艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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160話 壊された雌鳥(2)

基地に戻って来て、工廠で艤装の点検をしていると、パソコンにメールが届いた

 

メールは北上からだ

 

”本当に治してくれんの⁇”

 

俺は即座にメールを返した

 

”出来る限りの事はしてやる。俺を信じてみるか⁇”

 

”分かった。色々話すからさ、今からそっち行くわ”

 

メールを終えた後、隊長に事を報告しに行く

 

「隊長。俺だ」

 

「開いてるぞ〜」

 

隊長は執務室で、日頃の哨戒任務の資料を纏めていた

 

「ちょっとだけ工廠を閉め切る。北上と大事な話があるんだ」

 

「内緒話は良くないぞ⁇」

 

隊長は笑いながらそう言う

 

「貴子さんをちょっと貸して欲しいんだ」

 

「貴子をか⁇なるほどな…よし分かった。貴子‼︎貴子〜‼︎」

 

「は〜い」

 

執務室から隊長が呼ぶと、食堂に居た貴子さんの返事が聞こえた

 

「…何か熟年夫婦みたいだな」

 

「ふふ…貴子はレイよりちょっと年上なだけだぞ⁇」

 

忘れがちだが、隊長が30ちょっと

 

貴子さんが隊長より幾つか下

 

落ち着いているからかなり年上に見えるが、俺より3つか4つ上なだけだ

 

…言っておくが、鹿島より貴子さんの方が若い

 

そうこうしていると、執務室に貴子さんが来た

 

「レイがちょっと頼みたい事があるらしいんだ」

 

「あら。マーカス君が頼み事なんて珍しい…何かしら⁇」

 

「俺が言ったら、工廠に来て欲しいんだ」

 

「んっ。分かったわ」

 

本題はまだ明らかになっていないので、来て欲しい事だけ貴子さんに頼み、俺は工廠に入った

 

数十分後、基地に一機のT-50が着陸した

 

T-50から降りて来たのは勿論北上

 

北上は隊長達に挨拶をした後、工廠に来た

 

「来てくれてありがとう。掛けててくれ」

 

北上はいつもきそが座っている椅子に座り、俺は基地のシャッターを閉めた

 

「マーカス。遊びで言ってんなら今の内だよ⁇」

 

「いや、本気だ」

 

「…分かった。あんたを信じて話すよ」

 

俺は北上の目をしっかりと見て、彼女の話を聞いた

 

「いやぁ、実はさ〜。あたし、ウィリアムに墜とされる前にも一回墜ちてんだよね〜」

 

「…」

 

「そん時にさ、敵の捕虜になってさ〜…もうメチャクチャにされた…助けを呼んでも、だ〜れも助けてくんないしさ〜…」

 

「北上…」

 

「んで、健吾が助けに来てくれて、帰って来た時にさ…誰の子か分かんない子がお腹に居て、まぁ、堕ろしたたんだわ」

 

「…身篭らなくなったのか」

 

北上は捕虜になった時に、言葉では表せない位に凌辱され、身篭らない体になってしまった

 

ケッコンした今、やはり考えてしまうのは最愛の人との子供…

 

だから北上はひとみやいよを見て悲しい顔をしていたのだ

 

「そゆ事。あたしは話したよ。次はマーカスの番」

 

「分かった。今から検査に移る。良く話してくれたな」

 

「ね〜、ホントに出来んの⁇」

 

「俺を信じろ」

 

「あっ…」

 

何故か北上は黙ってしまった

 

「きそ‼︎カプセルの準備だ‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

きそがカプセルの準備をしている間、俺は北上を診察台に寝かせた

 

「あみ」

 

「えっ⁉︎」

 

「不安か⁇」

 

「…うん」

 

「大丈夫。心配すんな」

 

「マーカスってさ…ホントズルいよね」

 

「何がだ⁇」

 

「こう言う時だけカッコイイの、ホントズルい…」

 

北上は俺の手を握って来た

 

やはり不安なのだろう…

 

「あんさ…今だから言うけどさ…マーカスの事、好きだったよ⁇」

 

「お前もお前だな」

 

「ふふっ…ジェミニがマーカスに惚れた理由が、今分かったよ…マーカスはいつだって助けてくれんだね…」

 

「友達を助けるのに理由は要らん。そうだろ⁇」

 

「…うんっ‼︎」

 

「準備出来たよ‼︎」

 

カプセルの準備を終えたきそが来た

 

「さっ、行って来い」

 

手を離した時、北上は笑顔を見せた

 

俺は健吾が惚れた理由が、今分かったよ…

 

「後は待つだけっ‼︎え〜と…二時間だってさ‼︎」

 

「もう少ししたら貴子さん呼んで来てくれるか⁇俺は健吾を呼んでおく」

 

「オッケー」

 

俺ときそはパソコンの前に戻り、ドリンクバーからコーラを出して飲み始めた

 

「北上さんがね」

 

「ん⁇」

 

きそは北上の悩みをとある人物から聞いていた

 

「健吾さんの子供を、大和さんにお願いしたんだって」

 

「大和に聞いたのか⁇」

 

「うん。大和さんは優しい人だから、大和さんも悩んでたみたい」

 

「悩みの種はこいつでチャラだ。後は健吾次第だ。人の恋路を邪魔するのは…」

 

「呼ばれた時だけ、だっけ⁇」

 

「そう言うこった‼︎」

 

その後、コーラを飲みながらきそはパソコンでゲームをし始め、俺はカプセルの中の北上の様子を見たりと中々慌ただしく過ごした

 

そして二時間後…

 

治療を終えたカプセルから北上が出て来た

 

「終わった⁇」

 

「お疲れさん。最終検査だ。横になってくれ」

 

「おめでとう‼︎」

 

「あ…ありがとうございます…」

 

貴子さんにバトンタッチをし、きその待つパソコンの前に戻って来た

 

「きそ、お前は北上にこれを渡すんだ」

 

内ポケットから取り出したチケットをきそに渡した

 

「何これ」

 

「スカイラグーンの意味深な方の休憩室の回数券だ」

 

「はは〜ん…健吾さんと一緒に渡す⁇」

 

「そうだな」

 

「マーカス君‼︎」

 

貴子さんが帰って来た

 

手元でOKマークを出し、笑顔で帰って来た所を見ると、治療は完了したみたいだ

 

俺は内線で食堂で何も知らずに待っている健吾を呼んだ

 

「マーカスさん、どうしたんです⁇」

 

すぐに健吾は工廠に来た

 

「向こう行ってみ」

 

「はぁ…」

 

何が何だか分からないまま、健吾は北上の待つ場所へ向かう

 

「隊長」

 

「ゴメンね、急に出ちゃってさ」

 

「心配しましたよっ…」

 

北上は診察台の上に座っており、健吾はその横に座った

 

「あたしさ、子供産めないでしょ⁇」

 

「その話は止しましょう…」

 

「マーカスときそちゃんに治して貰ったんだ‼︎」

 

「え…」

 

驚いた表情をし、無意識に涙を流す健吾の横で、北上はお腹をさすっている

 

「だからもう心配しないで‼︎」

 

「…はいっ‼︎」

 

健吾は涙を拭き、北上を思い切り抱き締めた

 

北上は嬉しそうに健吾に手を回し、背中を叩く

 

「そんな幸せそうな二人にプレゼントだぁ‼︎」

 

「一発決めちゃってね‼︎」

 

きそは北上

 

俺は健吾に先程の券を渡した

 

「ありがとっ」

 

「マーカスさん…本当にありがとうございます…」

 

「バッキャロゥ‼︎愛しのハニーの前で泣くんじゃねぇ‼︎泣いていいのはちゃんと北上のお腹から子供が産まれた時だ‼︎分かったら行け‼︎帰りに一発かまして男を見せろ‼︎北上の上に立つまたと無いチャンスだ‼︎」

 

「そ〜だそ〜だ‼︎」

 

「俺みたいに横須賀の尻に敷かれた人生を送りたいか‼︎」

 

「そ〜だそ〜だ‼︎」

 

「マーカスさん…この御礼は必ずします‼︎」

 

「いや、それは止めてくれ」

 

「え⁇」

 

俺は急に真顔に戻った

 

「これはアレンへの御礼なんだ。御礼ならアレンに言ってくれ」

 

「マーカス…」

 

「マーカスさん…」

 

「にゃろうサッサと行け‼︎」

 

「芸術とリア充は爆発だぁ‼︎」

 

俺達はそれぞれ券を渡した背中を押し、それぞれのT-50に押し込んだ

 

「マーカスさん、俺…」

 

「健吾。お前は北上の思いを背負って生きて来た。それを今、北上に返すべきだ。俺が出来るのはここまでだ。後は愛でカバーしな。お前なら出来るさ」

 

健吾の頭を強めに撫でる

 

「はいっ‼︎ありがとうございました‼︎」

 

「よしっ‼︎良い顔だ‼︎行って来い‼︎」

 

俺がT-50から降りると、健吾は飛び立って行った

 

次いで北上のT-50も飛び立つ

 

美しい飛行機雲を残し、二人はスカイラグーンへと向かう…

 

「行ったな…」

 

「うんっ…」

 

しばらくの間、二人の残した飛行機雲をきそと共に見つめていた…

 

 

 

 

 

 

その日、北上と健吾はスカイラグーンを訪れ、健吾はしっかりと北上を抱いたらしい

 

 

 

 

 

 

「北上に”黙って俺の子を産め‼︎”だとか強気にイってイた割には、その後”あみさん、あみさん”とイってイた。男は訳分からんな…」

 

by イキュ牛

 

 

 

 

 

タナトスが横須賀来航するまで後1日になりました


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