艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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163話 イカれたメロン(2)

1日目…

 

「無人機の開発はどう⁇」

 

「今回も中々の出来だ。小型だけどミサイルも積める」

 

「…」

 

横須賀と話しながら、夕張のスリを避ける

 

諦めた夕張は元の位置に戻り、作業に入った

 

「今日はここでした〜」

 

作業中の夕張の前に立ち、内ポケットの中を夕張に見せる

 

そこにはちゃんと財布があった

 

「今度は外しませんからね‼︎」

 

 

 

2日目…

 

「梅雨は鬱陶しいな…」

 

今日は雨と言う事もあり、雨天時の対空演習を終え、きそと飲茶”丹陽”に来ていた

 

「左腕痛む⁇」

 

「てるてる坊主が効いてるから大丈夫さ」

 

「うっしっし…あっ、すみません‼︎」

 

丹陽にも夕張が出現

 

座って飲茶を堪能していた俺に、わざとらしくぶつかって来た

 

「大丈夫か⁇」

 

「あっ、はい‼︎すみませんでした‼︎」

 

夕張はそのまま店を出て行った

 

「レイもやるね〜。これは中々思い付かないや」

 

「だろ⁇」

 

きそと二人、出て行く夕張を見てニヤつく

 

丹陽で飲茶を堪能した後、答え合わせに工廠に来た

 

「今日は何処ですか‼︎」

 

「きそ」

 

「はいっ‼︎」

 

きそは腹巻きの中から俺の財布を出した

 

「汚い‼︎」

 

「誰も俺が持ってるとは言ってない」

 

「明日はラストチャンスだよ〜。じゃあね〜」

 

「ぐぬぬ…」

 

 

 

 

3日目…

 

夕張スリチャレンジも最終日

 

両肩にお気に入りの灰色のワンピースを着たひとみといよが乗った状態でチャレンジ開始

 

今日はある事をしようと思う

 

「夕張」

 

「あ、はい‼︎」

 

今か今かと待ち受けていた夕張は、ばりばり言わせていた電極を切り、すぐに俺に駆け寄って来た

 

「ひとみといよが居るから、今日は工廠に入れない。グリフォンの補給と整備、頼んでいいか⁇」

 

「はいはい…え〜っと⁇」

 

夕張はグリフォンの所に行く前に、チラチラ俺達を見ていた

 

昨日の一件もあり、ひとみといよも油断出来ない

 

あのワンピースの下に財布があるかも知れない…

 

「ゆ〜あり⁇」

 

「めおんのにおいしゅる‼︎」

 

「あぁ…制汗スプレーの匂いかな⁇臭い⁇」

 

「いいにおい‼︎」

 

「こおにおいしゅき‼︎」

 

「そっ⁇良かった‼︎」

 

「んじゃ、任せたぞ」

 

「は〜い、了解で〜す‼︎」

 

夕張の腕は本当に勿体無い

 

スリなんかしなくても、充分に稼げる腕を持ってる

 

「えいしゃん、す〜ぴゃ〜みゃ〜けっろいきたい‼︎」

 

「ひとみもいきたい‼︎」

 

二人共、マークに貰ったピヨちゃんのお財布をワンピースの中に入れている

 

さっきからたまにチャリチャリ音がしているので、隊長か貴子さん辺りにお小遣いでも貰ったのだろう

 

相変わらずひとみといよは子供用のカートを引き、俺はその背後を行く

 

「何買うんだ⁇」

 

「じゅ〜しゅかう‼︎」

 

「おやつもかう‼︎」

 

ここで面白い事が起きる

 

飲み物は二人共同じ、乳酸菌飲料

 

だが、買うお菓子が違う

 

ひとみはフルーツグミ

 

いよはソフトスルメを選んで来た

 

双子でも好みは違う様だ

 

「えいしゃんなにすう⁇」

 

「何だ⁇俺に買ってくれるのか⁇」

 

「ひとみたちがかったげう‼︎」

 

二人はドーンと胸を張っている

 

どうやら、ここは二人に甘えた方が良いみたいだ

 

「なら、俺もジュースとお菓子にするかな⁇」

 

二人が引いているカートの中に、コーラとチョコビスケットを放り込む

 

二人共俺が放り込む品を目で追い、同じ動きをする

 

「こえにすう⁇」

 

「二人でレジ行けるか⁇」

 

「「いけう‼︎」」

 

二人共意気揚々とレジに向かって行った

 

「こえくらさい‼︎」

 

「おかねはあう‼︎」

 

「ピッてするから待ってね〜」

 

今日は能代がレジ担当だ

 

ひとみがレジを通した品を眺めている最中、いよはピヨちゃんの財布から何かを取り出した

 

「こえもぴってしてくらさい」

 

「あらっ‼︎ポイントカードね⁉︎はいっ、ありがとう‼︎」

 

「くふふっ…」

 

いよはここの店のポイントカードを取り出し、ちゃんとポイントを加算させていた

 

「貴子さんのか⁇」

 

「いよとひとみちゃんのぽいんろかーろ‼︎」

 

「おなまえかいた‼︎」

 

カードの裏を見ると、辛うじてわかる字で

 

”い よ ひ とみ”

 

と、書かれていた

 

たいほうや貴子さん辺りに教わったんだろう

 

「400円です」

 

「100円玉2つあるか⁇」

 

「きんきんきあきあのおかね⁇」

 

いよは500円玉を取り出した

 

「それは500円だ。銀色のお金で、1が1つと、0が2つのお金だ」

 

二人共、財布の中をゴソゴソ弄る

 

「あた‼︎」

 

「こえ⁇」

 

「そっ。もう一つあるか⁇」

 

「につあった‼︎」

 

「ひとみもあった‼︎」

 

「じゃあ、レジのお姉さんに渡してみな⁇」

 

「あいっ‼︎」

 

「ひゃくえんらまにつ‼︎」

 

「はいっ、ありがとう‼︎」

 

能代は笑顔で二人の対応をしてくれた

 

「ありがとうな、能代」

 

「い〜えっ。お子さんですか⁇」

 

「そっ。まだ産まれて数ヶ月だ」

 

「もう歩いてるんですか⁉︎」

 

「能代もじきに分かるさっ。じゃあな」

 

「のしろんばいば〜い‼︎」

 

「のしろんあいがと〜‼︎」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

スーぴゃ〜マーケットを出て、繁華街にあるベンチに座り、買ったお菓子やジュースを食べる事にした

 

「あいっ‼︎」

 

「あいっ‼︎」

 

いよからコーラ

 

ひとみからチョコビスケットを受け取る

 

「二人共ありがとうな⁇」

 

「たいほ〜いってら。えいしゃんとわけわけすうって‼︎」

 

「たかこしゃんいってら。えいしゃんのもかったげてって‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

「頂きます‼︎」

 

二人は外でもちゃんと頂きますと言ってからお菓子とジュースを食べ始めた

 

 

 

 

「ごちそうさあれした‼︎」

 

「ごちそうさあれした‼︎」

 

「ごちそうさまでした‼︎」

 

二人共お菓子は食べ終えたが、飲み物は半分近く残っている

 

その飲みかけのペットボトルを二人共背中に挿した

 

「つえた〜い‼︎」

 

「えいしゃんもすう⁇」

 

「こうか⁇うひっ‼︎」

 

確かに冷たい

 

だが、ヒンヤリしていて、蒸し暑い今の時期にはピッタリだ

 

「さっ、グリフォンの所に戻るか」

 

ひとみといよをまた両肩に乗せ、工廠へと戻って着た

 

「うんたった〜うんたった〜」

 

「あんあんあ〜」

 

ひとみといよは鼻歌を歌っている

 

よっぽど楽しいみたいだ

 

「ただいまっと」

 

「たらいま‼︎」

 

「かえってきたお‼︎」

 

「あっ、お帰りなさい‼︎弾薬と燃料の補給、完了してますよ‼︎」

 

夕張は丁度グリフォンのタラップを降りて来ていた

 

「グリフォン。ひとみといよに動画でも見せてやってくれるか⁇クーラーも入れてな⁇」

 

《オッケー》

 

ひとみといよをグリフォンの助手席に乗せ、モニターで動画を見させる

 

「どうだ⁇ちゃんとスレたか⁇」

 

「スる所か、今日は居なかったじゃないですか」

 

「ちゃんとグリフォンのキャノピー見たか〜⁇」

 

「キャノ…あーーーっ‼︎」

 

今日はグリフォンのキャノピーの端っこに、財布を貼り付けておいた

 

それも、ちょっと探せばすぐに分かる場所にだ

 

「残念だな。今日は簡単にスレたのに」

 

「ぐぬぬ…」

 

「もうスリなんか止めろ。その腕で充分稼げるだろ⁇」

 

「…はいっ」

 

「良い子だ」

 

ちゃんと反省した夕張の頭を撫でる

 

「そういやお前、歳いくつだ⁇」

 

「マーカスさんより一回り下位かと思います」

 

「一回り…中学生位か⁉︎」

 

「多分⁇」

 

「多分って…」

 

「10から先は覚えてません。ボスに拾われたのが10歳です」

 

話を聞くと、路頭に迷っていた時にボスに拾われたらしい

 

それからおおよそ数年…

 

つまり、深海と人間が最初にドンパチやった時後に、夕張はボスに拾われた

 

戦争は何もかも奪うな…

 

「ボスは言ってました。アンタは私達みたいな海賊になっちゃいけないって。横須賀に居る、横須賀の旦那の所に行きなって。それがマーカスさんです」

 

「俺は常にこの基地に居るわけじゃないぞ⁇」

 

「構いません。マーカスさんの娘さんが居ますから、私、結構楽しいですよ⁇」

 

「なら良かった」

 

「えいしゃんまらか〜」

 

「めがねかられんわ〜」

 

「ローマからか⁇」

 

グリフォンのモニターを見る為に、夕張との話を終え、グリフォンに乗った

 

二人の子供の父親の背中を見て、夕張はボソリと呟く

 

「マーカスさん、私、知ってましたよ。キャノピーに財布がある事…」

 

夕張は、彼に抱いてはいけない感情を抱いてしまっていた…

 

この日以降、夕張はスリを止めたという…


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