 

ななは話した途端に多量の血を吐いた

 

内臓が破裂している可能性が高い

 

「よく頑張ったな‼︎」

 

「うん…」

 

弱々しく笑顔を送るななを抱え、医務室に走る

 

「なな、起きてるんだぞ⁉︎」

 

「おおき、な…うみ、の…」

 

ななは歌を歌い、何とか意識を保とうとしている

 

「そうだそうだ。お歌歌うんだ‼︎」

 

医務室に着き、付き添いで着いて来てくれた男性職員二人に扉を開けて貰い、中に入る

 

「ななちゃん⁉︎」

 

医務室では既にきそが待ってくれており、ななを抱えて来た俺を見て驚いている

 

「きそ、カプセルの準備だ‼︎」

 

「お、オッケー‼︎」

 

「なな、もう少しの辛抱だからな⁉︎ちょっとお腹見せてな⁇」

 

ななの服を捲り、腹部に聴診器を当てる

 

「オッケー、大丈夫…」

 

本当は大丈夫じゃない

 

だが、ななを安心させる為に嘘を吐く

 

「えへへ…」

 

大丈夫と聞いた途端、ななは少しだけ笑った

 

「なな、俺が誰か分かるか⁉︎」

 

「お父…さん…」

 

ななは俺を見て”お父さん”と言い残し、精一杯の笑顔を送り、俺の目の前で緩やかに倒れて行き、心電図が0を示した

 

「馬鹿野郎‼︎なな‼︎」

 

急いで心臓マッサージに取り掛かる

 

「死んだらもう戻せないんだ‼︎起きろ‼︎ななぁ‼︎」

 

「レイ‼︎準備出来たよ‼︎」

 

「よし‼︎」

 

急いでななをカプセルに入れ、治療を開始させる

 

「なに…」

 

カプセルと連動しているPCの画面に表示されている文字を見て、肩を落とす

 

”Patient Death”

 

患者死亡の文字だ

 

「また…救えないと言うのか…」

 

ここ数日の、ななとの思い出が一気に頭を過って行く…

 

 

 

 

「おいしぃ〜なぁ〜‼︎」

 

「お兄さん、行って来ます‼︎」

 

「清霜ちゃん‼︎ななとお菓子食べよう‼︎」

 

 

 

 

一気に涙が込み上げて来た

 

あまりにも情け容赦ない最後だ…

 

「レイ‼︎諦めちゃダメだよ‼︎今、別の方法探してるから‼︎」

 

「…きそ」

 

「なに⁉︎」

 

俺はきそに対してとんでもない注文をした

 

「本気で言ってるの⁉︎」

 

「それしか方法はない」

 

「…分かった。でも、失敗するかも知れないよ⁇こんなの初めてだから…」

 

「お前にしか頼めない。一生の頼みだ‼︎」

 

俺はきそに頭を下げた

 

「…あと二回だからね⁉︎」

 

「すまん‼︎」

 

「後は僕が何とかする。だからレイは…始末をお願い」

 

「すまん…終わったら、何でも買ってやるから…」

 

きそを医務室に残し、外に出て来た

 

「レイ‼︎」

 

医務室の外ではアレンが待ってくれていた

 

「アレン。お前にも一生の頼み、使って良いか⁇」

 

「あ、あぁ…あと二回な⁇」

 

「諜報部とコンタクトを取って、ななの保護者二人と学校の先生を連れて来てくれないか⁇」

 

「ったく…一生の頼みなんか使うな。困った時はっ、お互い様だろ⁇分かった。すぐに行ってくる」

 

「連れて来る場所は追って連絡するよ」

 

「レイ。気を確かにな⁇」

 

「あぁ…」

 

走り去るアレンの後ろ姿を見て、俺は思った

 

やはり神なんて信じるモンじゃない

 

子供にまでこんな仕打ちをする神がいてたまるか

 

いいだろう…

 

無能なお前達代わって、俺が代わりに裁いてやる…

 

「何かあったの⁉︎」

 

異様な空気を感じた横須賀が来た

 

「人が一人死んだ…それも、小さな女の子だ」

 

「…助けられなかったの⁇」

 

「俺のせいだ…気付いていたのに、助けてやれなかった」

 

「そう…」

 

横須賀は背伸びをして、俺の頭を撫でてくれた

 

「きそを信じなさい。あの子は出来る子よ」

 

「きそに何かあったら、助けてやってくれ。少し外す」

 

「分かったわ」

 

その場は横須賀に任せ、俺はある場所に来た

 

《浮かない顔してるでちな》

 

「入れてくれるか⁇」

 

俺が来たのはタナトスが停泊しているドック

 

タナトスはすぐにハッチを開け、中に入れてくれた

 

「タナトス。頼みがある」

 

《北極海以外でお願いするでち》

 

「お前の中で、人を殺すかも知れない」

 

《理由を聞かないまま、タナトスの中で好き勝手させないでち》

 

タナトスに全てを話す

 

全てを話し終えた後、タナトスは一つの部屋の扉を開けた

 

《創造主》

 

「何だ⁇」

 

《創造主はいつも言っているでち。まずは話し合いから、って。殺すのはそれからでも良いでち》

 

「ふっ…分かったよ」

 

《何で笑うでち‼︎》

 

「お前に説教される日が来るとはな」

 

《ク創造主‼︎》

 

タナトスと話して、ほんの少しだけ元気が出た

 

後は…ここで全てを待つだけだ

 

 

 

 

数時間後…

 

既に外は深夜

 

ある程度の調べはついた

 

流石は諜報部

 

国が数週間、数ヶ月かかるだらしないトロトロとした情報集めが数時間で終わった

 

これだけ情報が集まれば…

 

「来た」

 

ようやく通信が入る

 

「俺だ」

 

《ななちゃんの両親を連れて来たぞ‼︎》

 

《担任の先生も連れて来ましたよ‼︎》

 

アレンに続き、健吾の声もした

 

どうやら手伝ってくれたみたいだ

 

「ありがとう。タナトスの中で待ってる。連れて来てくれ」

 

通信から数分後、ハッチの開く音が聞こえた

 

沢山の足音が此方に向かって歩いてくる

 

「此方へ」

 

扉の向こうからアレンの声がした後、三人が入って来た


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