艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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164話 旅行鳩の愛鳥(3)

「…」

 

時津風が口を開けてジーッと俺を見ている

 

「おいで」

 

「ん」

 

時津風はすぐに俺の膝の上に乗って来た

 

「俺はマーカス・スティングレイ。宜しくな⁇」

 

「しってる」

 

「ふふ…お母さんから聞いたか⁇」

 

「うん。おかあさんがおとうさんのつぎにすきなひと」

 

犬のぬいぐるみを弄りながら時津風がそう言うと、はっちゃんが此方を見てニヤついた

 

「そ、そっか…」

 

「おかあさん、もっとおはなししたいっていってる」

 

「俺は時津風とお話したい」

 

「とっき〜はまーかすおじさんのここでねてる。おやすみ…」

 

時津風は俺の膝の上で丸くなって寝始めた

 

「ったく…しょうがない奴だ…」

 

時津風を犬の様に撫でる

 

ひとみといよ位の身長なのに、もうある程度饒舌に話せている

 

言語能力だけで言うなら、既にたいほうと同じレベルだ

 

 

 

 

「なるほどねぇ…」

 

 

 

 

良い時間になったので時津風を鹿島に返し、俺達はまた二式大艇に乗り込んだ

 

「あれ…秋津洲‼︎秋津洲‼︎」

 

秋津洲が居ない

 

「何かも⁉︎」

 

秋津洲は銃座から顔を出した

 

「いたいた。帰るぞ」

 

「レイさん。秋津洲、ここからの景色見たいかも。一回もないかも」

 

「助手席にきそ乗っけていいか⁇」

 

「いいかも‼︎えへへ〜‼︎」

 

体付きは大人びているのに、性格は子供っぽいんだな…

 

「確認して来るから、ちゃんと横須賀と良い子ちゃんにしてるんだぞ⁇」

 

「「「は〜い‼︎」」」

 

「きそ、エンジン温めといてくれ‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

一応子供達は全員乗っているが、飛ぶ前にもう一本吸っておきたい

 

二式大艇から降り、タバコに火を点けようとした時、誰かがライターを差し出して火を点けてくれた

 

「鹿島…」

 

「もぅ…やっと話してくれました」

 

無言のまま、俺と鹿島は埠頭で腰を降ろした

 

「ボスにお礼言っといてくれ。美味かったって」

 

「分かりました…それでレイ…」

 

「旦那と時津風は良いのか⁇」

 

「私だって息抜きしたいです。レイは元気そうですね⁇」

 

「まぁな。お陰様で暇しない生活してる」

 

「ふふっ、良かった‼︎」

 

不思議なモンだな…

 

こうしていると、左腕の疼きが無い

 

…あぁ、なるほどな

 

俺は表面では鹿島を突き放そうとしていたが、まだ何処かで鹿島が好きなんだ…

 

深海化したのも意味が分かった

 

無意識の内に棚町と鹿島を”また”引き剥がそうとしていたんだ

 

それだけは絶対やってはならない…

 

そんな時、ふと横須賀の顔が浮かんだ

 

横須賀は普段ガミガミうるさいが、アイツなりにぎこちなくだが、一生懸命俺に尽くしてくれる

 

そんな一途な奴を裏切れない

 

やっぱり横須賀が一番好きだと再確認した

 

「ふふっ…こうしていると、私達が恋人同士だった時を思い出しますね⁇」

 

「お前は相変わらず頭お花畑だな⁇」

 

ため息混じりで、ぎこちない笑顔を鹿島に送る

 

「そんな事ないですよ⁉︎」

 

鹿島はそんな俺に笑顔を送る

 

「そろそろ行く」

 

「また来て下さいね⁉︎いつだって待ってますから‼︎」

 

「次来たら、またコーヒーでも淹れてくれ。じゃあな」

 

二式大艇に乗り、昇降口を閉める

 

「お別れは済んだ⁇」

 

子供達に囲まれて幸せそうな横須賀を見て、俺は横須賀に壁ドンをした

 

「ちょ、ちょっと…子供達のま…んっ…」

 

横須賀に無理矢理口付けをすると、子供達の声が止まった

 

「えいしゃんちゅ〜してう…」

 

「よこしゅかしゃんちゅ〜してう…」

 

唇を離し、横須賀の頭を撫でた後、操縦席に座った

 

備え付けられたバックミラーで子供達の座っている席を見ると、ひとみといよが放心状態の横須賀の頬をペチペチしているのが見えた

 

「レイ」

 

助手席に座っているきそがニヤケ顔で俺を見て来た

 

「きそは知らないのか⁇パイロットってのは、出る前に好きな奴とキスすると無事帰って来れるんだ」

 

「願掛けみたいな感じ⁇」

 

「そっ。お前、二式の操縦席は怖いか⁇」

 

「怖くないよ。嘘、怖い‼︎」

 

怖いはずだ

 

二式の操縦席は白煙をご機嫌良く噴き出すからだ

 

「なら俺の分も祈ってろ。マジで祈れ‼︎」

 

「なんみょ〜ほ〜れん…」

 

きそはパニクったのか、いきなりお経を唱え始めた

 

「バッキャロゥ‼︎そりゃお経じゃねぇか‼︎」

 

「え〜と、え〜と…ぼ、僕は”クリステル”じゃないし…え〜と、う〜んと…」

 

「クリステルだぁ⁉︎」

 

「”キリタン”だっけ⁉︎わっかんないっ‼︎って言うかレイは神様信じてないんでしょ⁉︎」

 

「んっ‼︎それもそうだ‼︎レッツゴー‼︎」

 

「レッツゴ…うわわわわわわ‼︎」

 

相変わらず飛ぶ前にガタガタ言う二式大艇は、基地に向かって飛び立った

 

飛び立ってしばらくすると自動操縦に切り替え、リクライニングを倒し、秋津洲が飲んでいたであろうラムネを口にした

 

「レイ」

 

「なんだ⁇」

 

「とっきーが何でレイに懐くか分かったよ」

 

「そりゃあ俺の包容力の高さだろ⁉︎」

 

「それ自分で言う〜⁇」

 

今度は俺がきそにニヤケ顔を送る

 

「あのね、鹿島はまだレイの事が好きなんだよ。確かにレイとの間に子供が産まれなかったのは、鹿島が拒絶したからだ。それは100%鹿島の所為だ」

 

「それと本件にどんなご関係が⁇」

 

ラムネを飲みながら淡々と話す

 

「鹿島がレイを好きな影響が時津風に遺伝したんだ。だから棚町さんに懐かないのにレイに懐くでしょ⁇」

 

「それホントか⁇」

 

「うん。鹿島は棚町さんの事をホントに好きだから子供も出来た。だけど、まだどっかでレイへの思いも生きてたんだよ、きっと」

 

「ホンットアイツは自分勝手だな…」

 

「でもさ、不思議だよね。朝霜ちゃんとかはあんまり鹿島を好きじゃないよね⁇」

 

「お前、俺がまだ鹿島を好きだと思ってんのか⁉︎」

 

「うん」

 

「いいかきそ」

 

「ん⁇」

 

俺はシートベルトを外し、きその頭を後ろに向けた

 

「あそこにいる放心状態の横須賀を見てみろ」

 

「見てる」

 

「あのオッパイを見ろ。あれに挟まれて死ぬか銃殺刑なら、大体の男はあれに挟まれて死にたい」

 

「鹿島もまぁまぁあるよ⁇」

 

「それに普段ガミガミ言う癖して、案外素直なんだ」

 

「それは鹿島にはないね。鹿島は常に忠実だもん」

 

「それに、自分なりに一生懸命俺に尽くしてくれる。アイツ以上に良い女、今の日本に何人いる⁇」

 

「もういないんじゃない⁇」

 

「そう言う事だ。俺は未だにアイツに逢うと、好きな所が一つずつ増えて行く程に惚れてるんだぞ⁉︎」

 

「何かごめん、疑っちゃって…」

 

「んっ‼︎分かれば宜しい‼︎」

 

本当は全部自分に言い聞かせた言葉だ

 

俺は二式大艇の中で先程一瞬芽生えてすぐ消えた思いを掻き消す為、ラムネを流し込んだ…

 

 

 

 

 

大湊で時津風が産まれました‼︎




時津風…わんわん娘

大湊の棚町と鹿島の間に産まれた娘

鹿島が艦娘なので、産まれて来た時津風も例外無く成長が早い

ひとみといよがたいほうの頭一つ分小さく、時津風もひとみといよと同じ位の大きさ

とりあえず小さい

犬のぬいぐるみが好きで、鹿島に抱っこされている時以外はずっと抱っこしている

何故か棚町に懐かず、レイに懐くのは鹿島の思いが遺伝した為

別に棚町が嫌いではないが、落ち着くのはレイなだけ

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