艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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題名は変わりますが、前回の続きです


156話 二人のマーくん(1)

息を切らして船着場に着くと、そこにはもう目当ての人物は見当たらなかった

 

「チクショウ‼︎逃したか‼︎」

 

「もうちょっとだったのに〜っ‼︎」

 

二人して地団駄を踏んでいると、ネコミミ付きのフードを被った人が、フーセンガムを膨らませながら此方に来た

 

「ダレカサガシテンノ⁇」

 

「まぁな…」

 

顔は隠しているが、一発で分かった

 

…深海の子だ

 

「ヘェ〜。ハカセニソックリ」

 

「博士⁇」

 

「ソッ。”ヴェア”ノハカセ。イッショニコウドウシテルンダ」

 

「ヴェア…」

 

「スペルはV、E、Aだ」

 

背後から聞こえて来た男性の声に、妙に聞き覚えがあった

 

振り返ると、手にフランクフルトを持った俺ソックリな男性がいた

 

「久しぶりだな、マーカス」

 

「あんたは…」

 

「ヴェアノハカセ。マーク・コレット」

 

「あっ‼︎」

 

名前を聞いて思い出した

 

サラの旦那だ‼︎

 

「うはぁ〜…レイそっくりだ…」

 

まるで自分の生き写しが目の前にいるみたいだ…

 

ホントに似ている

 

強いて言うなら、ホントに少しだけ、俺より老けているのと、ダッフルコートを着ている事位だ

 

「ま、マークさんと呼べばいいか⁇」

 

「何だっていいさっ。マークでも、マークさんでも。それに敬語も使わなくていい」

 

「分かった」

 

「積もる話もあるだろう。どうだ⁇横須賀で飯でも」

 

「あ…あぁ、そうだな」

 

「連絡入れとくよ‼︎」

 

きそに連絡を入れて貰い、俺達は横須賀へと向かった

 

 

 

 

横須賀に着くと、先にマークとヴェアは待っていてくれた

 

「蟹でいいか⁇」

 

「オッケーだ」

 

四人で瑞雲に入り、日向に個室へと案内された

 

「さて…」

 

マークはタバコに火を点けた

 

…吸ってるタバコまで一緒かよ

 

「とにかく礼を言わせてくれ。この戦争を休戦まで導いた事に」

 

「俺だけじゃない。隊長やジェミニ達の手助けがあってこそ出来た事だ」

 

「なるほど…」

 

「俺から先に聞いていいか⁇」

 

「なんなりと」

 

「悪いとは思ったが、機密文書を見た」

 

「君の記録しか書いていなかっただろ⁇」

 

「まぁ…それでだ。書かれていた文書を見る限り、マークは、その…」

 

「死刑になったはず、か⁇」

 

「そうじゃないのか⁇」

 

「なったさ。本国でね」

 

「ヴェアガタスケタ」

 

「まっ。何人かは…な⁇」

 

「なるほど…」

 

要は殺して生き延びた、と言う事だ

 

「生きる為に殺す…食うのと一緒だろ⁇」

 

マークの目は、最初見た時より鋭くなっており、俺達二人を睨み付けていた

 

「人の事言えないのが辛い…」

 

「な〜んてな‼︎ちょっと気絶させただけさ‼︎」

 

「ヴェアモソンナコトシナイ」

 

「んで、今の今までどこに居たんだ⁇」

 

「今はこうしてヴェアと各国を渡り歩いて、資源の手配やら休戦の手続きをしてる。マーカスの知り合いにも会ったぞ⁇ミサイル君だっけ⁇」

 

「…ミハイルじゃねぇのか⁇」

 

「あぁ、そうそう。そんな名前だ」

 

「カニガキタ」

 

ヴェアはガムを紙に包んで捨て、蟹鍋に箸を入れた

 

ヴェアを見て、俺達も蟹鍋を食べ始める

 

「これからも世界を旅するのか⁇」

 

「いや…もうある程度の主要国は回った。そろそろ落ち付きたいな…」

 

「それでここ数日横須賀に⁇」

 

「そんな所だ。ヴェアと住める様な場所があれば良いんだが…」

 

「じゃあじゃあ、横須賀に住んだら⁉︎」

 

それはきその一言だった

 

「横須賀に、か⁇」

 

「話を聞いてて分かったんだ‼︎孫もいるよ‼︎」

 

「ジェミニの子か⁇父親は誰だ⁇」

 

「レイ‼︎」

 

「そうかマーカスか‼︎君なら大丈夫だろ。どうだ、君に似てるか⁇」

 

マークの顔がニコやかになる

 

ついでにヴェアの顔も解れている

 

「ジェミニに似てたり、俺に似てたり…色々いるさ」

 

「楽しみだな…会えるといいなぁ…」

 

「飯食い終わったら会いに行こう。きっと子供達も喜ぶ」

 

「…マーカス」

 

「んあ⁇」

 

またマークの顔が険しくなる

 

「サラは…元気にしているか⁇」

 

「マークの帰りを今か今かと待ってる」

 

「そう…か…」

 

何故かマークの顔は浮かばれない

 

自分の妻に会うのが嬉しくないのだろうか⁇

 

「マーカス…その…多分当たってると思うんだが…」

 

「なんだ⁇」

 

「サラは…君の前で自殺しかけたりしていないか⁇」

 

「女の秘密は守る主義だ…すまん」

 

「なるほど…本当に迷惑を掛けたみたいだな…」

 

俺の返事はほぼ答えそのものだったが、マークは察してくれたみたいだ

 

「理由はそれじゃないだろ⁇」

 

「ふふ…何もかも見抜いてる、か⁇」

 

「なら、俺も多分当たってると思うんだが〜で言うぞ⁇」

 

「よし…」

 

俺はマークに耳打ちした

 

「…正直に言ったら、墓場まで持って行く…ヴェアを抱いたろ⁇」

 

「…何故分かった」

 

「…あれだけ妙な色気を出してる子とずっといりゃあ、誰だってそうなる」

 

二人してヴェアを見つめる

 

黒いパーカーに身を包み、フード部分にはネコミミ

 

そしてパーカーを着ていてもそこそこの主張をする胸

 

下は半ズボンなのか、パーカーを下まで下げると履いていない様にも見える

 

一見チャラそうに見えるが、フードの中からは顔立ちの良い、真っ白な肌の女の子が出て来た所を見ると、そういった感情を持っていなかったとしても、ジワジワと狂わされるに違いない

 

「…サラには黙っておいてくれ」

 

「…オーケー。男と男の約束だっ」

 

「ヴェアノワルグチカ」

 

「いんや。ヴェアは可愛いなって話さ」

 

「フゥン…」

 

ヴェアは素っ気ない態度を取るが、何処と無く照れている様にも見えた

 

話に集中していて、俺は蟹を食べるのを忘れていた

 

そろそろ食べよう

 

「あれ⁇」

 

「もう食べちゃった…」

 

既にきその前には大量の蟹の殻が置いてある

 

「サッサトタベナイホウガワルイ」

 

そう言うヴェアは蟹を殻ごと食べており、咥えた蟹をパキパキ言わせている

 

「…まぁいい。どうする⁇ジェミニに会うか⁇」

 

「頼んでいいか⁇」

 

「よしっ、じゃあ行こう」

 

瑞雲を出て、横須賀が居るであろう執務室に向かう

 

「あ、そうだ‼︎マークさん‼︎ちょっと先に入ってみてよ‼︎」

 

執務室の前に来ると、何故かきそがマークを先に執務室に入れようとした

 

「先にか⁇」

 

「僕達は後から行くから‼︎」

 

「…分かった」

 

「にししし…」

 

きそが何か企んでいる

 

マークは意を決して、執務室の扉を開けた

 

「あっははははは‼︎」

 

横須賀はリクライニングを倒し、ポテチをつまみながら、ホームシアターでコメディ映画を見ていた

 

怠惰丸出しだ

 

あれじゃあ妊娠しても気付かないハズだ…

 

俺達は扉のスキマから二人の様子を伺っていた

 

「あらレイ‼︎子供達は学校よ⁇」

 

「お前に逢いに来た」

 

「あらっ…嬉しいじゃない」

 

横須賀はホームシアターを消して明かりを点け、リクライニングを戻してマークを見つめる

 

「ご飯でも食べに行く⁇」

 

「食べて来た」

 

「気付かないモンだね…」

 

「ハカセトマーカス、ホントニニテル」

 

ヴェアも興味津々で執務室の中を見る

 

「サラはどうした⁇」

 

「お母さんは明石と一緒に研究室にいるわ」

 

「そっか…」

 

「なぁに⁇レイ今日変ね⁇あっ…」

 

マークは横須賀の顔を掴み、マジマジと見つめる

 

「そっ…そんなに見られると照れるんだけど…ていう、ちょっと老けた⁇」

 

「レイ、レッツラゴーだ‼︎」

 

「誰が老けただって⁉︎」

 

「えっ⁉︎レイが二人⁉︎どういう事⁉︎アンタまさかクローンでも造ったんじゃないでしょうね⁉︎」

 

「んな技術無いわ‼︎」

 

「いやあるよ⁉︎あるけど違うよ⁉︎」

 

きそのツッコミで、横須賀はちょっとずつ気付き始める

 

「ちょっと待って‼︎どっちが本物のレイよ‼︎」

 

「お前の旦那は向こうだ。ジェミニ」

 

「じゃあアンタ誰‼︎」

 

「お前のお父さんだっ‼︎」

 

マークはそう言って、横須賀の頬を引き延ばす

 

横須賀は驚いた表情をした後、目をウルウルさせ始めた

 

「ヤダ…レイソックリじゃない…」

 

「自分でもビックリしてるよ。他人の空似ってのはあるんだな」

 

横須賀は目に涙を溜めるが、驚き過ぎて涙を流せないでいた

 

「サラは研究室って言ってたな⁇」

 

「そ、そうよ…」

 

「マーカス。案内してくれるか⁇」

 

「はいよっ」

 

「ヴェアモイク」

 

「僕はお母さんといるよ‼︎」

 

きそと横須賀を執務室に残し、俺達は研究室に向かう

 

「ソレニシテモ、ハカセトマーカスハホントニニテルナ…ヨコニナラベラレタラ、ヴェアモワカンナイカモ」

 

「そういや、マークは本当に若いな⁇今幾つだ⁇」

 

「さぁな〜40から先は覚えてない。深海棲艦になると、年を取らなくなるからな」

 

「…なんだと⁇」

 

マークはサラッと物凄い事を言った

 

深海棲艦になると年を取らなくなるのも知らなかった情報だが、それよりも…

 

「実験するなら自分から。私のモットーだ。お陰で不死身に近い体を手に入れた」

 

「俺と一緒か…」

 

「いや。少し違う。私はただ単に死に難い体になっただけ。マーカスは全身を深海化出来る」

 

「とりあえず、助けてくれてありがとう」

 

「ヴェアに言ってくれ。君を連れ帰ったのはヴェアだ」

 

「ヒメノタノミダ。シカタナイ」

 

「姫⁉︎」

 

「チュウスウセイキ」

 

「あ…そう言えば、俺を深海にしたのは…」

 

「君の体のベースは中枢棲姫らによって出来上がっていた。私はちょっと手を加えただけだ」

 

「あいつにも感謝しなくちゃな…ここだ」

 

研究室の前に着いた

 

研究室はガラス張りになっており、廊下からでも中が伺えた

 

「サラ…」

 

明石と話していたサラはマークに気付き、嬉しそうに笑った後、小走りで此方に来た

 

「マーくんっ‼︎」


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