艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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15話 雀と雄鳥(6)

一息ついて機体から降りると、横須賀君がいた

 

「ぴったり二時間です」

 

「申し分ない機体だな」

 

「さぁ、今度こそベットに…」

 

「ビスマルクに飯食わしてやれ」

 

「え⁇」

 

「ビスマルクに飯食わしてやれって言ったんだ。数日食ってないだろ⁇」

 

「ふっ…」

 

横須賀君は、私を見て鼻で笑った

 

「鼻で笑いやがったな⁉︎」

 

「あ‼︎いや‼︎」

 

「早く行ってやれ」

 

「了解‼︎」

 

横須賀君は走ってビスマルクの元に向かって行った

 

「さて、俺は…」

 

 

 

 

 

テンポの良い曲が部屋に流れ、手元には熱いコーヒー

 

「うん。これでこそ生きてるって奴だ」

 

久し振りに自室に戻った私は、窓際でタバコを吸いながら、コーヒーを飲んでいた

 

空から帰った直後は、何故か飲みたくなる

 

「隊長さん」

 

相変わらずリュックサックを背負ったビスマルクが入って来た

 

私は机に置いてあるブルーベリーケーキを2つ切り、椅子に座った

 

「まぁ食べろ」

 

「いただきます」

 

食べ方も変わってないな

 

まるで、成長した自分の娘を見てるみたいだ

 

「ありがとう、隊長さん」

 

「あんまり心配かけるなよ⁇」

 

「うん…」

 

しばらく無言が続く

 

時間にして数分が経った時、ビスマルクが口を開いた

 

「帰りに見た機体、あれは…」

 

「ステルス機さ。レーダーに引っかからない」

 

「最近の主流はステルスなのね」

 

「そう。何でも見えないのが当たり前の時代なんだよ…」

 

コーヒーを飲み、ビスマルクの顔を見ると、何だか悲しそうな顔をしていた

 

「私、艦娘に向いてないのかなぁ…」

 

「…」

 

「実はね…」

 

ビスマルクは話し始めた

 

砲撃が致命的に下手な事

 

難しい計算が出来ない事

 

料理の方が好きな事

 

「人には向き不向きってのがある。無理する必要は無いよ」

 

「でも、私は…」

 

座ったビスマルクの前にかがみ、彼女の手を取った

 

「お前は…人だ。兵器なんかじゃ無い。もし艦娘に向いていなかったら、違う道を選べばいい」

 

「はは…何言ってるの⁇私は兵器よ⁇あっ…」

 

私は彼女の頭を撫でた

 

「こんな美しい子が、兵器であってたまるか。犠牲になるのは、俺達だけでいい」

 

「私、してみたい事があるの」

 

「何だ⁇」

 

「言わない。でも、いつか教えてあげる」

 

「そっか…」

 

「隊長さん」

 

「ん⁇」

 

ビスマルクが急に唇を合わせて来た

 

「さっきのお礼よ」

 

「…サンキュ」

 

「さっ‼︎私は戻るわ‼︎じゃあね‼︎」

 

扉が閉まる

 

また一人に戻る

 

 

 

 

「さようなら、隊長さん…」

 

隊長さんとのキスは、タバコの味がしたわ…

 

忘れないわ…私

 

ビスマルクのリュックサックの中に、封筒が一つ

 

中には、上層部が書いた除隊の書類が入っていた

 

 

 

次の日の朝…

 

「どういう事だ‼︎ビスマルクを何処へやった‼︎」

 

「えっ‼︎隊長⁉︎」

 

朝から基地に怒号が響いた

 

私は格納庫付近で機体のチェックの指示をしていたが、隊長の声は良く聞こえた

 

「後は任せた」

 

近くに居た士官に書類を渡し、司令室に駆け足で向かった

 

「使えぬ”物”を置いておく程、余裕は無いのでね」

 

時既に遅し

 

隊長はビスマルクに対して除隊を命令した上官の胸倉を掴んでいた

 

「テメェ…」

 

隊長が腰のピストルを抜いた‼︎

 

マズイ、本当に殺る気だ‼︎

 

「隊長‼︎やめて下さい‼︎」

 

「えぇぃ‼︎」

 

二人を無理矢理引き剥がした

 

だが、まだ隊長の手にはピストルが握られている

 

「ビスマルクは物じゃねぇぞ‼︎」

 

「使えぬ奴は物と同じだ‼︎”あれ”はドイツから来た兵器だ‼︎」

 

「兵器なら尚更世の中に放り出した‼︎」

 

「くっ…」

 

「痛い目見ねぇと分からねぇみたいだな…」

 

隊長は再びピストルを構えた

 

私は咄嗟にピストル掴み、隊長の前に立った

 

「隊長。私から説明しましょう」

 

「何だ」

 

「ビスマルクは、自分から社会に出たのです。自分は兵器だが、兵器に向いていない。だから、一度社会に出てみたい、と」

 

「帰って来るのか⁇」

 

私は首を横に振った

 

「恐らくは…もう」

 

「チクショウ‼︎」

 

それからしばらくして隊長は、艦娘を学ぶ為、一から勉強をやり直し始めた

 

私はその間、新しい艦娘を任され、いつの間にか最強の艦隊になっていた…


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